Marc HatotによるPixabayからの画像
第49回衆議院総選挙の投開票が終了し、小選挙区(定数289)と比例代表(定数176)の計465議席の当選者が確定した。
自民党は追加公認2人を含む公示前から15議席を減らしたものの、単独で過半数(233議席)を獲得し、17の常任委員会で委員長ポストを独占し、委員数でも野党を上回る「絶対安定多数」に達した。その他、与党系無所属を含めた与党の議席は294議席である。
日本維新の会は公示前から4倍以上議席を増やし、衆院第3党に躍進、与党に維新を加えた3党では計335議席を獲得し、改憲発議に必要な3分の2を上回った。
立憲民主党は公示前から14議席減らした。
目次
- 各党の各党議席(追加公認を含む)
- 相次いだ大物議員の落選
- 自民党「魔の3回生」の大半が当選
- 不発に終わった野党共闘
- 日本維新の会の躍進
- 日本の政治は、「ロシアやイラン」レベル
- 日本の女性議員の立ち位置
- 世襲の勝率は8割、非世襲は3割
- ドイツ議会では、3人に1人が40歳未満
- 求められる、被選挙権の引き下げ
- “日本沈没“のカウントダウンが始まった
各党の各党議席(追加公認を含む)
与党
自民党(261)、公明党(32)
野党
立憲民主党(96)、日本維新の会(41)、国民民主党(11)、共産党(10)、れいわ新選組(3)、社民党(1)、無所属(10)。「NHKと裁判している党弁護士法72条違反で」は議席を得られなかった。
岸田氏は、10日に特別国会を召集し、首相指名選挙を経て、第2次岸田政権が発足される見通しだ。
選挙では、格差是正を含む経済対策や、多様性を尊重した社会づくり、新型コロナウイルス対策などが争点となった。
首相は、勝敗ラインを「自民、公明の与党で過半数」に設定していた。
相次いだ大物議員の落選
今回の選挙では、閣僚経験者などの”大物議員”の敗北も相次いだ。
東京8区では、自民党の石原伸晃元幹事長が立憲民主党の新人候補に敗れ、比例復活もならず落選した。
大阪10区では、立憲民主党の副代表である辻元清美氏が日本維新の会に敗れ、比例復活ならず落選。
自民党甘利幹事長と、現職大臣である若宮万博相が小選挙区で敗れ、比例で復活当選した。
野党では、立憲民主党の小沢一郎氏が岩手3区で自民党候補に敗れ、比例での復活当選をする。
とくに、自民党の幹事長という役職は党を仕切り、選挙の責任者でもある立場だ。この幹事長が小選挙区で敗れるのは、初めてのことである。幹事長は、メディアにもよく露出し、選挙戦でも有利に働くとされる。
甘利氏の落選についてある閣僚は、「甘利さんの小選挙区の敗北だけで100人分のダメージ」と語った。
自民党「魔の3回生」の大半が当選
選挙では、2012年衆院選で初当選したものの、不祥事が相次いだ「魔の3回生」と呼ばれる当選3回の自民前職76人中71人が当選した。
76人の大半は、自民党への追い風で大勝した12、14年衆院選と、野党の事実上の分裂による「敵失」で助けられた17年衆院選で当選を重ねてきた。
12年には、119人が当選。14年は105人が再選を果たし、17年は87人が3選を決めた。
今回の衆院選では、76人に公認候補のうち小選挙区で48人、比例単独で2人が当選。小選挙区で落選したものの、比例復活による当選者が21人で、落選者は5人にとどまった。
不発に終わった野党共闘
他方で、野党共闘は不発に終わった。
立憲民主党の枝野幸夫代表は31日深夜に記者会見し、東京8区で立民候補が自民党の石原伸晃元幹事長に勝利したことに触れ、
「自民が強いといわれたとことでも接戦に持ち込めた。一定の成果はあったと強調」
しつつも、
「一票一票を積み重ねる足腰が弱い。自民は最低限の票をきちんと出した。地に足を着けた活動で自民の岩盤支持層と対抗できる力を付けないといけない」
と口にする。
小沢一郎氏や海江田万里氏らベテランが自民党候補との接戦を落とすなど、勝ちきれない選挙区も目立った。
この4年間で、森・加計・サクラなど相次ぐ自民党の負の遺産や、新型コロナ対応につまずく自民党を批判しつつも、ワイドショーなどまともな報道もできないマスコミの中で情報が“汚染“され、「批判ばかりの野党」という間違ったレッテルが貼られたこと、戦後3番目に低い投票率により、「小選挙区での自民党は、全有権者の4分の1程度の“固定票“に支えられている」という定説が、いつも通りに機能したことは否めない。
あるいは、自民党が「立憲共産党」というビラをまいたことで、“共産アレルギー“が増幅したことや、逆に「立憲民主党」という党名が何を訴えたいのか、不明瞭なのが一因という見方もある。
候補者の選定にも課題が見えた。立憲とて、候補者の大半は有名大学の卒業者や大企業出身者のエリートであり、いくら公募で選んでも自民党とは大差がなかった。
日本維新の会の躍進
日本維新の会は、公示前の11議席から大きく上回る41議席を獲得し、第3党に躍り出た。
とくに比例では、北海道を除く10のブロックで議席を確保し、目標とする「全国政党化」への足場を作ることに成功した。この成功の要因は、徹底した独自路線だ。
17年選挙は、同じ「保守」を掲げる小池百合子東京都知事が率いた旧希望の党との連携を図ったが、旧希望が比例で967万票を獲得したのに対し、338万票にとどまった。
ただ今回は、旧希望の党との流れをくむ国民民主党とは連携せず、自公政権との「是々非々」の路線をアピールした。
だが維新といえば、公明、自民に次ぎ女性候補者の割合が低い党である。また北方領土訪問中に、「戦争しないとどうしようもなくないですか」「女を買いたい」などと暴言を吐いた国会議員や、路上で10代の女性に向けて男性器を露出して逮捕された東京都港区議もいた。
地盤である大阪は、人口比で最も新型コロナウイルスによる死者を出し、ろくに病院にも行くこともできかなった人が続出し、“医療崩壊“も進んだ。
あるいは、医療機関で防護服が足りないからといって「雨ガッパ」を提供させたり、イソジンが有効であるという記者会見を開いた。
そのような点でいえば、日本維新の会の躍進は、また一歩、「日本の保守化」が進んだ証ともいえる。
基本的に、社会が高学歴化し、多様性が進めば、人々はリベラル化するといわれている。しかし日本は、先進国で当たり前の高等教育の無償化がなされず、他方、世界を見渡せば30代・40代の大学入学者も増えていっている中で、日本はそのような流れになっていない。
いまだ、「レジ袋の無料化」を望む国民が多くいる中で、日本国民の「知識社会化」が進まず、「リベラル化する世界」の中で、日本だけが保守化への傾向に舵を切った流れとなった。
日本の政治は、「ロシアやイラン」レベル
『最初から結果が見えて選挙』というと、ロシアやイラン、香港などを思い浮かべる人が多いと思う。しかし、議会制民主主義を採用し、世界第3位の経済大国である日本では、1955年以来、4年間を除いてずっと同じ政党が政権を握っている
との記事を先月の自民党総裁選時に書いたのは、ニューヨーク・タイムズである。
自民党は、GHQによるアメリカの占領が終わった3年後の1955年に誕生した。自民党結成の背後には、共産主義や左派勢力の台頭を恐れたアメリカのCIAが、いくつかの保守勢力をまとめたと指摘されている。
戦後の経済成長とともに着実に強化された自民党の強さは、「形を変えることがうまい」ことだとも。総裁選で見られたように、保守のタカ派からハト派的な人物まで揃っていることが、自民党長寿の秘訣であると、前述したニューヨーク・タイムズが書いた。
もし有権者が1つのバージョンに飽きてしまっても、もう1つの方向に舵を切ればよい。あるいは、過去には自民党が野党の政策のアイデアをうまく“丸呑み“してきたのも力の源泉だという。
また、「何でもあるのが自民党なので、有権者は、とくに野党を求めなくてもよくなっているという状況もある」と指摘される。
さらに野党勢力が弱いことも、日本で政権交代が起きない理由の一つとされた。
日本の女性議員の立ち位置
また海外メディアが着目するのが、日本政治における女性議員の立ち位置だ。
自民党総裁選では、初めて女性候補と男性候補が同数になった、女性政治家の2人が敗れたことも、「とくに驚くことではない」と報じたのがアメリカのAP通信。
総裁選は、「自民党が年配の保守的な男性の重鎮に支えられており、女性が政治の世界で平等になるのはまだ先のことだということを明確に示した」と論じた。
ワシントンポストも、小池百合子東京都知事の「日本にはタリバンがいないのに、なんでこんなに女性活躍が遅れてきたのか不思議に思うくらい」との発言を紹介しながら、総裁選における2人の女性候補がただ単に負けただけでなく、勝利にはほど遠かったことを伝える。
AP通信の記事は、日本の政治における女性の存在は、「超少数派(tiny minority)」であるとする。
その中でも極端に女性議員の数が少ないのは自民党であり、解散前の数字は、自民党の女性衆議院議員は9.8%にすぎず、他の党の15%から32%の数字とは大きくかけ離れていると指摘している。
さらに、「アナリストによると、多くの女性議員は男女平等を追求するよりも、党への忠誠心を示すことで上昇しようとする傾向がある」と指摘する。
この傾向が、わずか10%(解散前)の衆議院議員の割合にあらわれている。この状況は、これからも変わらないだろう。
政治家は、お金を集めたり、業界団体の意向を固めたりすることで、政治力を発揮するが、肝心の経済界も地域社会も、いまだ男社会だ。
その中で女性が飛び出すとしても、「お姫様」として担がれるだけである。
いくら、マスメディアが「男女平等」を叫んでも、半径100mの社会の状況を着実に変えて行かなければならない。かつ、このような問題は政治だけのことではなく、日本社会のあらゆる側面に横たわる構造的な問題でもある。
世襲の勝率は8割、非世襲は3割
また、そもそも日本の選挙は、「新規参入」が難しい。
日本経済新聞の調査によると、1996年に小選挙区比例代表並列制が導入されてからの過去の8回の衆院選では、比例での復活を含め、当選者のうちの新人はわずか2割程度にとどまるという。
比例は、地元の利益を優先しがちな小戦区候補とは異なり、有権者の多様な意見を吸い上げるための制度であるが、しかし実際は比例制度が小選挙区落選者の事実上の救済制度になっている側面がある。
調査では、現職が有利であるとともに、候補者全体の13%が世襲で、その勝率は比例代表による復活当選を含め、8割にのぼる一方、世襲ではない候補者の当選は3割程度であることも明らかとなった。
世襲候補が強い理由は、日本の選挙というものが政党を中心に繰り広げられるのではなく、後援会の支持基盤を個人で作らなければならない、個人単位の選挙であるからだ。
アメリカでも個人の地盤が大きく影響することは事実だが、しかし党内の予備選挙に勝ち残れば誰でも出馬でき、イギリスなどでも国政選挙の前に党で予備選挙を行い、候補者を党員投票により決めている。
このような政党政治が根強い国では、政策論議を行いオープンに候補者を選考したり、候補者をトレーニングする仕組みが整っているが、日本にこのような仕組みがなく、ただ単に党内の権力闘争で候補者が決まってしまうのが現状だ。
ドイツ議会では、3人に1人が40歳未満
この9月末、ドイツで総選挙があった。この選挙では、若い候補者が多く当選し、戦後最も若くて多様な議会になった。
選挙前には、40歳未満の議員の割合は7人に1人だったが、選挙後には3人に1人の割合になる。
たとえば、緑の党から当選したのは23歳の現役大学生であり、議会にはスケートボードで通勤しているという。
自由民主党(FDP)からの当選者(31歳)は、11歳の時にイラクからやってきた移民であった。
世界の国会議員が参加する列国国会議員同盟(IPU)が2018年に発表した統計によると、日本の衆議院の40歳の議員比率は8%、そして世界で一番高いのはデンマークであり、その割合は41%である。
求められる、被選挙権の引き下げ
最近、日本では投票できる選挙権が18歳になったが、他方、議員として立候補できる被選挙権は依然として衆議院は25歳、参議院は30歳。一方、世界では18歳が最多を占め、ドイツをはじめとする欧州各国ではそれを18歳から16歳に引き下げる議論をしている。
ただ単に選挙権も被選挙権も引き下げるのではなく、義務教育の段階から「主権者教育」を行い、たとえばその一環として、地元の学校から議会の傍聴に行ってもよい。
親が選挙の時に子どもを一緒に投票所に連れて行くと、その子どもも将来、自然と選挙の行くというデータもあるが、また逆に子どもが選挙に行くことで、親への良い教育効果も生まれるという、相乗効果もあると欧州では指摘されている。
“日本沈没“のカウントダウンが始まった
過去30年にわたり、日本は国民一人当たりのGDPも国民一人当たりの所得も横ばいのまま一向に上がらず、ほとんどの経済指標で先進国中最低水準へと転落してしまった。
経済面だけでなく、日本は男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」では156カ国中120位、「報道の自由度ランキング」でも180カ国中67位、「国政投票の投票率」においてもOECDに加盟国38カ国中31位と、民主主義の成熟度を示すあらゆる指標で、最下位の部類に入る。
さらに日本の「人質司法」による人権侵害は、カルロス・ゴーン元日産CEOの逮捕の際には、世界から驚きを持って伝わった。
環境問題については、いまだ石炭火力発電所を作り続け、地球温暖化対策を話し合うための国連気候変動枠組条約締結国会議(COP)が開催されるたびに日本に化石賞(Fossil Award)が贈られることがもはや定番となっている。
世界を見渡せば、1980年代末以降に誕生した新興の民主主義国では、新しい価値観がその憲法に刻み込まれている。たとえば、議員の定数男女同数などだ。
今や、アメリカ合衆国憲法が、「世界一古くてダサい憲法」とさえいわれる始末であり、日本の憲法さえ、時代遅れになりつつある。戦前に作られた民法は、もはや考えられない古さだ。
日本という国を、根本からアップデートしなければ、世界の潮流から置いていかれ、もはや沈没あるのみだ。