老朽化する下水道、都市の安全を脅かす構造的リスク 職員数は37%減少
下水道インフラの老朽化は、都市の安全と経済活動の安定を脅かす構造的リスクである。近年、都市部で道路陥没が頻発しており、政令指定市や特別区では約57%が上下水道管に起因している1。
八潮市の事故は、日常的リスクが管理体制の脆弱(ぜいじゃく)性と重なると、都市システムをまひさせる大規模災害に発展する可能性を示した。 維持管理の課題は技術面だけでなく、人的リソース不足とも深く関連する。
上下水道事業の職員数は過去に比べ約37%減少しており、予防保全や点検、大規模災害対応能力が脅かされている2。人員削減によるコスト圧縮は「目に見えないリスク」を増大させ、八潮市では築42年の管路が「補修不要」と判断された背景にも、技術継承の困難さが影響していた可能性がある。
しかし本来、維持管理費は単なるコストではなく、「未来の危機に備える保険料」として再評価する必要がある。また 官民連携(PPP)は効率化に有効だが、技術者減少や技術流出、短期利益優先によるインフラ脆弱(ぜいじゃく)化のリスクも伴う。
人的リソース確保、技術継承の仕組み強化、現場技術力の維持・育成とDX導入の並行、契約設計・監督体制の整備が不可欠である。これらの施策により、老朽化した下水道インフラによる都市の安全や経済活動への影響を最小化できる。
「インフラは国家の安全保障」 下水道危機から見える日本の課題
いずれにせよ、日本では持続可能な下水道システムの再構築が喫緊の課題となっている。多くの下水管がすでに耐用年数を超え、特に脆弱地盤に埋設された管路では大規模事故の危険性が高い3。
埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故も、インフラ劣化が現実に災害を引き起こす段階にあることを示す象徴的な事例であり、従来型の維持管理から脱却した政策転換が不可欠だ。
現状を打開するには、非開削工法の標準化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)によるリスク管理の高度化、人的資源の確保と育成という三本柱の改革が不可欠だ。
SPR工法をはじめとする非開削管路更生技術は、工期短縮や交通障害の軽減を可能にし、脆弱地盤でも耐久性を高める4。DXを活用したデータ駆動型アセット・マネジメントは、管路と地質情報を統合し、効率的な補修・更新計画を実現する5。
また、上下水道事業の魅力を発信し、共同採用や教育研修を強化することで、専門技術者の確保と継承を体系的に進めることが求められる。
今後は、下水道インフラを「国家の安全保障資産」として明確に位置づける必要がある。さらに、技術継承の制度化と官民連携の強化によって、人材流出を防ぎ、持続的な技術基盤を確立できる。
- 下水道老朽化が引き起こす「社会インフラ危機」とは?現状と対策を解説. (2025). Retrieved 9 November 2025, from https://seisui-kk.com/column/deterioration_sewersystem
- 老朽化だけが問題ではない上下水道事業 人材不足が運営を逼迫|研究・産学連携ニュース|中京大学. (2025). Retrieved 9 November 2025, from https://www.chukyo-u.ac.jp/research_2/news/2025/10/025769.html
- 上下水道:下水道の維持管理 – 国土交通省. (2025). Retrieved 9 November 2025, from https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html
- 上下水道:下水道におけるDXの推進 – 国土交通省. (2025). Retrieved 9 November 2025, from https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000603.html
- 公益社団法人 日本下水道協会 | 下水道の役割や効果その仕組をはじめ、下水道事業が円滑に執行されるよう、情報提供に努める公益社団法人日本下水道協会です。. (2025). Retrieved 9 November 2025, from https://www.jswa.jp/2018/03/30/5154/
