米下院マッカーシー議長解任 アメリカ史上初めて トランプ支持者の内紛に振り回され 広がるさまざまな影響

北アメリカ
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lea hope bonzerによるPixabayからの画像

 米連邦議会下院(定数435、欠員2)は3日、共和党のマッカーシー下院議長の解任動議を賛成多数で可決、マッカーシー氏は解任された。下院議長が下院されるのは、アメリカ史上初めてのこと。

 米政府の閉鎖が懸念されるなか、共和党の内紛により、結果、さらなる混迷に追い込まれている。解任動議は賛成216、反対210の賛成多数で可決。

 下院議長は、大統領権限の承継順位が副大統領に次ぐ2位。野党である共和党の保守強硬派は、マッカーシー氏が「つなぎ予算」の成立をめぐり、「民主党に協力を求めた」などと強く反発、解任を要求していた。

 これに先立ち、連邦議会は9月30日、10月1日から45日間の予算の執行を可能にする「つなぎ予算」を可決したばかり。議会では、予算成立期限が30日深夜に迫り、連邦政府閉鎖の懸念が高まっていた。

 これが可決されなければ、数万人の連邦職員は、10月1日午前0時1分から無給の一時帰休となり、さまざまな政府サービスが停止されるおそれがあった。

 下院は、共和、民主両党の勢力が拮抗し、少数でも強硬派の声は無視できない。そもそも議長職を熱望したマッカーシー氏は、1月の議長選出の際、強硬派に譲歩して議長の解任動議の提出に必要な議員数を1人に引き上げた1

 だがマッカーシー氏はこのことにつけ込まれた。解任動議に必要なのは出席議員の過半数の賛成。民主党議員が全員、採決を欠席すれば解任を回避することもできた。

 しかしながら、予算案の審議でマッカーシー氏がバイデン大統領と合意した水準以上の歳出削減を一時求め、民主党は反発。

  また、大統領選挙を来年に控えるなか、再選を狙うバイデン氏の弾劾追跡調査に”ゴーサイン”を出したマッカーシーを救う選択肢もそもそも存在しなかった。

 マッカーシー氏は、今年1月、15回もの投票を経て、下院議長に就任した。

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トランプ支持者の内紛に振り回され

 マッカーシー氏の解任は、そもそもトランプ前大統領支持者の”内紛”により起こった。

 もともとマッカーシー氏は2016年、大統領選挙でトランプ氏が登場した際、いち早く支持を表明した有力議員のひとりだ。そのマッカーシー氏は解任直後、

「これは個人攻撃だ。無駄以外の何物でもない」

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と語る。

 彼の批判の矛先は、解任を主導した共和党のゲーツ議員とみられる。ゲーツ氏はトランプ支持者という意味では、マッカーシー氏と同じ立ち位置。どちらも移民・難民に反対し、同性婚・中絶反対、保護貿易賛成などで一致。

 さらにバイデン政権による膨大なウクライナ支援に「アメリカ第一」の観点から反対してきた。しかし、そのゲーツ氏はこれまでもマッカーシー氏との不仲が指摘されていた3

  昨年の中間選挙後、マッカーシーの議長就任はほぼ確実視されていたが、実際には今年1月にまで就任がずれ込んだ。

 これはゲーツ氏ら共和党の一部がマッカーシー氏を支持せず、議長承認投票が15回もやり直されたからで、これも異例のこと。

 ゲーツ氏らはマッカーシー氏を「トランプ支持を掲げていても信用できない」という不信感をもってみていたという。

  一方、ゲーツ氏は2021年から下院の倫理委員会で審査の対象にされていた。未成年とのセックススキャンダルや違法ドラッグ使用などの疑惑が浮上したからだ。

 この問題に関しても、マッカーシーは議長就任以前からほぼノータッチの立場を保つ。

 そして対立が決定的になったには、ウクライナ支援をめぐる距離感だった。そのゲーツ氏は、来年の大統領選選挙で共和党内において候補者指名争いを独走するトランプ氏をまさに”崇拝”する。

 トランプ氏とも電話で頻繁に連絡を取り合い、トランプ氏が裏で糸を引いているとの疑念が絶えない4

広がるさまざまな影響

 マッカーシー氏の解任に賛成した民主党トップのジェフリーズ院内総務は、ゲーツ氏らトランプ氏を熱心に支持する「MAGA(マガ)」が議会を機能不全にしていると批判する。対して、ゲーツ氏は、

「下院が数十年間まひしてきた」

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と反論。

「残念なことに共和党の4%の議員が民主党議員とともに、誰が下院議長になるかを決められる」

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 マッカーシー氏が記者会見で、解任動議を提出した共和党保守強硬派への恨みをこう口にする。動議は96%の共和党議員が反対したのにもかかわらず、わずか8人の強硬派と民主党の賛同により可決した。

 共和党は昨年11月の中間選挙で4年ぶりに下院の多数派を奪還。しかし民主党との議席数の差はわずか9議席で、一部でも共和党議員が造反すれば、法案は通らない。強硬派はその状況を利用し、存在感を高める。

 下院が後任の議長が選出されるまで、議会の機能が実質的に停止する。さらに、つなぎ予算が切れる11月半ばまでに新年度予算がまとまらなければ、政府機関の閉鎖も再び迫る。

 またウクライナ支援の予算案の審議が滞れば、ウクライナにおける戦況への影響も避けられない。しかし、共和党強硬派はウクライナ支援継続に懐疑的で、バイデン政権の予算要求にも反発する5

 国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は3日、予算を確保できなければ、アメリカの支援が2カ月程度しか続かないとの見通しを示す。一方、米格付け大手は政府閉鎖が米国債の信用にマイナスになると警告。

今後の動向

 米下院マッカーシー氏の解任を受け、11日に実施が見込まれる次期議長選に向け動き出す。

 次の議長の候補者としては、共和党指導部のベテラン議員、トランプ前大統領を慕う保守強硬派、さらにはそのトランプ氏自身を推す声まで浮上する。

 まず躍り出た候補者は、下院共和党のナンバー2のスカリス院内総務だ。8月に、がんの一種である多発性骨髄腫を患っていると公表したが、公務を継続。

 かねてから待望論があり、下院動議を提出したゲーツ議員も後釜に押す方針を示す。

 ナンバー3のエマー院内幹事の名前も。昨年11月の中間選挙では、下院の選挙対策を取り仕切り、4年ぶりの多数派奪還を主導した。

 議長選まで代行を務めるマクヘンリー下院金融委員長はそのまま議長に推薦されるシナリオもある。

 一方、混迷する中、「トランプ氏を推薦する」と表明する議員も登場。下院議長は現職議員である必要はないとされるが4、前例はない。

 そのトランプ氏は、次期下院議長選について、共和党のジョーダン議員への支持を表明。自身のSNSアプリである「トゥルース・ソーシャル」に、

「彼(ジョーダン)は、犯罪、国境、軍隊、憲法修正第2条に強い。素晴らしい下院議長になるだろう。全面的に支持する」

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と投稿した。

 ジョーダン氏はトランプ氏に近く、バイデン大統領が次男と外国企業の不透明な取引に関与した疑惑があると主張し、弾劾訴追に向けて調査する公聴会にも関与してきた。

 他方、解任されたマッカーシー氏は6日、

「私は辞職しない。私は職にとどまる。心配無用だ」

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と記者団に述べ、再選を目指し下院議長選に立候補する意向を示す。米政治サイト・ポリティコが伝えた。

  1. ワシントン=共同「信頼失墜、民主も見限る」西日本新聞、2023年10月5日付朝刊、3項
  2. 六辻彰二「米下院議長はなぜ解任されたか――トランプ主義者同士の潰し合いとは」Yahoo!ニュース、2023年10月5日、https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/887e6c9cbb177bfc2d0c03aa30ec82c8243018fb
  3. 六辻彰二、2023年10月5日
  4. ワシントン=共同「共和の強硬派造反 混迷」西日本新聞、2023年10月5日付朝刊、3項
  5. ワシントン=共同「共和の強硬派造反 混迷」、3項
  6. 浅井俊典「異例の下院議長解任」がウクライナに与える影響とは アメリカ政府高官が「戦況は一変」と懸念する理由」東京新聞、2023年10月5日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/281696
  7. David Morgan「米下院議長選、トランプ氏が保守派ジョーダン議員支持を表明」REUTERS、2023年10月6日、https://jp.reuters.com/world/us/NQES6OHMQJJU3OGIBQ5TUVSJNQ-2023-10-06/
  8. Lauren Dezenski「マッカーシー氏が議員辞職否定、再選目指し下院議長選に立候補-報道」Bloomberg、2023年10月7日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-06/S24OQGT0G1KW01
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