アメリカのFDIC(連邦預金保険公社)などの米金融当局は1日、経営への不安が高まっていたファースト・リパブリック銀行経営破綻したことを明らかに。アメリカでは史上2番目の規模の銀行破綻となる。
当局が、30日までに入札を実施して、大手銀行のJPモルガン・チェースが最終的に買収することで合意。預金や業務が引き継がれ、5月1日朝からは、店舗で通常どおりの業務が始まっている。
米銀行の破綻は、今年に入り3行目。今年3月のシリコンバレー銀行の破綻を機に広がったアメリカの中堅銀行への信用不安が、まだ収まっていないことが浮き彫りに。
ファースト・リパブリック銀行の資産規模は13日時点で、全米で14位の2292億ドル(約31兆円)1で、シリコンバレー銀行を上回る。2008年のリーマンショック時に破綻した、ワシントン・ミューチュアルに次ぐ規模の破綻。
シリコンバレー銀行の破綻後、アメリカでは中堅銀行では預金の流出が相次ぎ、ファースト・リパブリック銀行に対しては、JPモルガンなどの大手金融機関11社が協調して支援に乗り出していた。
しかしながら、ファースト・リパブリック銀行が4月24日に発表した1~3月期の決算で、預金が3カ月間で4割も流出していたことが判明。再び株価が下落していた。
アメリカの金融をめぐる動き
2023年3月8日
米シリコンバレー銀行(SVB)が保有債券の売却損を発表。
10日
シリコンバレー銀行が経営破綻
12日
米シグネチャー銀行が経営破綻。
アメリカ金融当局が金融機関の新たな資金繰り支援策を発表。
16日
米大手金融機関が経営難のファースト・リパブリック銀行に支援として総額300億ドル(約4兆1000億円)の資金を預け入れると発表。
4月24日
ファースト・リパブリック銀行、3月末の預金が昨年末から4割減と発表。
25日
ファースト・リパブリック銀行の株価が急落
28日
FRB(米連邦準備制度理事会)がシリコンバレー銀行の監督不備を認め、金融規制の強化を表明
5月1日
ファースト・リパブリック銀行が経営破綻
SNSが銀行経営のあり方を変えた
シリコンバレー銀行の破綻以降、3行目の破綻は避けようと、さまざまな支援策が講じられたものの、SNSなどのソーシャルメディアも介し、信用不安は急拡大。結果的に破綻した。
1985年設立のファースト・リパブリック銀行は、主に富裕層をターゲットに業績を伸ばしてきた。2018年末には1000億ドル(約13兆6000億円)弱だった総資産は、2022年末には2倍強にまで拡大。
しかし預金保険の対象外となる大口預金の比率は、7割近くに達し、シリコンバレー銀行との類似性が指摘させるとともに、信用不安が直撃する。FRBの急速な利上げにより、保有するローンや債券の価値が不安視されたことも背景に。
「政府はわれわれに協力を求め、私たちは実行した」
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ファースト・リパブリック銀行の買収を決めたアメリカ金融最大手のモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は買収後の声明でこのように語り、政権と足並みを揃えた判断であることを強調する。
しかしながら、今回の結果は誤算だった。
ITが発達した今、ソーシャルメディアの間で口コミ不安が広がり、スマートフォンで簡単に預金が引き出せる時代に。銀行経営の在り方が根本的に変わった。
富裕層ビジネスがあだに
「預金口座数は、平均的な米銀の約5分の1」
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主に富裕層ビジネスを手掛けるファースト・リパブリック銀行が今年1月に公表した決算資料のある一節だ。同じ規模の銀行と比べ口座の数が少なく、顧客と
「長期的で深い関係」
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を築ける、というアピールだった。
業績も伸びていた。預金はここ3年で2倍にまで拡大。富裕層に対し、低金利で住宅ローンも提供し、貸し出しも年20%超のペースで拡大していた。
しかしながら、規模の割に口座の数が少ないことは、口座当たりの預金額が多いことを意味する。アメリカで銀行破綻時に預金保険で守られるのは、1口座あたり25万ドル(約3400万円)まで。
S&Pグローバルによると、保険上限を超える預金の割合は、大手銀行では50%前半であるのに対し、ファースト・リパブリック銀行は昨年末時点で67.4%にのぼっていた。
3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行ともに、新興テック企業などを顧客にもち、急成長を果たす。それとともに保険上限を超える預金の割合は、それぞれ93.8%、89.3%と、高かった。
同様、高額預金の多いファースト・リパブリック銀行の経営不安が高まるとともに、預金の引き出しが加速した形に。