「ワグネル」、一時反乱 ワグネルとは? 反乱で注目された”核”のゆくえ 影響、アフリカにも飛び火

アフリカ
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David PetersonによるPixabayからの画像

 ロシアで起きた民間軍事会社「ワグネル」の武装蜂起は、しかし1日で収束する。「厳罰に処する」と強調したロシアのプーチン大統領は、方針を覆し、ワグネルの創設者プリゴジン氏の国外追放で妥協した。

 その後、独立系メディアなどの報道で、今回の”反乱”の舞台裏が明らかに。

  24日午前7時40分(モスクワ時間)ごろ、プリゴジン氏は、通信アプリに「司令部を掌握した。軍用飛行場も押さえた」とする動画を投稿。

  前日の23日夜には、首都モスクワに向け、部隊を北上させる「正義の行進」を開始すると公表。

 一方、独立系メディア「メドゥーサ」によると、大統領府に近い関係者の話として、プーチン政権側はこの直後、ワグネル側との交渉を開始。

  またコメルサント紙によると、ロシア当局がウクライナ侵攻におけるワグネルの功績に配慮し、内務省と国家親衛隊の部隊にロストフナドヌーの司令部を離れ、ワグネルとの衝突を避けるよう命じたという。

  しかしながら、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ワグネルの武装蜂起は、情報漏れが起きるなど”行き当たりばったり”の計画であったようだ。

  ウォール・ストリート・ジャーナルによると、プリゴジン氏は当初、ロシアのショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の拘束を計画したいたという。

 2人は今月下旬にウクライナと国境を接するロシア南部を視察する予定だったといい、プリゴジン氏はその機会を狙っていたというのだ。

  しかし、実行予定日の2日前にロシア連邦保安庁(FSB)がこの計画を把握。情報が漏れたことに気づいたプリゴジン氏は急遽計画を変更して23日に武装蜂起を宣言し、翌日に南部ロストフ州の州都ロストフナドヌーの軍管区司令部を制圧した。

  プリゴジン氏は武装蜂起の意思を一部のロシア軍幹部に伝えていたと見られており、ロシア軍が加わることで反乱が成功すると見込んでいた模様。だがその見込みは外れ、軍からの造反者は出る気配はなかった。

 その結果、ワグネルの反乱は失敗に終わる。

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ワグネルとは

 ワグネルは2014年にプリゴジン氏により設立。ピーク時には、約5万人の雇い兵(その多くが元囚人)を抱え、現在、ウクライナで戦っている1。ただ、ワグネルの法的な地位は不透明であり、事実、ロシアでは雇い兵は厳密には違法。

 ワグネルはロシアの正規軍とは独立して活動しており、最近になり、軍との正式な契約を結ばせるロシア当局の要求を、しかしワグネルははねつけた2

 現在62歳となるプリゴジン氏は、ロシアで実業家としても活動、しかし前科がある3

 プリゴジン氏が経営するケータリング会社とロシア大統領府との契約や、プーチン大統領との長年の関係から、プリゴジン氏は、「プーチン氏のシェフ」と呼ばれている。

 またアメリカ当局は、プリゴジン氏が2016年に米大統領選にインターネット空間で何らかの”干渉”をしていたと指摘する。

 2022年に入り、プリゴジン氏は長年にわたり否定してきたワグネルとの関係、および創設者であることを認めた4

 長い期間、「プーチン大統領の右腕」の一人としてみなされてきたプリゴジン氏は、しかしワグネルの戦闘員の死者が増加する中で、ロシア軍の指導部との確執を深めてきた。

 プリゴジン氏は数カ月前から、国防省がワグネルの部隊を十分に支援していないと批判、SNS上に挑発的な動画を頻繁に投稿する。

 とくに5月には、弾薬を入手できなければ、部隊を作戦から撤退させると脅したものの、のちに撤回した。ただ、プーチン大統領はワグネルを高く評価しているという。

 1年4カ月におよぶ侵攻でのロシア側の正確な犠牲者数は不明だが、ワグネルも多数の兵士を失っており、その多くがほとんど訓練を受けておらず、武装も不十分なまま。

 しかしワグネルの部隊はロシアの地上攻勢に重要な役割を担い、220日余りにわたる戦闘のすえ、5月にウクライナ東部の都市バフムトを制圧した。

”ワグネル反乱”で注目されたロシアの核のゆくえ

 ワグネルの武装蜂起により西側諸国が最も懸念したことは、ロシアの”核”のゆくえだ。

 1991年にソ連時代には、共産党強硬派が起こしたクーデター未遂事件の際、最も懸念されたのが、

「ソ連の核兵器が果たして安全に保たれているのか」
「悪意を抱く軍の指揮官が弾頭を盗み出すのではないか」


という点であったと、複数の元米情報当局者は述べる。

5 

 ほか、元CIA高官でモスクワ駐在部門のトップだったダニエル・ホフマン氏は、

「核兵器を誰が管理しているのか知りたい。テロリストや(チェチェン共和国首長のラムザン)カディロフ氏のような悪漢が背後にいて、利用しようとするかもしれないとの不安があるからだ」

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と解説した。

 ロシアがもつ核兵器の安全性は、常にアメリカ政府にとって悩みの種だった。各情報機関は、今年の「年次脅威評価報告」で、

「1990年代以降、ロシアの核施設における装備の保護や管理、対外説明状況は改善しているものの、依然として核物質の安全保障は懸念要素の1つだ」

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と結論づける。

 現在、米当局者が最も懸念する深刻なパターンとしては、ワグネルの反乱により露呈した対ウクライナ戦争についてのロシアの内部分裂が、一部の核兵器使用の決定権をロシア軍内部の「ならず者たち」によって掌握されてしまうシナリオ8

 要は、アメリカとその同盟国は、新たな権限を持つ勢力が核兵器を支配下にもつことを、最も心配している。ロシアの核弾頭保有数は世界最大で、米国科学者連盟の推定では昨年時点で5977個。

 これは米国の推定保有数5428個を上回る数だ。

 しかし昨年8月、ロシアが新戦略兵器削減条約(新START)に基づく相互査察活動停止を米国に通告したことで、このような情報収集はより難しくなった。

アフリカに飛び火

 ワグネルの反乱は、アフリカ諸国にも影響を与えそうだ。ワグネルは、ロシア軍の「別動隊」として、アフリカ諸国の内戦に介入してきた経緯がある。

 しかし今後は、プーチン政権の後ろ盾を失い、思うような行動をできない可能性が高い。

 一方で、ワグネルは各国での地下資源の利権を確保しており、独自の資金源を用いてこれからも活動を続けることができるという見方もある9。ロイター通信などによると、ワグネルはこの10年間で、アフリカの少なくとも8カ国で強固な関係を築いてきた。

 とくに2020年と2021年にクーデターが勃発したマリで、政権を握った軍政と関係を築く。

 あるいは、中央アフリカで政府と武装勢力が入り乱れる内戦状態が続く中、ワグネルは2018年以降、軍事顧問団などの名目で推定1500人規模の部隊を政権側に派遣している。

 リビアに内戦でも、2019年ごろから、東部を拠点とするハフタル司令官の側に最大約2千人とされる雇い兵を戦闘に送り込む。

 4月にスーダンで起きた軍と準軍事組織の戦闘でも、ワグネルは準軍事組織の側を支援してきたとされる。

 マリには金、中央アフリカにはダイヤモンドやウラン、リビアには石油が豊富にある10

 ワグネルによる各国への軍事介入にはこうした地下資源を獲得する側面とともに、ワグネルを介してロシアのアフリカへの影響力を持続させる意味合いもあった。

 しかし、ワグネルが今後、政権の意向を離れて行動することも考えられる。

 プリゴジン氏自身が最終的にアフリカを拠点にするとの観測も根強い。また当局者の1人は匿名を条件にロイター通信のインタビューに対し、アフリカ諸国の指導者はワグネルを雇うことに消極的になる可能性もあるとの見方を示した11

  1. Sybilla Gross・Andrea Dudik「ロシアのワグネル・グループとは何か、なぜ裏切りだと追及されたのか」Bloomberg、2023年6月26日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-06-26/RWU9O2T1UM0W01
  2. Sybilla Gross・Andrea Dudik、2023年6月26日
  3. Sybilla Gross・Andrea Dudik、2023年6月26日
  4. https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-09-26/sanctioned-putin-ally-says-he-created-russian-mercenary-group#xj4y7vzkg
  5. REUTERS「アングル:ロシアの核兵器管理は正常か、ワグネル反乱で懸念浮上」REUTERS、https://jp.reuters.com/article/nuclear-russia-idJPKBN2YC04F
  6. REUTERS、2023年6月26日
  7. REUTERS、2023年6月26日
  8. REUTERS、2023年6月26日
  9. 佐藤貴生「ワグネル反乱、アフリカに影響 独自の資金源も豊富」産経新聞、2023年6月29日、https://www.sankei.com/article/20230629-RSZYFNNGH5M2XJJOR43CRJ22GE/
  10. 佐藤貴生、2023年6月29日
  11. REUTERS「米、中東とアフリカのワグネル動向を注視 週末の反乱受け」2023年6月28日、https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-wagner-idJPKBN2YD1XN
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