この規定によれば、他人の生命や財産に対する急迫の危険を避けるために行動した場合、悪意または重大な過失がない限り、損害賠償責任を負わないとされている。この既存の法律が、ある程度の範囲で救助者を保護する役割を果たしているため、新たな法律の制定の必要性が低いと判断されてきた。
しかしながら、緊急事務管理の規定だけでは不十分だという声も存在。善きサマリア人の法の導入を支持する人々は、現行法では救助者の保護が十分でないと主張する。例えば、医療専門家が緊急時に最善の措置を取れなかった場合の法的責任の問題や、一般市民が救助を躊躇する心理的障壁の存在などが指摘されている。
善きサマリア人の法の導入に関する議論は、日本でも過去に行われてきた。1994年に旧総務庁の委員会で検討されていたが、当時は現行法で十分対応できるとの結論に至る1。しかし、その後も議論は続いており、2017年の時点でも、緊急事務管理の規定が十分な範囲をカバーできているかどうかについては、まだ明確な判例の蓄積がないことが指摘されている。
1年600件近い機内医療対応 JAL・ANAが2016年に医師登録制度を導入した背景
JALとANAは2016年に機内での急病人対応を迅速化するため、医師登録制度を導入した。JALは2016年2月に「JAL DOCTOR登録制度」を開始2。この制度は、日本医師会の提案を受けて構築され、国内の航空会社として初めて導入された試みである。
1具体的には、急病人や負傷者を救おうと、善意により良識的かつ誠実な行動を取った場合、失敗してもその責任を問われない(免責する)という趣旨が含まれている。 2日本の民法第698条には「緊急事務管理」という規定があり、これが善きサマリア人の法と類似の機能を果たすと考えられている。 3この制度は、日本医師会の提案を受けて構築され、国内の航空会社として初めて導入された試みである。 4この制度の目的は、機内で急病人が発生した際、事前に登録された医師に客室乗務員が直接協力を要請し、迅速な応急措置を行えるようにすることだ。
マウスオーバーか長押しで説明を表示。
