Miguel Á. PadriñánによるPixabayからの画像
毎年12月1日は「世界エイズデー」である1。この日は、人類を震撼させたパンデミックがどこまで克服され、何がなお課題として残されているのかを確認する重要な節目となる日でもある。
医学の進歩により、HIV/エイズはかつての「死の病」から、治療と管理によって日常生活を維持できる慢性疾患へと位置づけが大きく変わった。しかし、長年にわたる偏見や差別、診断・治療体制の地域的な格差、若年層への情報不足といった問題が残っている。
要約
HIV/エイズは治療の進歩により管理可能な慢性疾患となったが、偏見や差別、予防・治療へのアクセス格差はいまなお残っている。抗HIV療法や「U=U」は生活の質向上に貢献する一方、PrEPなど予防手段は費用や社会的要因で普及が限定的である。
HIVは20世紀初頭のアフリカに起源を持ち、植民地化や都市化、政治的無策と偏見が世界的流行と被害拡大を招いた。その影響は現在のスティグマにも続いている。
沖縄では「いきなりエイズ」が多く、地域社会の密接さや偏見が検査の遅れにつながっている。フランスではマチズモ的価値観の拡散が若年層の予防行動を弱めており、知識だけでなく文化や価値観の再構築が重要とされる。
記事のポイント
- HIV/エイズは医学的には管理可能な慢性疾患となった一方、偏見・差別、地域や世代間の知識格差、予防・治療アクセスの不平等が依然として大きな課題である。
- HIVの世界的流行は20世紀初頭アフリカでの人獣共通感染に始まり、都市化や政治的無対応、同性愛嫌悪などの社会要因が拡大と偏見を深刻化させた。
- 現在も沖縄の「いきなりエイズ」やフランス若年層の予防行動低下に見られるように、検査のしにくさや文化・価値観の影響が早期発見と予防を妨げている。
Summary
HIV/AIDS has become a manageable chronic disease due to advances in treatment, yet prejudice, discrimination, and disparities in access to prevention and treatment persist. While antiretroviral therapy and “U=U” contribute to improved quality of life, preventive measures like PrEP face limited uptake due to cost and social factors.
HIV originated in Africa in the early 20th century. Colonialism, urbanization, political inaction, and prejudice fueled its global spread and escalating harm. The impact persists in the stigma surrounding it today.
In Okinawa, sudden AIDS cases are common, with close-knit communities and prejudice contributing to delayed testing. In France, the spread of machismo values weakens preventive behavior among young people, highlighting the importance of rebuilding not just knowledge but also culture and values.
Translated with DeepL.com (free version)
エイズ対策に不可欠なのは、「正しい知識の共有」と「治療・予防手段へのアクセス」という二つの柱である。
まずはWHOが1988年に制定した世界エイズデーを通じ、感染への理解促進や差別解消を目的とした啓発活動が国際的に続けられてきた。
治療面においては、抗HIV療法(ART)の進化が状況を一変させた。早期治療により非感染者とほぼ同等の寿命が期待でき、ウイルス量が検出限界以下であれば他者に感染させないとする「U=U」の概念も確立され2、生活の質向上と偏見の是正に大きく貢献している。
一方で、予防手段へのアクセスには依然として壁がある。PrEPは世界的に普及しつつあるものの、米国では人種や性別による利用格差が指摘されている。日本でも2024年に予防薬「ツルバダ」が承認されたが、保険適用外で高額な費用が普及の妨げとなっている。

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偏見はどこから生まれたのか――HIVの起源とパンデミック形成の歴史
HIVがどのように人類社会へ浸透し、世界的なパンデミックへと至ったのかを理解することは、HIVについての今日まで続く偏見や誤解の背景を知るうえでも不可欠だ。
細心の分子系統学的研究によれば、HIVの起源は20世紀初頭のアフリカ・コンゴ盆地に遡るこという3(3)。カメルーン南部のチンパンジーが保有していたSIVcpz(サル免疫不全ウイルス)が、ブッシュミートの解体や摂取の過程で人間に感染し、変異を重ねてHIVとなったと考えられている4。なかでも1920年頃にキンシャサへ到達した「HIV-1グループM」が、世界的流行の主因となったという研究もある5。
HIVのパンデミックの拡大には、植民地化と都市化による人の移動の活発化、森林伐採や都市流入に伴う社会構造の変化、さらに不衛生な注射器の使い回しといった当時の医療環境が複合的に作用していた。
ウイルスは1960年代にハイチ人労働者を通じてカリブ海地域へ広がり、1970年頃にはアメリカに到達したと推測されている6(6)。しかし1981年にエイズが公に認識された際、当初は「同性愛者の稀な病」として扱われ、同性愛嫌悪と政治的な沈黙を招く7。
とくに当時のレーガン政権は約6年間、公の場でエイズへの言及を避け、エイズへの研究や啓発への対応は大きく遅れた8。その背景には、宗教保守層への配慮や道徳的偏見があったとされ、結果、多くの命が失われる。
HIVは治る時代でも、検査は遠い――沖縄の現実
沖縄県では、新たに報告されるHIV感染者のうち、発症後に初めて感染が判明する「いきなりエイズ」の割合が、全国平均を大きく上回っている。2024年の統計では、新規報告者の約6割がすでに発症段階で診断されており、早期発見・治療の体制が十分に機能していない実態が浮かび上がっている9。
この状況は、沖縄特有の社会構造が強く関係しているという。共同体の規模が比較的小さく人間関係が密接であるため、HIV検査を受けた事実や性的指向が周囲に知られることへの不安が生じやすい。さらに、医療の進歩によってHIVが「死に至る病」ではなくなったという認識が広がり、感染への危機意識が低下した結果、検査行動が後回しにされやすくなっている。
また、「いきなりエイズ」が多い理由は、医療アクセスの問題だけではない。感染に対する偏見やスティグマが依然として根強く、HIV陽性者が「自己責任」とみなされる社会的まなざしが、検査をためらわせる要因となっている。
改善できることがあるとしたら、検査の受けやすさを高める施策と、心理的障壁を下げる社会的取り組みを同時に進める必要がある。匿名性を重視した検査体制の拡充や、夜間・休日対応の検査拠点の整備は有効だ。加えて、学校や地域と連携した啓発活動や、LGBTQ+支援団体との協働を通じて、正確な知識と安心して相談できる環境を広げていくことが求められる。
安全なセックスは「弱さ」なのか フランス社会が直面する逆風
近年、フランスでは若年層のコンドーム使用率が低下し、それに伴ってHIV感染率が再び上昇傾向にあるという指摘もある10。これは、長年積み重ねられてきた性教育や公衆衛生政策の成果が揺らぎつつあることを示す兆候である。
こうした現象を後押ししているのが、SNSインフルエンサーを通じて拡散するマチズモ(男性優位主義)的価値観であるという11。彼らは支配的で恐れを知らない男性像を理想化し、コンドームの使用を「臆病さ」や「弱さ」と結びつける言説を繰り返してきた12。このようなメッセージはとくに若年層に強く作用し、予防的行動を「愛情の妨げ」と誤解させることで、女性への配慮や合意形成の意識を後景に追いやっている。
歪んだ認識を是正するには、知識の伝達にとどまらず、たとえば文化的価値の再構築が不可欠であるという指摘も。たとえば、ドラマや映画において避妊具の使用を自然な行為として描くことは、安全なセックスを「冷めた態度」ではなく「相互尊重の表現」として定着させる効果を持つ。
実際、フランスの一部映像作品では、こうした演出が視聴者の意識に変化をもたらし始めている。また、若い男性インフルエンサーが「避妊は思いやりである」と発信することで、マチズモ的言説を相対化し、たとえば「責任ある男らしさ」というような新たな価値を提示することも可能となるだろう。
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