ウクライナ産穀物輸出合意が停止、ロシアが延長に反対 改めて注目されるウクライナの穀物 アフリカにも影響が

アフリカ
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 ロシア外務省は7月17日、黒海を通じたウクライナ産穀物に関しての合意「黒海穀物イニシアチブ」についての声明を発表し、同日付で期限を迎えていたイニシアチブの延長に反対するとし、合意当事国のトルコとウクライナ、さらに国連事務局に通知。

 これによりウクライナ産の穀物輸出合意が停止された。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナとしては引き続く穀物の輸出を継続していく意思を表明する。

  ゼレンスキー大統領は、「黒海穀物イニシアチブ」はウクライナとロシアがそれぞれ個別に署名した内容の別々の文書に基づくものであり、ロシアとウクライナとが高いに同じ文書に署名したものではないため、ロシア抜きでも穀物の輸出継続は可能性あると強調1

  ロシア外務省は声明の中で、2022年7月のイニシアチブ締結の際にロシアと国連事務局との間で締結したロシア産農産物と肥料輸出の正常化に関する覚書の実施に前進がないことを挙げたほか、ウクライナが人道的海上輸送路を隠れ蓑に、ロシアの民間および軍事施設を攻撃していると非難2

  これに対し、国連のグテーレス事務総長は17日、このロシアの決定は飢餓や食料価格の高騰に苦しむ数億人の生命線を断つものとし、深い遺憾を表明する。

  イニシアチブの正式名称は、「ウクライナの港からの穀物および食料の安全な輸送に関するイニシアチブ」というもの。2022年7月に国連の仲介により、ウクライナとロシア、トルコが署名した。

  イニシアチブは、この署名3カ国と国連が共同で、ウクライナのオデーサ、チョルノモルスク、ユージニーの黒海沿岸の3港からウクライナ産穀物を輸出する船舶の安全な航行を確保することを目的とするもの。

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注目されるウクライナの穀物

 2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、ウクライナ産の穀物がたびたび注目を集めている。とくにウクライナは、「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほどの小麦の大産地だ。

  ウクライナには世界で最も肥沃な土であるチェルノーゼム(チェルノは黒い、ゼムは土の意)が分布している。世界の土はおおざっぱに分けると12種類に分類できるというが3、このうち、チェルノーゼムは陸地面積の7%を占める。

 そして世界のチェルノーゼムの3割がウクライナに集中しており、チェルノーゼムは日本には存在しない4

  チェルノーゼムは、ロシア南部からウクライナ、ハンガリーなどの東欧、カナダ、アメリカのプレーリー、アルゼンチンのパンパ、中国東北部に広く分布する。

 乾燥した草原下にできる黒い土であり、そこを畑にすることで小麦の大穀倉地帯となった。

  ウクライナをはじめとするチェルノーゼム地帯を中心に、世界の肥沃な畑が分布する面積は、陸地の11%にすぎないが、その11%の陸地で、世界人口の8割、60億人分の食糧が生産されている状況だ5

 ロシアによる侵攻以前、ウクライナは土壌保全に配慮し、有機農業、環境保全型農業志向の強いEU圏の消費者をターゲットにした作物生産を始めていた。

 この土壌保全には、生産性の改善や水質の改善、生物多様性に加え、大気中の二酸化炭素を腐植として土壌に貯留することで、温暖化を緩和する効果も狙う。

  しかし、ウクライナでの塹壕戦や遺体埋葬の映像に映りこむチェルノーゼムの姿は、ウクライナの今後の土壌保全のあり方を、より深刻なものにする。

 また、戦禍の中で使われるは大量の重金属(鉛、ニッケル、亜鉛、銅)が使われており、いったん汚染されると、除染は容易ではない。

アフリカにも影響が

 ロシアによるウクライナ侵攻は、とくにアフリカにも大きな影響を与えた。アフリカ開発銀行(AfDB)の推定によると、2022年、アフリカで消費者物価の平均インフレ率が13.8%に及び、過去10年で最高になった。

 これは、IMF(国際通貨基金)の予測する世界の平均インフレ率8.8%を大きく上回る。

  2000年代は、アフリカの穀物は主にアメリカから輸入されていた。しかし2010年以降は、より安価なウクライナとロシア産の輸入に傾斜し、両国からの輸出量が増大する。

 要するに、アフリカの人口増加にともなう穀物需要の増加をウクライナとロシアが支えていたわけである。

  ロシアが「黒海穀物イニシアチブ」を停止し、ウクライナ産穀物の海上輸出を保障する枠組みから離脱したことから、今後、アフリカを食料不足が直撃する可能性が。

  そのため、ロシアのプーチン大統領は27日、ロシアのサンクトペテルブルクで開催されたロシア・アフリカ首脳会議で、ウクライナ産穀物のアフリカへの輸出をロシアが代替することが可能としたうえで、3~4カ月以内にアフリカ6カ国への穀物の無償供給を開始する用意があると述べた。

  プーチン大統領は、世界的な孤立回避と対米への牽制に向け、アフリカなどの新興・途上国「グローバルサウス」の取り込みを画策した形だ。

 しかしながら、自らウクライナ産穀物輸出合意の履行を停止し、アフリカ側で食料危機への懸念と輸出再開を求める声が高まったことで、説明責任を果たすよう迫られた。

  27日の公式夕食会の場で、プーチン大統領は、

 「ソ連は、アフリカ人民が植民地主義やアパルトヘイト(人種隔離)と闘うのを支援した」

「わが国は食料問題などの解決に貢献し続ける」

6 

 と演説。西側諸国ではなく、ロシアこそがアフリカの擁護者だと、改めてアピールした。

黒海に代わる代替ルートの確保急務

 黒海経由のウクライナ産穀物の輸送合意が失効して以降、ロシアは黒海周辺に港湾部を集中攻撃。そのため、代替ルートの構築が急務となった。

 バルト海ルートの拡充案などが浮上しているものの7、短期的な物流の改善は難しく、穀物価格の高騰が生じ、食の安全保障が脅かされている。

  代替ルートとして最も注目されているのは、ウクライナ南部の港湾都市オデーサから南西200キロの「イズマイル」や「レニ」などドナウ川下流の内陸港湾部。

 ここのルーマニアとの国境を流れるドナウ川を使えば、ロシア軍の脅威にさらされにくくなる。しかしながら、このうちのレニの穀物倉庫を24日未明、ロシアはドローンで攻撃。早速、穀物輸送の停止の徹底を図った。

  一方、バルト3国のリトアニアは同日、

 「バルト諸国を経由したバルト海路は実行可能で、長期的な代替ルートになり得る」

8 

 との書簡を、EU(欧州連合)のボレル外交安全保障上級代表(外相)ら宛てに送付したと発表。

 ただこの場合でも、バルト海まではポーランドを経由して陸路で運ぶことになるため、輸送インフラの増強や手続きの簡素化が必要になってくる。仮にバルト海路が実現しても、輸送能力の向上にはまだ時間がかかりそうだ。

  他方、ウクライナのクレバ外相は7月31日、首都キーウでクロアチアのグルリッチラドマン外務・欧州問題相とオンラインで会談し、ウクライナ産穀物の輸出経路として、アドリア海やドナウ川にあるクロアチアの港の活用を検討することで一致。

 クレバ外相は、ウクライナ産穀物輸出に向けたいかなる取り組みも、

 「世界の食料安全保障への真の効果的な寄与となる」

9 

 とし、最も効率的なルートの確率を目指すと語る。

  1. BBC NEWS JAPAN「ウクライナ産農産物の輸出協定、 ロシア延長せず失効」2023年7月18日、https://www.bbc.com/japanese/66229794
  2. 浅元薫哉「ウクライナ産穀物輸出合意が停止、ロシアが延長に反対」JETRO、2023年7月20日、https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/07/a4d4517c711ba2cf.html
  3. 山と渓谷オンライン「度重なる侵略、戦争の意外すぎる原因…ウクライナを翻弄する「奇跡の土」とは?」2022年6月18日、https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=1940
  4. 山と渓谷オンライン、2022年6月18日
  5. 山と渓谷オンライン、2022年6月18日
  6. 時事通信ニュース「アフリカ会議、ウクライナが影=穀物合意停止で説明責任―ロシア」2023年7月28日、https://sp.m.jiji.com/article/show/3007548
  7. 時事ドットコムニュース「穀物輸送、代替ルート急務 バルト海経由案も―ウクライナ・黒海合意失効から1週間」2023年7月27日、https://www.jiji.com/jc/article?k=2023072600815&g=int
  8. 時事ドットコムニュース、2023年7月27日
  9. REUTERS「ウクライナ産穀物輸出、クロアチアの港利用の可能性で合意=外相」2023年8月1日、https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-croatia-grains-idJPL6N39H0C1
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