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殿様枕症候群という言葉が注目を集めている。
国立循環器病研究センターの研究チームによって提唱された新しい概念であり、高い枕の使用が脳卒中のリスクを高める可能性があることを示している。
症候群の名称は、江戸時代に武士がちょんまげを守るために使用していた高い枕に由来する。
研究チームは、原因がわからない患者の中に高さ17~19センチにもなる極端に高い枕を使っている人がいることに注目。
2018~23年に同センターで特発性椎骨動脈解離と診断された53人(45~56歳)と、同じ時期に脳梗塞(こうそく)や脳出血で入院し性別や年齢などをそろえた53人を比較対象とし、発症時に使っていた枕の高さを調べた。
枕は寝具メーカーや業界の専門家の意見を参考に、売られている枕の中で12センチ以上を「高い」、15センチ以上を使用がすすめられないほど「極端に高い」と定義した。枕の高さが12センチ以上は計26人いた。
その結果、12センチ以上の枕を使っていたのは特発性椎骨動脈解離の患者で34%(18人)に対し、比較対象の方は15%(8人)。
15センチ以上ではそれぞれ17%(9人)と1・9%(1人)だった。枕が高いほど特発性椎骨動脈解離を発症しやすかったという1。
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殿様枕症候群とは?
枕の高さでみると、15センチ以上を使っていた人の9割が特発性椎骨動脈解離の患者だった。
枕が高いと首の屈曲(あごが胸につく方向に曲がっている度合い)が大きくなるほか、寝返りなどで首が回るときに血管が傷つくことが考えられるという。
枕の硬さや、特発性椎骨動脈解離のリスク要因である首の屈曲の有無も調べており、枕が硬いと発症との関連が強く、やわらかい枕だと緩和される傾向がみられた。
特発性椎骨動脈解離は過去に首に受けた外傷が起因していることもある。そこで研究チームは、
①枕が高い
②過去に軽微な場合も含めて外傷がない
③起床時に発症した
――の3条件を満たす患者を探しだし、高い枕を使うことが特発性椎骨動脈解離の原因の約1割を占めると結論づけた。
センターの田中智貴医長(脳神経内科)は、
「そばがら枕に低反発枕やタオルなどを重ねて使っている方も結構多い。枕の高さが15センチ以上だと、枕がやわらかくても首の屈曲がひどくなるので、とりわけ使用を控えるのが望ましい」
と指摘。
田中さんらによると、日本では17~19世紀にかけて、「殿様枕」と呼ばれる高く硬い枕が、髪形の維持のため、性別を問わず人々の間で使われていて、江戸時代の随筆には、枕の高さは「寿命三寸楽四寸」という記述があるとのこと2。
なぜ危険?
高い枕を使用することで、特発性椎骨動脈解離という脳卒中の一種を引き起こすリスクが高まる3。
国立循環器病研究センターの研究によると、12cm以上の高い枕を使用している人は脳卒中のリスクが約2倍、15cm以上の極端に高い枕では約9倍にまで上昇。
とくに高い枕を使用すると、首が不自然な角度で曲がり、椎骨動脈に過度なストレスがかかる。これにより、血管が裂けるリスクが高まる。
また、首の屈曲が大きくなることで、首の後ろにある椎骨動脈の血流に悪影響を与える可能性も。
研究結果によると、枕が硬いほど特発性椎骨動脈解離との関連が強くなる傾向が見られた4。 特発性椎骨動脈解離は15〜45歳の若い世代の脳卒中の8〜10%を占めており、働き盛りの世代にも影響を与える可能性がある。
睡眠時間は人生の約3分の1を占めるため、不適切な枕の使用が長期間続くことで、リスクが累積する可能性がある。
予防策としては、適切な高さと硬さの枕を選ぶこと、首への負担を軽減する睡眠姿勢を心がけることが重要だ。また、枕の選び方や睡眠姿勢について専門家に相談することも有効な対策となる。
適切な枕の選び方
殿様枕症候群から身を守るためには、適切な枕の選び方が重要だ。
理想的な高さは成人女性には約6cm、成人男性には約7.5cmの高さ。これは、首の自然なカーブを保ち、血流を妨げないためだ。 逆に枕の高さが12cm以上の場合、特発性椎骨動脈解離のリスクが高まる。
特に15cm以上の枕は極端に高く、リスクがさらに増大する5。
枕は硬すぎず、柔らかすぎないものが理想的。硬すぎる枕は首の血管に過度な圧力をかけ、柔らかすぎる枕は首を十分にサポートできまない。
そして仰向けや横向きで寝たときに、首が自然な位置に保たれることが重要。横向きに寝る場合、首の骨が床と平行になるような高さの枕を選ぶ方がよい。
また枕が柔らかすぎると寝返りがしづらくなり、硬すぎると首に負担がかかる。適度な柔らかさで寝返りがしやすい枕を選ぶ必要も。
しかし体重や体型によって適切な枕の高さは異なる。自分の体型に合った枕を選ぶために、専門店で計測してもらうのも一つの方法6。
殿様枕症候群を予防するためには、適切な高さと硬さの枕を選び、首の自然なカーブを保つことが重要。枕の選び方を見直し、健康的な睡眠姿勢を確保することで、脳卒中などのリスクを軽減することができる。
- 桜井林太郎「高い枕で寝ると脳卒中になりやすい? 国循が「殿様枕症候群」を提唱」朝日新聞デジタル、2024年2月18日、https://digital.asahi.com/articles/ASS2J53WVS2HPLBJ00B.html
- 桜井林太郎、2024年2月18日
- 読売新聞オンライン「殿様枕症候群」ご注意、高くて硬い枕に脳卒中のリスク…首への負担が原因か」2024年2月20日、https://www.yomiuri.co.jp/medical/20240220-OYT1T50107/
- 桜井林太郎、2024年2月18日
- 読売新聞オンライン、2024年2月20日
- みみより!解説「高い枕で脳卒中?殿様枕症候群とは」NHK、2024年6月19日、https://www.nhk.jp/p/ts/X67KZLM3P6/episode/te/9WZG8VPX6K/