アメリカ、共和党サントス下院議員訴追 多くの”経歴詐称”で問題視 しかし以前から”嘘”がバレていた 小さな地元紙が報じる 「ニュース砂漠」 多くの地方紙が休刊に

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Brigitte WernerによるPixabayからの画像

  アメリカ連邦地裁は10日、選挙機関中に経歴を詐称していた共和党のジョージ・サントス下院議員を詐欺や資金洗浄など13件の罪で訴追した。34歳のサントス氏は、ニューヨーク州から選出。

  サントス氏は資金を不正に使用し、財務状況について下院に虚偽の説明をし、失業手当を不正に受給するなどした罪に問われている1。有罪となれば、最長で禁錮20年の量刑を言い渡される可能性もあるとのこと。

  サントス氏は、昨年の11月の中間選挙でニューヨーう州から初当選。しかし、ウォール街で勤務していたという職歴をはじめ、自身の家系や学歴などあらゆる経歴を偽っていたことが当選後に判明する。

 「有名大学を経て大手金融会社に勤め、祖父母はナチス・ドイツの迫害を乗り越え、母は米中枢同時テロの被害に…」

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 このような経歴がすべて”嘘”だったのだ。そのうえ、ブラジルなどでの犯罪疑惑も判明、大問題となった。

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以前から”嘘”がバレていた 小さな地元紙が報じる

 当選直後から大手紙が報道し問題化すると、サントス氏は保守紙のニューヨーク・ポストのインタビューで経歴を

「飾った」

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 と嘘を認める。しかし、

 「私は犯罪者ではない」

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 と辞職を否定する。

  有権者は「だまされた」と憤慨するものの、しかし実は選挙前に小さな地元紙がサントス氏の”疑惑”を報道していたのだ。報道していたのは、週刊で5000部ほどの「ノース・ショア・リーダー」という地元紙。

  大手メディアに先駆け、選挙前からサントス氏の選挙資金などについての数々の疑惑を報道、サントス氏を

「あまりに奇怪で、道徳観念がなく中身がない」

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 と評し、警告していた。

  「ノース・ショア・リーダー」の発行人で弁護士でもあるグラント・ラリーさん(61)は、2020年に知人を通し、サントス氏と面会。そして当初から、

 「彼が真実を語っていない」

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 と断言した。

  メディア論に詳しいノースウエスタン大学のティム・フランクリン教授(62)は東京新聞の取材に対し、多くの地方メディアが経営難により人員を削減し、

 「政治家候補を調査するための、かつてのような力がない」

7

 とする。あるいは、大手紙であるニューヨーク・タイムズなどは、

 「この選挙区が接戦になるとは考えていなかった」

 とチェックが甘くなっていた背景を語る。

ニュース砂漠 多くの地方紙が休刊に

 「ニュース砂漠」という言葉がある。急速に進む社会のデジタル化とリーンマン・ショックやコロナ禍を経て、広告収入の減少が要因となり、アメリカでは多くの地元紙が廃刊に追い込まれ、結果、地元の情報を知ることのできない現象を、こう表現する。

  事実、アメリカでは過去17年間で地方の新聞全体の3割近い2514紙が廃刊に追い込まれたとの調査報告書を、ノースウェスタン大学(イリノイ州)がまとめた。

  このようななか、バイデン政権は2021年末、地方紙の報道機関を対象に、税金を一部控除するなどの支援策を打ち出すも8、「独立性が保てなくなる」と報道機関側に受け止めは複雑だ。

  他方、アメリカでは、「ピンクスライム・ジャーナリズム」と呼ばれる現象も。ジャーナリズムを装いつつ、質の低い記事を量産することから、加工肉の増量などのために混ぜ込まれるくず肉の俗称になぞらえられた。

  地方紙のような名を冠し、党派性の強い記事を発信するニュースサイトがアメリカで増殖している。確認されている数でも、その数は1200を超える9

 それでも辞めさせることができない共和党 議会拮抗の中で

 1月に入り議会が開会されると、今度はサントス氏についての“本当の”さまざまな疑惑が報道。

 「動物愛護の基金を偽名で主宰していたが、そのカネをネコババしていた」
「ブラジル時代に女装のチャンピオンだった」
「ゲイと公言して同性婚していながら、女性と重婚していた」
「選挙区に居住していなかった」

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 このようなスキャンダルが報道された。

  ところが、マッカーシー下院議長率いる「下院共和党議員団」は、この問題に向き合おうとしない。民主党と共和党の与野党は拮抗している現時点での下院の状況下では、“1議席も”失いたくないからだ。

  現在、アメリカの下院は共和党(222議席)、民主党(213議席)と拮抗。

 さらに、下院の共和党議員団のナンバー4であり、マッカーシー下院議長のブレーンと言われるエリス・ステファニク議員(ニューヨーク21区選出)は、サントス氏を自ら“引っ張って”きて、選挙資金の面倒も見ていたようだ11

  ステファニク議員のメンツにかけても、サントス氏の議席は守りたいという思惑も、下院共和党議員団にはあるという。

  1. BBC NEWS JAPAN「米連邦検察、経歴詐称の共和党新人下院議員を詐欺罪などで訴追 本人は無罪主張」2023年5月13日、https://www.bbc.com/japanese/65553953 
  2. 吉田通夫「アメリカでうそつき議員が当選 選挙でアピールした輝かしい経歴は全て…それでも辞めず 背景にあるメディアの衰退」東京新聞、2023年4月26日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/246198 
  3. 吉田通夫、2023年4月26日 
  4. 吉田通夫、2023年4月26日 
  5. 吉田通夫、2023年4月26日
  6. 吉田通夫、2023年4月26日 
  7. 吉田通夫、2023年4月26日 
  8. 金子渡「米国で深刻化する「ニュース砂漠」…バイデン政権の支援策が物議」西日本新聞、2021年11月16日、https://www.nishinippon.co.jp/item/n/832273/ 
  9. 朝日新聞デジタル「(世界発2023)誤報拡散も、「地方紙風」サイト 報道装う「ピンクスライム」、米で増殖」2023年1月28日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S15539785.html?_requesturl=articles%2FDA3S15539785.html&pn=3 
  10. 冷泉彰彦「経歴詐称のサントス議員を辞めさせられない共和党」プリンストン発 日本/アメリカ 新時代、ニューズウィーク日本版、2023年1月25日、https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2023/01/post-1301_2.php#google_vignette 
  11. 冷泉彰彦、2023年1月25日 
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