ドイツで極右勢力が政権転覆未遂　ドイツ帝国復活を目指す　 西欧で最も極右暴力のレベルが高いドイツ

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　ドイツの検察当局は、国家の転覆を目指す国内のテロ組織に関わっていたとして、退役軍人など25人を逮捕した。

　この組織が、連邦議会の議事堂に押し入る具体的な計画を立てていた疑いもあるとして、さらに捜査を進める方針。

 　7日、連邦警察はおよそ3000人におよぶ警察官を投入し、ドイツ国内の各地とイタリア、オーストリアの、合わせて130カ所以上で、テロ組織の摘発に乗り出す。

 　検察の発表によると、「ハインリヒ13世」と名乗る男と退役軍人が首謀者とみられる。ほか、昨年まで連邦議会の議員を務めていた現職の裁判官も逮捕された。

 　連邦検察庁は、声明で、2021年11月までに組織された「ライヒスビュルガー」（帝国市民）と呼ばれる運動に推定５０人が加わり、政府転覆と独自の政府の樹立を図ろうとしていたと発表¹。

 　構成員らは、ドイツがいわゆる「ディープ・ステート＝闇の政府」に支配されているという陰謀論を信じ、去年11月ごろから国家の転覆と独自の政府の樹立を目指し、会合を重ねていたという。

 　さらに組織は、内閣のような部門や、軍事部門も設けられ、ドイツ軍や警察の関係者も勧誘²していた。

どのような集団なのか？

　クーデターの計画を、ドイツの治安当局は真剣に受け止める。その結果、国内にとどまらず、オーストリアやイタリアにも及ぶ、180カ所を3000人の警官が家宅捜索、25人を逮捕。

 「ほとんど類を見ないほど大規模な一斉摘発だった」

³

 とも。

 　ただ、組織の実情といえば、スパイ・スリラーか、あるいはそのパロディーの登場人物一覧にすぎかかった。

　さまざまな陰謀論を信じる71歳のドイツ貴族。はるかに年下のロシア人の恋人（彼女はロシア政府に、ドイツ国家転覆を支援してもらおうとしていた）。

　腕利きの料理人。ドイツの精鋭特殊部隊の現役関係者。元警察幹部。ベルリンの裁判官。そして、極右政党「ドイツのための選択肢（AfD）」の元連邦議会議員。

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 　しかしながら、ドイツの治安当局が本気で対応したのは、複数の元軍関係者が集まり、軍事組織を立ち上げようとしていたから。

　捜査当局が「リュディガー・フォン・P」と名前を公表した人物が、この軍部のトップで、連邦議会襲撃の責任者であった。

 　議事堂を襲撃し、議員たちの両手を縛って人質にとり、警察の動きを封じる計画だったとも。

ドイツ帝国復活を目指す　ロシアとの関係も

　組織が統制された組織ではないことも、不気味さを増す。

 　集団たちは、現代ドイツは、第2次世界大戦の敗北により「外国に強要されて形成された」として民主主義体制の権威を認めず、ドイツ帝国の復活、あるいは自治を目指すという極右思想の人間たちが、”緩やかに”連帯する組織。

 　ドイツ国内では1980年代から活動していたものの、そのトンデモぶりで明らかに「変人集団」扱いされていた。しかし、危険な集団であったことも事実。

 　武力による権力の奪取を語るメンバーも多くいて、銃も保有していた。2016年にはメンバーの自宅で警官隊と銃撃戦になり、警察官1名が死亡している。

 　ライヒスビュルガー自体は緩やかな連携を取り、正式メンバーというかたちはとっていないが、このグループに連なる極右ネットワーク全体の勢力は２万数千人。

　そして、その５％程度、すなわち1000人ほどのコアなメンバーが、暴力的な過激派人脈という⁵。

 　メンバーのなかには、ロシアのウクライナ侵攻を支持する言動も多い。世界的な傾向でもあるが、排他的・差別的な民族ヘイトや宗教ヘイトの拡散をロシア情報機関は欧米社会分断のために仕掛けている。

 西欧で最も極右暴力のレベルが高いドイツ

 
　欧州で最も安定した民主主義国家であると称賛されてきたドイツであるが、しかし、「西欧で最も極右暴力のレベルが高い」というのは、シンクタンク「英王立防衛安全保障研究所」（RUSI）の研究アナリスト、ジュリアナ・スース氏。

 　昨年の3月には、「ドイツで芽生えたロックダウン（都市封鎖）否定派と極右の同盟関係」と題して「帝国市民」について警鐘を鳴らす⁶。その中で、

 「極右運動がコロナウイルスやロックダウンの否定派と手を結んでいる。これは不吉な傾向だ」

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とする。

 　極右勢力とロックダウン否定派との結びつきが表面化したのは2020年8月のコロナ抗議集会。ドイツ連邦議会議事堂を襲撃しようとした300人以上のデモ参加者を警察官が推し止める。

 　スース氏は

 「極右勢力はマスクやロックダウン、ワクチン否定派の動きを利用して自分たちの主張を押し通そうとし、新しい信奉者を獲得している。政府に対する一般的な不満やデモ参加者の反体制的な感情は過激派イデオロギーを広めるのに好都合だ」

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 と指摘している。

1. CNN「ドイツ、政府転覆計画容疑で極右過激派２５人逮捕　元議員も」Yahoo!ニュース、2022年12月8日、https://news.yahoo.co.jp/articles/64d918a0a4325ec61e13cc4aa8b69666c5046218
2. NHK NEWS WEB「ドイツで国家転覆目指すテロ組織摘発 退役軍人など25人逮捕」、2022年12月8日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221208/k10013916681000.html
3.  カティヤ・アドラー「ドイツ国家の転覆を画策、どういう集団なのか」BBC NEWS JAPAN、2022年12月12日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63932787
4. カティヤ・アドラー、2022年12月12日
5. 黒井文太郎「ドイツの「トンデモ・クーデター」未遂の深層…陰謀論とロシア工作と極右思想の親和性に警戒せよ」FRIDAY DIGITAL、https://friday.kodansha.co.jp/article/279922
6. 木村正人「独政府転覆を企てた「ハインリヒ13世」と極右組織「帝国市民」とは何者か」JBpress、Yahoo!ニュース、2022年12月14日、https://news.yahoo.co.jp/articles/23c885ce4eb5ee86463a71cb3baef376fe83ccfb?page=1
7. 木村正人、2022年12月14日
8. 木村正人、2022年12月14日