高市早苗首相の「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てて、働いて働いて働いて参ります」という発言は、単なる政治的スローガンでいうよりも、むしろそれは、現代日本人の、非近代的な労働観を象徴しているとみるべきだ。
最大の問題は、日本人の「働く」という行為がしかし前近代的であり、よって「働いても働いても働いても」なんら、国家の経済規模に反映されないことだ。
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要約
高市早苗首相の「働いて働いて働いて参ります」という発言は、日本社会に根強く残る非近代的な労働観を象徴している。日本では長時間労働が美徳とされ、生産性よりも努力量を重視する文化が形成されてきた。これは「働く=傍を楽にする」という民間解釈が、「滅私奉公」や「労働=愛国」といった道徳的義務へと転化した結果でもある。
憲法第27条が勤労の「義務」を明記した点も、戦後の国家再建思想の名残といえる。しかしその理念は効率性や個人の尊厳を軽視し、日本の低生産性を固定化している。
いま求められるのは、「勤労」を国家への奉仕ではなく、成果・創造・ウェルビーイングを基軸とした自己実現の手段として再定義することだ。そのためには、労働制度や企業文化の改革に加え、社会全体の価値観転換が不可欠である。
記事のポイント
- 高市首相の発言は、日本社会に根強く残る「努力至上・非近代的な労働観」を象徴している。
- 日本は長時間労働にもかかわらず生産性が低く、「努力」と「成果」が結びつかない構造的問題を抱える。
- 効率性と創造性、ウェルビーイングを軸にした新たな労働倫理と文化改革が必要だ。
Summary
Prime Minister Sanae Takaichi’s statement, “I will work, work, and work until my days are over,” exemplifies Japan’s deeply entrenched non-modern work ethic. In Japan, long working hours have been traditionally viewed as a virtue, fostering a culture that places greater emphasis on effort than on productivity. This stems from the popular interpretation that “working = making others’ lives easier,” which evolved into moral obligations such as “selfless public service” and “work = patriotic duty.”
Article 27’s explicit mention of “the duty to work” can also be seen as remnants of postwar national reconstruction ideology. However, this principle disregards efficiency and individual dignity, effectively perpetuating Japan’s low productivity levels.
What we now need is to redefine “work” not as service to the state, but as an instrument for self-realization centered on achievement, creation, and well-being. To achieve this, not only must labor systems and corporate cultures be reformed, but a shift in society’s overall values is essential.
あるいは、OECDの統計によれば、日本は労働時間が長いにもかかわらず生産性は低い。これは「努力の量」と「成果の質」が比例していない構造的な非効率性を示している。
長時間働くことは短期的な成果をもたらすように見えても、疲労の蓄積によって創造性や集中力を奪い、最終的には国全体の競争力を低下させる。
政治家が「身を粉にする奉仕」を称揚し続ける限り、労働者の権利意識は後退する。世界各国が柔軟な働き方やリモートワーク、ワークエンゲージメントの向上に舵を切る中で、日本も労働文化を再構築することが求められる。
そのためには、企業や行政が柔軟な労働制度や健康経営を整備するだけでなく、リーダー自身が「休む責任」を示すことが求められる。要は、効率性や創造性、そしてウェルビーイングを基軸にした、新たな労働倫理を確立しなければ、日本の経済は持続可能ではない。
「仕事=力×距離」から読み解く、日本人の労働観の誤解 本当に大事なのは”距離”では?
現代日本の「働く」をめぐる根本的な問題は、その語源に見られる利他的な精神――「傍を楽にする(傍楽)」という一説の民間解釈が、いつしか「時間を費やすこと」自体を美徳とする文化へと転じてしまった点にある。
