北朝鮮でも拡大する新型コロナウイルス ワクチン未接種が大半 保管システムも未整備

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北朝鮮で、新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がっているようだ。

 13日、朝鮮中央通信が新型コロナウイルス感染による死者が出たことを初めて発表、それによると「原因不明の熱病」により約18万7800人が隔離や治療を受けていることを明らかにした(14日時点)。また、12日の1日間だけで約1万8000人が発熱したという。

 朝鮮中央通信によると、これまでに38万人が発熱、うち約16万2200人は完治したという。「熱病」として公表された死者は6人であるが、このうち正式に新型コロナウイルスと特定されたのは1人だけで、そもそも検査体制が全く整っていない状況がうかがえる。死者は、オミクロン株の「BA.2」系統であったことが分かっている。

 北朝鮮は、2020年1月から国境を封鎖してきた。また、国際社会からのワクチン提供の支援も拒否。そのため、市民には免疫がないうえ、医療や検査体制も脆弱であることは間違いない。

 今後、感染の拡大により、”国家的な危機”になりかねず、中国、あるいは国際機関などに対し、支援を要請するとの見方も。一方で、北朝鮮が核実験の準備を完了したとの情報もある。

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軍事パレードが引き金?


 金正恩朝鮮労働党総書記は、「首都圏を中心に同時多発的に広がった」と発言した。首都である平壌では、4月、金正恩体制10年を祝い、盛大な軍事パレードなどの行事が開催、それが今回の感染拡大の引き金となったおそれがある。

 貿易で北朝鮮の事情を知る関係者は12日に、

 発表したのは感染がかなり広がり、住民に統制への理解を求めるしかないところまで追い込まれただろう

西日本新聞5月14日朝刊

と北朝鮮の発表を見て話したという。

 その関係者によると、北朝鮮では2020年1月末に国境を封鎖したあとも、コロナの感染疑い例が何度も発生。そのたびに当局は、厳格な地域封鎖を繰り返し、「(拡散の)芽をつぶす」ことに成功してきたという。

 とくに最近の中国での感染拡大を受け、中国の丹東と北朝鮮北西部の新義州を結ぶ貨物列車を4月末に止めるなど、国境付近においては、警戒は緩めていなかった。

 だが平壌では、4月15日の故金日成首席の生誕110年記念日には、市民数万人が行進し、また25日の朝鮮人民革命創建90周年記念日には、

 史上最大の大政治、軍事祝典

と銘打ったパレードに全国から部隊が集結した。

 韓国では、北朝鮮が今回の大規模な感染を公表した背景には、支援を求める意図があるのではないかという憶測もある。

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ワクチン未接種がほとんど


 北朝鮮国民は、ほとんどが新型コロナウイルスのワクチンを接種していないとみられる。

 昨年8月4日、米国政府系放送「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)のインタビューに対し、ユニセフ(国連児童基金)の報道官は、技術的なサポートを行っているとし、北朝鮮へのワクチン供給に対し、

 (北朝鮮)政府はCOVAX(コバックス)が支援するワクチンを受け取るに必要な事前の手続きをまだ完了していない

と明らかにした。

 ただ、ユニセフの報道官は、北朝鮮が終えていないという手続きや、ユニセフのサポートなどの具体的な内容については言及していない。

 北朝鮮は当初、新型コロナワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組みである「COVAX」を通じ、昨年の5月末までに、英国のアストラゼネカ製のワクチン170万4000回(85万2000人分)の供給を受ける計画であったという、

 しかし、この計画は、北朝鮮がウイルス流入を理由に、ワクチンを届けるスタッフの訪朝を拒否するなど、行政的な手続きに協力していないと、ボイス・オブ・アメリカが報じている。

 米国のワシントンポストによると、北朝鮮とアフリカのエリトリアの2カ国が、「ワクチン未接種国」であるという。

ワクチンをめぐる世界の支援


 北朝鮮へのワクチン供与については、世界各国も動いていた。そのなかでも隣国の韓国は、いち早く支援の意向を示す。

 韓国の尹錫悦大統領は13日、ワクチンや医薬品を支援する方針を示す。大統領府の関係者は、

 北朝鮮からの要請や水面下のやりとりはなかった

としながらも、尹政権側は、人道支援として制裁下の北朝鮮であったとしても支援する意向だ。

 北朝鮮側はこれまで、韓国の支援を拒否してきたが、韓国政府は、北朝鮮の状況を、「想像以上に深刻」とみている。

 韓国には現在、米国のファイザー製など約1470万回分の余剰のワクチンがある。

 南北関係をめぐっては、2019年の米朝首脳会談が決裂後、南北関係も冷却化した。尹政権は、文在寅政権下で停滞した南北対話の再開につなげるとともに、北朝鮮に強硬というイメージを薄める思惑もあるとみられる。

 その他の国の支援としては、日本、アメリカ、中国、ロシアの動向が明らかとなっている。

 日本政府内には、「人道的な支援は制裁とは別の話だ」「まずは国際機関を通じての支援になるのでは」との声が。

 米国政府は、北朝鮮側と直接、ワクチンを共有する計画はないとしながらも、ホワイトハウスのサキ報道官が12日、会見で、

 最も弱い立場にある北朝鮮の人々に人道的支援を提供する国際的な取り組みを引き続き支援している

と強調した。

 一方、ユニセフは、昨年9月、北朝鮮が中国製のワクチン「シノヴァク」の約300万回分の受け取りを拒否したと明らかにしている。また、ロシア大統領府も北朝鮮側から要請があればワクチンの提供など医療的な支援を行う考えを示した。

金正恩氏、「建国以来の大動乱」


 北朝鮮の状況は、想像以上に深刻なようだ。金正恩氏は、14日、朝鮮労働党政治局の協議会において、「建国以来の大動乱」と危機感をあらわにした。

 朝鮮中央通信によると、13日には前日の10倍近くにのぼる約17マン4400人の発熱者が出て、21人が死亡したと発表。

 医療関係者に加え、全国の医大の教員や学生らも動員して住民の検査や治療を急いでいると伝えられている。

 北朝鮮はPCRの検査体制を備えていないとみられ、発熱の有無で新型コロナの感染が疑われる人を分類しているという。

 北朝鮮保健医療専門家である漢陽大医大のシン・ヨンジョン教授は、

 北朝鮮は現在、一日に約120件のPCR検査を行っていると世界保健機関(WHO)に報告している

とし、

 今のように数万、数十万人が発生する状況ではその程度の対応力では対処できないため、結局発熱の有無で把握するしかない

と説明する。

 ソウル大学医科大学統一医学センターのムン・ジンス所長は、

 北朝鮮はワクチン接種をしなくて重症発生率が高いだろう

とし、

 わが国は集中治療室で治療した末に死亡するが、北朝鮮は保健医療インフラが劣悪で重症に進めば死亡を防ぐことが難しいだろう

と話した。

 一方で、北朝鮮にワクチンを支援することも容易ではないという分析。ムン・ジンス教授は、

 北朝鮮にファイザー・モデルナのようなmRNA(メッセンジャーリボ核酸)ワクチンを支援しても低温状態を維持しつつ配送するコールドチェーンシステムがなく、これらのワクチン支援は難しい。

 それを支援するためには冷凍車の燃料を含めコールドチェーンシステムをパッケージで支援しなければならないが、国連の制裁と衝突する可能性もある

とする。他方、


 一部でバイデン米大統領の訪韓に合わせてこの問題をパッケージとして扱う問題を考慮しようという主張が出ている

する。

 北朝鮮の朝鮮中央テレビは16日、14日夕方の段階で、平壌の42人など、全国で少なくとも168人の感染が確認されたと発表した。


参考文献一覧

『北朝鮮にワクチン、医薬品支援 米とも協議―韓国大統領』時事ドットコムニュース、2022年5月13日、https://www.jiji.com/jc/article?k=2022051300766&g=int

『北朝鮮“一日17万人以上発熱”キム総書記「建国以来の大動乱」』NHK NEWS、2022年5月14日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220514/k10013625921000.html

『北朝鮮、コロナ感染爆発か 隔離・治療19万人―中国・国際機関に支援要請も』時事ドットコムニュース、2022年5月14日、https://www.jiji.com/jc/article?k=2022051301203&g=int

『北朝鮮、農繁期に新型コロナパンデミック…「大規模の餓死発生を懸念」』中央日報、Yahoo!ニュース、2022年5月16日、https://news.yahoo.co.jp/articles/aa687515f92341706a80def13d8c0823b6a25389

『「PCR検査」実施、一日に120件のみ…北朝鮮は感染者をどうやって確認するのか』中央日報、Yahoo!ニュース、2022年5月16日、https://news.yahoo.co.jp/articles/539470569050c1c91b8c8081c1779bbd01ec8fee?source=rss