タイタニック残骸見学ツアーの悲劇 なぜ起こった? 致命的な潜水艇「タイタン」の欠陥 危険を求める富裕層の旅”エクストリーム・ツーリズム”とは?

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OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像

 カナダ東部沖の北大西洋で連絡が途絶えた潜水艇タイタンは22日、海底に沈むイギリスの豪華客船タイタニック号の残骸の近くで、破片が見つかる。

  世界の注目を集めた捜索劇は、しかしおおよその位置を把握しながらも遠洋のために困難を極め、発見にいたるまで4日を費やした。最終的に発見の決めてとなったのは、深海にたどり着ける無人の探査機。

  しかし、アメリカのメディアによると、敵の潜水艦を探知する米海軍のセンサーが、潜水艇が消息を絶った直後に現場付近で破裂音を検知し、沿岸警備隊に伝達をしていた。

 当初、捜索範囲は日本の四国4県を合わせた面積のおよそ1.5倍とされたが、捜査の決め手となったのは、敵の潜水艦を探知するセンサーだった。

  「米政府が保持している国家機密の中でも、米軍が高度な音響技術を使って水深数百メートルの海水での敵対勢力の行動を探る方法ほど厳重に守られている機密は少ない」

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  アメリカが水中の監視能力の開発に取り組んだのは、1世紀以上も前から。第二次世界大戦中には、大西洋でのドイツのUボート(潜水艦)を探知するために、長距離のソナーシステムを開発する。

  冷戦時代には、「SOSUS」と呼ばれる音響監視システムの開発に着手。しかし、このシステムは今もって極秘のままだ。ただ、SOSUSは以前にも沈没船の捜索に使われたことがある2

  1963年にマサチューセッツ州ケープコッド沖で潜水試験中に沈没し、乗組員129人全員が死亡した米海軍原子力潜水艦「スレッシャー」の捜索のときだ。

 SOSUSは今もって現役で稼働しており、タイタンの圧壊音を検知した可能性は極めて高いという。

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無人探査機が潜水艇の破片を発見

 ただ、現場はカナダから700キロ、アメリカからは1400キロも離れ、船舶が海域へ向かう間は空からが捜索の中心となった3

 5人の定員が乗ったタイタン内部の酸素が尽きる96時間のタイムリットが近づくたびに、捜索隊の焦りは深まる。

  海中で発見した場合に備え、直ちに救出できるよう、米海軍の引き揚げ機材の確保も「最優先」事項して、準備された。20日~21日には、哨戒機が海中で「たたく」ような音を感知したという情報が。

  「生存者がいる望みがある」との期待も高まるも、結局は無関係とされ、発生源も不明なまま。

  酸素切れの期限とされた22日午前。カナダの船舶などが輸送した高性能の無人探査機が状況を一変させる。アメリカの海洋調査会社が保有し、深さ6000キロメートルまで潜水可能な探査機だった。

  今回の捜索で初めて3800メートルの海底で様子を写し出すと、深海に眠るタイタニック号の船首から500メートルほど離れた場所に潜水艇の破片が散乱していた。これは、「破壊的な破裂」(沿岸警備隊)をうかがわせるものだった。

  発見された破片から、「壊滅的な爆縮」が起きた可能性が高いということが分かった。米海軍高官はウォールストリート・ジャーナルに対し、

「米海軍は音響データの分析を行い、通信が途絶えたタイタン潜水艦が航行していた場所のほぼ付近で爆縮または爆発と一致する異常を検出した」

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と語った。

  爆発は内から外に圧力が働くが、爆縮は外から内に圧力が働く5。タイタンの全長は6.7メートル。爆縮が起きると1ミリ秒(1000分の1秒=0.001秒以内で船体が完全に崩壊することに。

 人間が刺激を受け、脳が感じ取るには数百ミリ秒かかるというため、痛みを感じる前に亡くなっていたことになるという6

 致命的な欠陥

 事故の原因究明はこれからだが、「実験的」(海洋専門家)な設計とされるタイタンの構造の問題を指摘する声で溢れている。

  英BBCによると、タイタンの居室部分は、比較的安価なカーボンファイバー(炭素繊維)製で、チタン製が多い深海艇にはあまり用いられない素材だ。

  潜水艇は過去にも安全上の懸念が指摘されていた。

  アメリカの複数のメディアによると、運営会社の元社員は5年前、潜水艇の「のぞき窓」について、タイタニック号が沈む水深4000メートルまで乗客を運ぶことを想定していたのにもかかわらず、水深1300メートルまでの水圧に耐えられる強度しかなかったと指摘。

  また、潜水艇は安全性を確認する検査を受けていなかたっという。本来、乗客を乗せる船は検査に合格しなければ運航できないが、「タイタン」はあくまでも”実験船”としてつくられていたらめ、検査を受けていなかった。

  現場はどこの国にも属さない「公海」であったため、各国の監視の目が及ばず、このような”欠陥運航”がまかり通っていた可能性がある。

  潜水艇に乗っていたのは5人。ツアーの運営会社の最高経営責任者はラッシュ氏。ニューヨークタイムズ紙によると、男性の妻は、タイタニック号でなくなった乗客の子孫であったという。

  さらにその乗客は、タイタニック号が難破したとき、自らは救命ボートに乗る権利があったのにもかかわらず、他の子どもたちを優先的に乗せるため、船内に残って亡くなったとのこと。

  ほか、過去に民間による宇宙旅行も経験したイギリスの富豪も乗っていた。その遺族は声明で、

 「彼は情熱的な探検家であり、家族のため、ビジネスのため、そして冒険のために生きた。彼は私たちの人生に、決して埋めることのできない空白を残すだろう」

 とコメント。

危険を求める富裕層の”エクストリーム・ツーリズム”

  沈没したタイタニック号の残骸を見学するツアーは、「エクストリーム・ツーリズム」と呼ばれ、極限の環境をめぐるツアーだ。まさに”危険と隣り合わせの”刺激と冒険を求める一部の富裕層に今まさに広がっている。

  エクストリーム・ツーリズムは産業としてはまだニッチなものにとどまっているものの、しかし成長を続けている。

  エクストリーム・ツーリズムの代表格は、エベレストへの登頂だ。しかし、エベレストでの死亡率は現在でも平均1%。これは、現代のアメリカの軍人よりも高い数値だ7

  ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの准教授で行動科学を専門とするグレース・ローダン氏は、エクストリーム・ツーリズムは、危険な探検はスリルを求める実業家にとって贅沢品に取って代わる存在なのだと指摘。

 「客層は、ほとんどが“生きている実感”を体感したがっている50代から60代の男性です」

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 とある登山家は語る。そしてこう続ける。

 「彼らはただ机に座って自己資産が増えていく様子を画面で見ているより、クンブ氷瀑(アイスフォール)やエベレストのデスゾーンの北の尾根を横断したりしたいのです。死がより間近に見えるほど、より生きている実感が湧くものですから」

 

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  タイタニック号の残骸がある場所まで潜水艇タイタンで向かうツアーをオーシャンゲートが提供し始めたのは、2021年のこと。料金は1人あたり25万ドル(約3,500万円)だった。

  タイタンは水深12,500フィート(約3,810m)に到達できる数少ない有人潜水艇のひとつだったが、しかし潜水艇の内部は豪華とはほど遠く、沈没したタイタニック号の残骸までの潜水には相当なリスクがともなっていた。

 実際、オーシャンゲートの権利放棄条項の1ページ目には、「死亡」について3回にわたって言及されている。

  1. ウォールストリート・ジャーナル「深海潜水艇の圧壊音、米軍の極秘音響探知システムが検知か」2023年6月26日 
  2. ウォールストリート・ジャーナル、2023年6月26日 
  3. ニューヨーク=共同「深海、遠洋 捜索困難極め」西日本新聞、2023年6月24日、25項 
  4. 東スポWEB「タイタニック潜水艇の5人は痛みを感じる前に亡くなった 〝ミリ秒〟で爆縮したか」2023年6月24日、https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/267443 
  5. 東スポWEB、2023年6月24日 
  6. 東スポWEB、2023年6月24日 
  7. Alex Christian「なぜ富裕層は“危険”を求めるのか? タイタニック号を巡る潜水ツアーだけじゃない、超高額な「エクストリーム・ツーリズム」の世界」WIRED、2023年6月26日、https://wired.jp/article/the-wild-world-of-extreme-tourism-for-billionaires/ 
  8. Alex Christian、2023年6月26日 
  9. Alex Christian、2023年6月26日 
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