スリランカ大統領の公邸を市民が占拠 事実上の政権崩壊 コロナ渦で主軸である観光業が打撃 債務のわなが深刻化

PoswiecieによるPixabayからの画像

 深刻な経済危機が続くスリランカで、ついに政権が崩壊した。

  大統領であるラジャパクサ大統領が13日、軍用輸送機で近隣国であるモルティブに逃亡した。夫人や護衛らも一緒に行動をともにしているという。このことにより、政権は事実上、崩壊した。

 当初、ラジャパクサ大統領は13日に辞任の見通しであったが、予想以上の国民の反発を受け、身の安全の確保を図ったとみられる。

 かつて大統領と首相を歴任した兄であるマヒンダ氏とともに進めてきた一族支配は、これにより終焉を迎えた。

 13日、ウィクラマシンハ首相は、大統領代行として全土に非常事態を宣言、外出禁止令も発動した。

 最大都市であるコロンボを中心に大規模なデモが続く中、治安当局の権限が強化され、今後、デモ隊とのさらなる衝突も予想される。

 ラジャパクサ大統領が国外へ逃れた理由として、大統領の不逮捕特権を失うことを恐れたとの見方も1。大統領は今後、モルティブから第三国に移る可能性もあるという。

 スリランカでは、9日に大統領の辞任を求める抗議行動が激化、大統領の公邸に人々が流れ込んで、占拠されていた。

関連記事→

【本日のニュース】2022/04/01/金

【本日のニュース】2022/04/03/日

【本日のニュース】2022/07/10/日

大統領公邸をデモ隊が占拠 「市民は苦しいのに、権力者はぜいたく」

 ゴー・ホーム・ゴタ!

 文字通り、スリンランカの大統領公邸は、市民により乗っ取られた。そして、ゴダバヤ・ラジャパクサ大統領の愛称である「ゴタ」という言葉を叫びながら、デモ隊は、「大統領は家に帰れ」とのスローガンを繰り返す。

 抗議を繰り広げる人々は9日、警察のバリケードを突破、公邸を占拠した。テレビでは、市民が公邸内の大きなベッドに寝転がったり、プールで泳いだりする様子が報道された。

 13日時点も占拠は続き、デモ隊がスローガンを叫び続ける。

 デモ隊の1人は、

 私たちが苦しんでいるのに、権力者はぜいたくな生活を送っていた。

西日本新聞、7月14日

と話す。デモ隊の中には子ども連れの家族の姿もあり、デモ隊の学生が記念撮影をする人々の誘導に当たる姿もあった。

 公邸の芝生脇の日陰でくつろいでいた農家のローハンさん(42)は、7歳になる娘や友人の家族とともに、バスを乗り継ぎ、5時間かけてやってきた。ローハンさんは、

 農機を動かす燃料も肥料も手に入らない。生活は苦しい。子どもの未来のために国が良くなってほしい。

西日本新聞、7月14日

と語る。

 スリランカの燃料不足は深刻だ。街中の給油所には、どこも長い列ができている。三輪タクシーを運転する男性の車の中には、枕が置かれていた。

 今日で3日目だ。

西日本新聞、7月14日

 しかし給油を待つ間は、給料は発生しない。

生命線の観光業がコロナ禍で打撃 慢性的な財政赤字

 経済危機の直接のきっかけとなったのは、コロナ禍により外国人環境客が来なくなり、観光業が打撃を受けたこと。しかし、問題の根幹には、長年に渡り続く赤字体質の国家財政と、貿易構造に由来する2

 スリランカの経済自体は、統計的にみても決して悪い数字ではなかった。事実、2021年には3.7%のプラス成長と、前年の3.6%減から大きく回復しようとしていた。

 また、コロナ渦前の2015年からの5年間では、年率、3.7%の平均成長率を記録していた。

 しかし、スリランカの2021年の外国人観光客の数は、2019年比で89%減の19万4495人をと激減、今年に入っても、その数字が大幅に改善することはない。

 さらに、長年のスリランカ経済の構造的な問題が、経済危機を長引かせる。スリランカ経済は、財政と経常収支の”双子の赤字”を抱えていた。

 結果、新型コロナウイルスの影響は外国人観光客の大幅減という経常収支の悪化だけでなく、コロナ対策にともなう財政支出の結果、さらなる財政赤字の拡大を招く。

 もともと、スリランカの財政収支は、財政赤字が対外債務の返済を難しくしていた。2017年には債務の返済と引き換えに、政府が中国に対し、南部のハンバントタ港の99年間にわたるリースを認めている。

Amanja HemalによるPixabayからの画像

債務のわな


 スリランカはインドの南に浮かぶ人口約2150万人の島国。そのため、燃料や食料の多くを国外からの輸入に頼っていたが、しかし輸入が滞り、2021年ごろから物価が極端に高くなっていた。

 輸入が滞るようになった理由としては、外貨が足りずにモノをかえなくなったことが主な原因。

 スリランカは鉄道や道路などのインフラをつくる目的で、中国から巨額の資金を借り受け、結果、財政難に陥った。

 このことは、中国が、途上国を”借金漬け”にし、支配を進める、「債務のわな」に陥ったことを意味する。アフリカや東南アジアでも、同様に危機が指摘されている。

 さらに借金問題に加え、コロナ禍により観光客が来なくなったことが、決定打に。スリランカでは、観光は外貨が得られる貴重な手段であったが、これが失われた。

 そのため、外貨が足りずに、特産品である紅茶を物々交換してイランから石油を輸入するほどに困難に陥っていた。

 ロシアによるウクライナ侵攻による、影響も。ロシアのエネルギー産業に欧米が制裁を科したことで、スリランカでもエネルギーの供給が滞るようになった。

 スリランカ政府は、今月、自国の財政が「破綻」したとの見解を示したばかり。今後、新しい大統領が選ばれる見通しで、新体制のもと、財政の再建を目指すことになる。

  1. 西日本新聞、2022年7月14日付朝刊 
  2. (新田 浩之「危機の背景に脆弱な経済構造(スリランカ)」JETRO、2022年5月13日、https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/4302cc2e20bf4646.html2