日銀新総裁決定の運び 戦後初の経済学者出身 サプライズ人事? 今後は女性の起用も求められる 日本の中央銀行のジェンダーバランス指数 世界185行のうち142位

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mireya fernandezによるPixabayからの画像

  岸田文雄首相は、4月8日に任期満了となる日銀の黒田東彦総裁(78)の後任に、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏(71)を起用する意向を固める。経済学者出身の総裁は戦後初。

  なお、副総裁は前の金融庁長官の氷見野良三氏(62)と日銀理事の内田真一氏(60)を候補とする。任期はいずれも5年。

  政府は当初、黒田氏の後任として雨宮正佳副総裁に打診したという1。植田氏は金融政策の研究が専門。東大教授から1998年4月に日銀審議員となり、再任されて2005年4月まで7年間務めた。

  在任中は、日銀が採用したゼロ金利政策や、量的緩和といった非伝統的景気刺激策を、理論面から支える。岸田首相は、こうした実績を高く評価しているという2

  この人事について、海外メディアは驚きをもって伝えた。米紙ワシントン・ポスト氏は、雨宮氏と元副総裁であった中曽宏・大和総研理事長が次期総裁の本命とみられていたとし、植田氏の起用は、

「ほとんどのエコノミストは予想しておらず、サプライズだった」

と解説。

  ブルームバーグ通信も、

「ウエダ・カズオとは誰だ?」

とのタイトルで人事を報道した。

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日銀新総裁決定の運び 戦後初の経済学者出身 サプライズ人事? 今後は女性の起用も - モリの新しい社会をデザインする The Middle News Jounal | stand.fm
日銀の新総裁に、植田和男氏が起用された。経済学者出身の総裁は戦後初で、メディアは「サプライズ人事」と報道。植田氏は金融政策の研究が専門で、数々の金融政策運営の現場で重責を担った。 #日銀総裁
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戦後初の経済学者出身

 
 日銀と財務省(旧大蔵省)出身者以外が総裁につくのは、1969年まで総裁を務めた宇佐美洵氏(旧三菱銀行出身)以来。

  FRB(米連邦準備制度理事会)の前の議長であるイエレン氏など、主要国の中央銀行では経済学者がトップを務める例が少なくない。岸田首相が植田氏を総裁の起用したことは、日銀史上、大きな転換点でもある。

 「新参、古参の日銀職員はもちろん、市場関係者の多くは「植田先生の本で金融政策を学んだ」という人々であふれている。」

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 このように評されるほど、植田氏は実績のある経済学者の一人だ。1998年から7年間、日銀の審議委員として金融政策運営の現場で重責を担った経歴もある。

 「発表されてみれば、日本の金融政策運営の重責を担う最高責任者として、非の打ちどころがない人選だろう。」

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  経済学者のイェスパー・コール氏は植田氏について、

 「教義ではなく科学を重視する人物であり、自らの仮説を現実世界で検証することを恐れない、深遠かつ創造的な思想家だ」

 と報告書で書いている5

サプライズ人事?

  今回の人事は、雨宮正佳副総裁らが有力視される中での「サプライズ人事」となった。それは、政界も同様であったようだ。

 「全然知らないよ。よく見つけてきたな」

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  これは、首相に近い、自民党閣僚経験者の言葉だ。岸田首相は、就任以来、「新しい資本主義」を掲げ、さらに年が明けた年頭の記者会見では、

 「この30年間、想定されたトリクルダウンは起きなかった」

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 とアベノミクスの理論に言及。このことに対し、自民党安倍派や安倍氏を強く支持する保守派は、

 「大規模金融緩和からの路線転換から造反する」

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 との声が上がる。一方、首相は、

 「黒田路線から転換し過ぎると市場を混乱させる。変化がなくても失望させる」

 と慎重に落としどころを探っていた。結果、金融緩和の役割も重視する植田氏が選ばれたことに、安倍派の中堅議員らは、

 「肩透かしにあった」

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 と口にしたり、あるいは、自民党の重鎮は、

 「党内で文句を言われないよう配慮した結果だ」

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 とそれほどの驚きはなかったようだ。

今後は女性の起用も求められる 日本の中央銀行のジェンダーバランス指数 世界185行のうち142位

 
 本当の「サプライズ」を求めるのならば、それは女性の登用だろう。すでに世界各国の中央銀行のでは、女性の正副総裁は珍しくない。

  FRB(アメリカの連邦準備理事制度理事会)では、2014年から2018年までイエレン氏が女性初の議長を務めた。

 欧州中央銀行(ECB)でも2019年、IMF(国際通貨基金)の専務理事を務めたラガルド氏が女性初の総裁となった。あるいは、ロシアやベトナムの中央銀行トップも女性だ。

  そもそも日銀の正副総裁が過去、すべて男性が務めてきた。また金融政策の決定権を持つ正副総裁を含む政策委員の9人のうち、女性は1人だけという状況が長年固定化されている11

  結果として、イギリスのシンクタンクOMFIMが昨年に公表した中央銀行のジェンダーバランス指数で、日銀は世界の中央銀行185行のうち142位という低評価を受けた。

  米ブルームバーグのエコノミストは、日銀の正副総裁の候補として、日本総研の翁百合理事長や、日銀の清水紀季子理事らの名前を挙げている。

  SGDsに詳しい慶応大学大学院の蟹江憲史教授(国際関係論)は東京新聞の取材に対し、ジェンダー平等の視点が必要な理由として、女性が組織の中枢で政策の議論に加わることで、多様な考えが生まれ、結果、社会が強くなっていくと述べた。

  1. 小宮弘子、船曳三郎「円急伸、日銀新総裁に植田氏起用と報道-長期金利は日銀上限0.50%に」Bloomberg、2023年2月10日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-02-10/RPUSCVT0AFB401 
  2. 西日本新聞「日銀総裁 植田氏起用へ」2023年2月11日付朝刊、1項 
  3. 植野大作「コラム:植田新総裁は黒田路線を取捨選択か、緩やかなドル安・円高に」ロイター、2023年2月14日、https://jp.reuters.com/article/column-daisaku-ueno-idJPKBN2UO0B3 
  4. 植野大作、2023年2月14日 
  5. 大井真理子「日銀の次期総裁は日本経済を立て直せるか 政府が植田和男氏の起用案」BBC NEWS JAPAN、2023年2月15日、https://www.bbc.com/japanese/64645621 
  6. 西日本新聞「読み解く 転換にらみ? サプライズ」2023年2月11日付朝刊、3項 
  7. 西日本新聞、2023年2月11日、3項 
  8. 西日本新聞、2023年2月11日、3項 
  9. 西日本新聞、2023年2月11日、3項 
  10. 西日本新聞、2023年2月11日、3項 
  11. 東京新聞「こちら特報部 女性起用 実現ならず」2023年2月20日付朝刊、22項 
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