PublicDomainArchiveによるPixabayからの画像
ロシア・モスクワ郊外のコンサートホールに22日夜、迷彩服姿の男数人が押し入り、ロックグループの公演前の観客らに向け、自動小銃を乱射するテロ事件が発生。
男らは、無差別の銃撃を行った後、建物にガソリンで火を付けて火災を発生され、26日時点で、139人が亡くなった。
プーチン大統領は23日にビデオ演説を行い、「野蛮なテロ」と非難。実行犯4人を含む11人を拘束したとし、共犯者全員を特定して処罰すると強調する1。
一方、過激派組織「イスラム国」(IS)は23日、戦闘員4人が、
「多数のキリスト教徒を襲撃し、数百人を殺傷した」
2
との犯行声明を系列のメディアで発表。
連邦捜査委員会は容疑者4人が、ロシアが侵攻するウクライナとの国境のロシア西部プリチャンスク州で拘束したと発表。プーチン大統領は実行犯らが、ウクライナに越境する「窓口」が用意されていると主張3。
対して、ウクライナ外務省は、否定した。
他方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は26日、テロ発生直後にプーチン氏の要請でロシアとの国境地点を封鎖し、実行犯の入国を防いだと語る4 。
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ロシアで発生した主なテロ
5
1999年9月
モスクワの集合住宅で爆発が相次ぎ、計200人以上が死亡。
2002年10月23日~26日
チェチェン独立派がモスクワの劇場を占拠、特殊部隊が人質を解放したものの、約130人が死亡。
2004年
2月6日
モスクワの地下鉄で爆発、40人以上が死亡。
8月24日
モスクワを離陸した旅客機2機が同時爆破、墜落。乗客乗員約90人が死亡。
9月1日~3日
チェチェン独立派武装勢力が北オセチア共和国のベスランの学校を占拠。児童ら330人以上が死亡。
2009年11月27日
北西部で旅客列車「ネフスキー急行」の一部列車が爆発し、脱線。28人死亡。
2010年3月29日
モスクワの二つの地下鉄で連続爆破。40人以上が死亡。
2011年1月24日
モスクワ郊外のドモジェドボ国際空港で爆発。37人が死亡。
2017年4月3日
サンクトペテルブルクの地下鉄で爆発。15人死亡。
2024年3月22日←今回
モスクワ郊外のコンサートホールで銃乱射。
IS系組織が犯行?
アメリカの安全保障当局は、今回の犯罪行為について、過激派グループ「イスラム国」(IS)に連なる「ISホラサン州」の関与を疑う。
「スー・ファン・グループ」というアメリカの研究機関のコリン・クラーク氏は、米紙ニューヨーク・タイムズで、「ISホラサン州はこの2年間、ロシアを標的にしていた」 とし、ソ連軍が過去に侵攻したアフガニスタンやシリアを挙げ、「多くのイスラム教徒の血を流した」とする6。
ISホラサン州は、過去にも大規模なテロ行為を行ってきた。
例えば、2021年8月には、アフガニスタンのカブール空港近くで発生したテロで米軍13人を含む180人が亡くなったテロ行為に加担したり、今年1月のイラン南東部アルマンでシーア派の集まりを狙った自爆テロで約90人が犠牲になった攻撃への関与も。
これらの事件で、ISホラサン州は犯行を認めている。
アメリカ国務省によると、ISホラサン州はパキスタンの過激派やタリバンの元メンバーで構成されており、2015年にISへの忠誠を誓う。
この組織はイスラム教スンニ派の信者らで構成され、キリスト教徒やユダヤ教徒、さらにはイスラム教シーア派の人々にも敵意を持っている7。
ロシア、隙を突かれ?
ロシアでは、近年、目立ったテロは起こらなかった。しかし、今回、ロシアはウクライナ侵攻に注力させるあまり、隙を突かれた形に。
ロシアは、2022年2月にウクライナ侵攻を始め、2年以上が経過。前線には軍の部隊だけでなく、本来は国内で治安維持を担う「国内親衛隊」なども前線へと投入されている8。
プーチン政権の戦争最優先の方針が、治安面で不十分な態勢を作った可能性も。
昨年6月には、民間軍事会社ワグネルを率いるプリゴジン氏が武装蜂起、反乱部隊を率い、モスクワ方面へと進軍。
またロシアのニュースメディア「SHOT」は、拘束された4人のテロ容疑者のうち2人は、事件の約2週間前から5回以上、事件現場を下見に訪れていたと報道。しかし、当時は、不審な行動とはみなされなかった9。
アメリカは「コンサートなど大規模な集会」を狙ったテロ計画があるとロシアに事前に警告していた。
だが、治安維持を担う露情報機関「連邦保安局」(FSB)は、ロシアの侵略に抵抗するウクライナ側の破壊工作への対処や反政権活動家の監視もを担当しており、警告が生かされなかった。
- 共同「コンサート会場でテロ」西日本新聞、2024年3月24日付朝刊、1項
- 共同、2024年3月24日
- 共同、2024年3月24日
- 共同「モスクワ銃乱射テロ ウクライナ関与「確認」 ロシア連邦保安局長官」産経新聞、2024年3月27日、https://www.sankei.com/article/20240327-JMTCIPZ3J5NYLMHOAGDDTF6ITM/
- エルサレム=共同「IS系組織 ロシア標的」西日本新聞、2024年3月24日付朝刊、3項
- エルサレム=共同、2024年3月24日
- エルサレム=共同、2024年3月24日
- 真野森作「戦争優先の露 隙突かれ」毎日新聞、2024年3月24日、3項
- 読売新聞オンライン「モスクワテロ、当局対応に不手際の可能性が次々浮上…容疑者下見を見逃す・治安部隊は到着遅れ」2024年3月28日、https://www.yomiuri.co.jp/world/20240328-OYT1T50007s