Agata SzamałekによるPixabayからの画像
停滞する梅雨前線が暖かく湿った空気が流れ込んだ影響により、福岡、佐賀、大分の3つの県で10日に線状降水帯が相次いで発生し、これまでにない記録的な大雨が観測。
福岡と佐賀では10日の午後10時時点で、5人が亡くなり、佐賀と大分では3人の安否が確認できていない。福岡、佐賀、大分の3つの県は15の市町村に災害救助法を適用することを決定した。
気象庁によると、10日の午後12時までの12時間の最大雨量は、福岡県久留米市草野町で366.5ミリ、同県添田町英彦山で360.5ミリという観測史上最大の雨量を記録。
また、大分県中津市でも276.5ミリと、7月の観測史上最大となった。
福岡県によると、10日未明に添田町の民家に土砂が流入し、77歳の女性が亡くなった。広川町では、水没した軽トラックの中から70代の男性が見つかり、死亡が確認される。
久留米市田主丸町では、住宅の近くの山が崩れ、10人が土石流に巻き込まれた、しかし市によると、全員が救出され、6人が病院に搬送されたものの70歳の男性が亡くなり、20代と60代の女性が重傷を負い、30代から80代までの男女3人が中程度の重傷を負っている。
残りの4人には命に別状はない。
同市荒木町の田んぼでは、40~50代の男性の遺体が見つかりました。上流に位置する同市藤山町では、道路が冠水し、1人が流された情報があり、県警が関連を調査している。
佐賀県唐津市浜玉町では、土砂が民家2棟に流入し、3人が逃げ遅れ、70歳の女性が亡くなった。消防などは、残りの70歳と50歳の男性2人の救出を急いている。
大分県中津市邪馬渓町の山国川では、50代の女性が流された可能性があり、行方不明に。
国土交通省九州地方整備局によると、久留米市の小石原川と巨瀬川、佐賀県神崎市の城原川、大分県日田市の花月川、同県中津市の山国川など、7つの河川で一時的な氾濫が発生した。
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予報以上の雨
今回の大雨について、気象庁は厳重な警戒を呼び掛けていたものの、雨量や降雨のピーク時間帯が、事前の予報からはずれる形となった。線状降水帯は予報の難しさが改めて浮き彫りとなった形であり、各自治体の避難の呼びかけにも課題が突きつけられている。
東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は、毎日新聞の取材に対し、
「気象庁の予測精度は上がってはいるが、過小評価になることもあれば外れることもある。自治体が適切なタイミングで避難を呼びかけるのが望ましいが、災害はいつ発生するかわからない」
1
と災害対応の難しさを指摘。そのうえで、
「市町村によってはマンパワーが足りなかったり、防災の専門家がいなかったりと、自然災害が多発する現状に見合う防災体制が作れていないところもある。
2
夜間は避難が難しく、逆に災害に遭うことを行政は心配するが、(避難を求めることと求めないことの)どちらの危険性が高いかを見極める必要がある。今回は線状降水帯が発生した段階で、自治体は避難指示を出すべきだった」
とした。
今回、大雨になる前日の9日夕方に気象庁が発表した予想では、10日午後6時までに24時間の降水量が、福岡、佐賀の両県では200ミリ、山口、長崎、大分、熊本の各県では150ミリであった。
しかし実際には、10日午前3時以降、約7時間にわたり断続的に雨が降り続き、福岡県添田町英彦山で423.0ミリ、同県朝倉市340.0ミリ、佐賀県鳥栖市で326.5ミリに達し、予想を大きく上回る。
「線状降水帯の予測が難しかった」
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気象庁予報課の担当者は、10日午後5時に開いた記者会見でこう話す。そして、
「局地的な現象の線上降水帯は、降雨のピークや量、場所をピッタリと予測することが現状の技術では難しい」
4
と話す。
大気の川
10日未明に発生した大雨では、日本の上空に帯状の水蒸気が西から流れ込み「大気の川」が発生、これが梅雨前線に沿うように発生していたことが、筑波大学の分析で分かった。
一方、南に勢力を増した太平洋高気圧の影響もあり、南と西から大量の水蒸気がもたらされ、九州北部に大雨をもたらした可能性がある。
筑波大の釜江陽一助教(気象学)によると、福岡県で線上降水帯が観測された10日午前3時ごろの人口衛星の画像から、水蒸気量を解析。その結果、中国南東部から北太平洋にかけて、長さ約5400キロ、幅約500キロの大気の川が確認された5。
九州北部上空の水蒸気の量は、いつもの時期の平均1.4倍にまで増えていたという。
大気の川は、大気中の水蒸気が長さ1500キロ以上にわたり、帯状に流れ込む現象のこと。過去には、2020年の九州豪雨や2018年に西日本豪雨時などでも確認された。
釜江助教は、
「これほど長い大気の川は珍しい。梅雨明けが近いこの時期、大気の川による大雨は日本の広い範囲で起こる可能性があり、注意が必要だ」
6
と話す。
大気の川は、世界的には1990年代に発見され、2000年代に入り、本格的な研究が始まった7。大気の川は、3月から9月にかけて日本上空に発生しやすいという。
その中でも、梅雨と秋雨の時期は、発生頻度が高くて、その時期の降水の3〜4割は大気の川が運んできた水蒸気によるものだという研究結果も。また、別の研究では、日本で発生する豪雨の7割以上に大気の川が関係しているという結果もあるという。
地球温暖化により、アフリカ南部を除く世界のほとんどの地域で、大気の川の発生頻度が高まることが予測されており、日本を含む東アジアでも、大気の川の発生頻度が高まるとも8。
経済活動、混乱
記録的な大雨は、企業活動にも大きな混乱をもたらした。福岡、佐賀、大分の3県では従業員の安全確保の面を考慮し、工場は相次いで稼働停止され、あるいは浸水した商業施設やスーパーもあった。物流各社も集荷や配送で特別な対応を迫られるなど混乱は広がる。
トヨタ自動車九州は、福岡県の宮田工場(宮若市)や小倉工場(北九州市)、苅田工場(苅田町)について、10日夕方から稼働を停止。11日からは平常稼働に戻すという。
タイヤ生産のブリジストンは福岡県の2つの工場(久留米市、朝倉市)と、佐賀県の2工場(鳥栖市、上峰町)が10日朝から生産をストップ。
朝倉市のキリンビール福岡工場、久留米市にある資生堂の工場は10日午前、大分県中津市にあるTOTO子会社の2工場は、10日午後から稼働を取りやめた9。
大分県日田市のサッポロビール九州日田工場は、通常通り稼働したものの、
「11日以降は状況を見て判断する」(同社広報部)
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とした。
福岡県小郡市のイオン小郡ショッピングセンターは、駐車場が冠水し、店内も浸水したため、10日は休業した。この場所は、近くを宝満川や高原川などが流れ、近年、何度も浸水を経験。2018年は約3カ月、19年は19日間休業した11。
イオン九州によると、同店では止水装置を設置するなどし、浸水対策を強化していたという。
ほか、イズミは、ゆめタウン久留米とゆめタウン八女の2店舗を休業した。
福岡県東峰村では、バス高速輸送システム(BRT)による復旧開業を今年8月に控えたJR日田彦山線が一部破損。この路線は、2017年の九州豪雨で被災し、一部区間で不通に。鉄道跡を利用したバスの「専用道」が6月に完成したばかりだった12。
- 城島勇人・田崎春奈、宗岡啓介「「予報以上」自治体苦心」毎日新聞、2023年7月11日付朝刊、3項
- 城島勇人・田崎春奈、宗岡啓介、2023年7月11日
- 城島勇人・田崎春奈、宗岡啓介、2023年7月11日
- 城島勇人・田崎春奈、宗岡啓介、2023年7月11日
- 読売新聞「「大気の川」長さ5400キロ」2023年7月11日付朝刊、39項
- 読売新聞、2023年7月11日
- 福田伊佐央「日本の豪雨の7割は“大気の川”の影響だった!~気象「極端現象」研究の最前線から~」JAMSTEC BASE 海と地球の情報サイト、2022年9月16日、https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/explore-20220916/
- 福田伊佐央、2022年9月16日
- 西日本新聞「九州大雨 経済活動も混乱」2023年7月11日付朝刊、7項
- 西日本新聞、2023年7月11日
- 西日本新聞、2023年7月11日
- 白波宏野・西田昌矢「BRT専用道一部損壊」西日本新聞、2023年7月11日付朝刊、26項