日本の清掃法制の出発点として、1900年(明治33年)制定の「汚物掃除法」がある1。コレラやペストが頻発していた当時、感染源の除去は国家的課題であり、この法律はその対策として導入された2。そして明治政府は、「伝染病予防法」や「下水道法」などとあわせて都市衛生の近代化を進めていった。
汚物掃除法の特徴は、清掃を国民の義務とし、警察がその履行を直接監督した点にある。そして年2回の大掃除は、ネズミやノミなど病原媒介生物の駆除を目的とした「公衆衛生作戦」として実施され、この慣習は1954年の清掃法制定まで続いたが3、その過程で、「年末には徹底的に掃除をする」という行動様式が社会に定着していく。
こうした「清潔を保つことは義務である」という考え方は、形を変えつつ現代にも受け継がれている。労働安全衛生法では、事業者に対して職場の清掃を定期的に行う責任を課しており、6か月以内ごとに1回の大掃除や害虫・ネズミの防除が求められている4。
年末に増える脚立・はしご事故 高齢者の重症例が目立つ
年末の大掃除や家庭内の修繕作業が増える時期は、脚立やはしごを使用する機会も自然と多くなる。それに伴い、転落事故による救急搬送件数も増加しており、特に高齢者における重症事例が目立つ。消防庁や消費者庁の統計によれば、事故の多くは脚立そのものの欠陥というよりも、「天板の上に立つ」「片手で作業する」といった不適切な使用方法に起因しているという5。
1こうした慣習は、個々の家庭の自発的な文化というより、生活の規律と秩序を形成するために設計された社会的装置として機能してきた。 2一方で、大掃除は明治期以降はコレラなどの流行を受け、公衆衛生を重視する国家政策のもとで清掃が制度化され、国民生活に強く浸透していった。 3消防庁や消費者庁の統計によれば、事故の多くは脚立そのものの欠陥というよりも、「天板の上に立つ」「片手で作業する」といった不適切な使用方法に起因しているという。 4これは西洋化への対応であると同時に、国民生活の時間管理を制度化する試みもあった。 5結果、元日を中心とする三が日の休暇が定着し、国家・経済・生活文化が連動する年中行事が形成された。
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