イギリスのボリス・ジョンソン首相は7日、首相官邸前で記者会見を開き、
新しいリーダーを選ぶプロセスを始めるべきだ。
と述べ、辞任すると表明した。ただ、与党・保守党の新しい党首が選出されるまでは職務にとどまる方針。
近年、イギリス政界はさまざまなスキャンダルに見舞われた。2020年に新型コロナウイルス流行下に官邸内で飲酒をともなうパーティーを開いていたことから始まり、たびたび保守党内で不信感と辞任論が高まる。
さらに財務相ら主要閣僚を含む多数の政権幹部が抗議して辞任。結果、相次ぐ離反により求心力を失い、政権運営が困難となっていた。
首相は、記者会見で、
世界一の仕事を手放すのは悲しいが仕方ない。
との声明を述べる。
しかし、ここ数年のイギリス政界は、まさに言葉にならないほどひどかった。コロナ渦でのパーティー開催、与党議員の性的スキャンダル。首相はこれらの火消しに失敗。
結果、重鎮の議員ら50人の幹部が次々と辞任。首相は強気を貫くも、「閣内の反乱」(イギリス紙)を抑え込めず、首相自身の辞任という結末を迎えた。
ロシアによる侵攻に直面するウクライナへの支援をけん引するイギリスの内紛により、欧米の結束が揺らぐ可能性もある。
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ジョンソン首相とは
ジョンソン首相は、絵にかいたようなイギリス社会のエリートであり、首相になる以前からの、筋金入りの”EU懐疑派”であった。
父方の先祖はオスマン帝国の名族であり、高祖母は英国王ジョージ2世の庶子であったという1。
イートン校、オックスフォード大学を卒業し、専攻は古典だった。卒業後はジャーナリストとなり、タイムズやデイリー・テレグラフなどの保守系有名紙の記者となった。
自身が、EUの本部のあるベルギーのブリュッセルの特派員となり、さまざまなEU批判の記事を書いてきた。
1964年6月19日、アメリカ・ニューヨーク生まれ。 保守系雑誌の編集者を経て、2001年に下院議員に。2008年~2016年はロンドン市長を務めた。2016年7月~2018年7月にメイ政権で外相を務める。
2019年7月にメイ党首の辞任に伴う保守党の党首選で勝利し、23日に党首に就任。翌日24日に首相に就任した。
大衆的な人気が高く、自身も女性関係が派手だった。結婚は3回、子どもも「大勢」いるという。
2020年4月には、首相公邸であるダウニング街10番地で同居するガールフレンドが出産し、2021年5月に婚姻を発表。在任中の首相の結婚はイギリス史上2人目だった。
政界の道化師 ジェットコースターのごとき政権運営
明らかなエリートながらも、奇妙奇天烈な風貌と言動により、「政界の道化師」と呼ばれたジョンソン首相。
EU(欧州連合)からの迅速な離脱とコロナ渦におけるワクチン政策の成功により、一時は、「10年政権は確実」とまでいわれた。
しかしながら、まさにジェットコースターさながらの乱高下する政権運営により、国家・国民ともに混乱の渦に叩き込んだ。
ジョンソン氏が首相に就任したのは、EUからの離脱交渉真っ只中の2019年7月。同年末の総選挙で「何が何でもEUから離脱する」と宣言し、地滑り的な大勝利を収めた。そしてイギリスは2020年1月末、EUから離脱。
新型コロナウイルスへの対応では、19万7000人を超える死者を出しながらも、世界に先駆けてワクチンの集団予防接種を開始し、昨年の統一地方選挙では圧勝していた。
しかし、「金の壁紙」を使った首相官邸の高額な改装費を、保守党への政治献金者に肩代わりさせていた疑惑が発覚、首相は11万ポンド(約1787万円)を返済した。
2020年6月19日には、コロナ禍で接触制限が行われていたにもかかわらず、首相官邸の閣議室でジョンソン首相の56歳の誕生日を祝うパーティーが開催。
コロナ規制に違反したとして首相を含め、83人に合計126件の罰金が科された。現職の首相が法律違反で罰せられるのは極めて異例だ。
次の首相は? イギリスと日本は同じ議院内閣制をとる国ながらも、選出方法に違いが
日本とイギリスは、ともに議院内閣制をとる国ながらも、しかし選出方法に違いがある。日本は、内閣総理大臣(首相)は、おもに衆議院議員の多数決により選ばれる。
参議院の議員も参加できるものの、しかし衆議院と参議院の意見が異なった場合には、衆議院の意見が優先される。
対して、イギリスでは首相は下院の第一党の党首が自動的に国王により、首相に任命される。よって、次の首相もおのずと与党・保守党の党首が選ばれる。
その保守党の党首を選ぶ選挙は、これまでの慣例にしたがえば、たとえば3人以上が立候補した場合は、議員による立候補を繰り返して2人に絞り込んだうえで、全国の党員による投票が行われる2。
イギリスメディアによれば、議会が夏の休会に入る7月後半までに候補者が2人まで絞り込まれ、今年9月以降に、最終的な投票が行われる見通し。
ただ、党内ではジョンソン氏がそれまで首相のポストにとどまることに反発し、首相選びの手続きを急ぐべきだという声もあがっているという。
イギリスメディアは後継者として、スナク前財務相、ジャビド前保健相、ウォレス国防相、トラス外相、ハント元外相の名前を挙げている。