Gordon JohnsonによるPixabayからの画像
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICS)首脳会議は24日、新たに6カ国の加盟を決定した。
新規に加盟する国は、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国。2024年1月1日より、正式に加盟する。
南アフリカのヨハネスブルクで開かれていた首脳会議では、加盟国の拡大が中心議題となった。
南アフリカの政府筋によると、当初、40カ国以上の国がBRICSへの加盟について関心を示していたといい、さらにそのうちの22カ国が正式に加盟を希望したという1。
しかし、既存の5カ国すべての国がBRICS拡大について支持を表明する一方、新規加盟国の数や、今後に向けての拡大のペースについては意見が分かれる2。
とはいえ、西側先進国の国際秩序の変化を狙うBRICの姿勢が、今後も続くだろう。
BRICSとは、広い国土と多くの人口、豊かな天然資源を持つことで、今後大きく成長することが見込まれたブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)、南アフリカ(South Africa)の頭文字を合わせた造語。
当初は、南アフリカを除く「BRICs」をゴールドマン・サックス社が2001年に発行したレポートの中で用いた。以降、一般的にも広く使われるようになる。
レポートの中では、2050年にはBRICsの4ヵ国がGDPで上位6ヵ国に入る可能性があるということが記載されていた。
2014年時点で、たとえば中国が約13億8400万人(世界1位)、インドが約12億3600万人(2位)。ブラジルが1億9800万人(5位)、ロシアが1億4300万人(9位)で、BRICs4国だけで世界の人口の約4割を占めていた(WHO 世界保険統計 2014年版)。
国土面積ではロシアが世界1位、中国が4位、ブラジルが5位、インドが7位。中国は2010年、日本を抜いてGDP世界第2位の経済大国となった。
拡大後のBRICS 11カ国体制に
拡大後のBRICS
3
中国・ロシア・インド・ブラジル・南アフリカ
+6カ国
・アラブ首長国連邦(UAE)
人口(2022年推定)944万1000人
1人当たり国民総所得(GNI)3万9410ドル(2020年)
中東の金融、投資、物流の中心
・サウジアラビア
人口(3640万8000人)
GNI(2万2270ドル)2020
イスラム教発祥地、中東の主要産油国
・アルゼンチン
人口(4551万人)
GNI(1万50ドル)2021年
左派政権、経済危機が続く
・イラン
人口(8855万人)
GNI(3370ドル)2020年
核開発、アメリカが制裁
・エジプト
人口(1億1099万人)
GNI(3510ドル)2021年
2013年、クーデターで現政権が誕生
・エチオピア
人口(1億2337万9000人)
GNI(960ドル)2021年
首都にアフリカ連合(AU)の本部
湾岸諸国からは、サウジジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が加盟する。どちらも産油国だ。
経済発展にとって石油輸入が欠かせないインドをはじめとするBRICS にとって、資源国との関係は重要であり、石油収入で潤う両国の豊かな経済力は魅力に映る。
サウジアラビアは伝統的に安全保障面でアメリカとの関係が深かったが、最近になり亀裂が見え、独自の外交政策を進めてきた。
UAEは経済規模ではサウジアラビアには及ばないものの、1人当たりのGDPは日本を上回り、財政余力が高い。
アフリカからは、エチオピアとエジプトの2カ国が加盟する。エチオピアは人口が1億2000万人を超え、高い経済力が見込まれるサハラ以南のアフリカの有力国。エジプトもアラブ圏で最大の1億1000人余りの人口を有す。
アルゼンチンは、ブラジルのルラ大統領の強力な後押しがあった。
イランの加盟は、米欧主導の世界秩序への対抗を鮮明にするロシアや中国の意向が反映された形だ。
サウジアラビアとは長年ライバル関係にあったが、今年の3月に中国の仲介で外交関係が正常化されたこともプラスに働いた。
思惑異なる
BRICS は、新たに6カ国を加盟させることで、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国全体の利益を訴える「代弁者」からの脱皮を目指す。
しかしながら、新規加盟国の国際社会の立ち位置はさまざまで、予断を許さない。
アルゼンチンはブラジルのルラ大統領の後押しを受けた。一方で、10月に大統領選を控え、有力候補であるミレイ下院議員は、
「われわれの地政学的同盟国は米国とイスラエルだ。共産主義者とは連ならない」
4
と加盟を拒絶。もし政権が交代したら、白紙になりかねない。
サウジアラビアのファイサル外相はインタビューで、
「BRICSの性格や構成など詳細が届くのを待って適切に決める」
5
と説明、BRICS加盟の招待を受けるかどうかが独自に判断する姿勢だ。
既存の加盟国の間でも思惑が錯綜する。中国やロシアが欧米諸国への”対抗軸”としてBRICSの強化に乗り出すなか、とくに南アフリカの立場が微妙だ。
南アフリカはロシアがウクライナに侵攻したあともロシアとの友好関係を維持し、しかしその姿勢については、国内でも意見が分かれる6。
南アフリカは、ロシアの軍事侵攻を非難する内容の国連決議をいずれも棄権しているほか、今年2月にはロシアや中国と軍事演習も行った。
南アフリカの政権与党であるANC(アフリカ民族会議)はかつてアパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃に向けた闘争時、当時のソビエトの支援を受けた経緯があり、現在もロシアとの関係を重視する。
このことに対し、野党や市民、または経済界の意見も割れる。
共通通貨導入は見送り あまりに異なる各国の経済事情
他方、BRICの中には共通通貨の導入を目指す動きがあったものの、しかし、そのことについての進展はなかった。首脳会議の宣言文書の中にも共通通貨導入に関する言及はなく、単に自国通貨での決済を奨励する旨の記載があるだけ7。
そもそも、複数の国で共通通貨を導入するためには、まず共通通貨と各国の通貨との間で為替レートを固定する(極めて狭い変動幅で、為替レートを維持すること)が必要となってくる8。
たとえばEU(欧州連合)の共通通貨であるユーロの場合、その前身となる欧州共通通貨単位(ECU)が1979年に用意され、それに各国の為替レートを固定する試みが1998年まで続けられた。
そのうえで、1999年に11カ国で統一通貨であるユーロが採用され、2002年から現金として流通することになった9。
しかし、この間25年間もの長い時間を要してきた。EU各国は為替レートを安定させるために、インフレの抑制に邁進してきた。
国内の景気を考えた場合、明らかに財政・金融政策を拡張させることが望ましい場合でも、インフレ抑制のためにEU各国は財政・金融政策を引き締めた。そして、ようやくEUはユーロを導入できたのだ。
だが、BRIC諸国の経済状況はあまりに異なる。BRICSの中には、中国やロシア、ブラジルのように経常収支黒字(供給超過)の国もあれば、インドや南アフリカのように経常収支赤字(供給不足)の国もある。
また経常収支黒字の国でも、中国のように製造業が強い国もあれば、ロシアやブラジルのように天然資源に依存している国も。
そもそも、1人当たりの所得の水準もかなり違ってくる10。結果的には、BRICS連合は今後も拡大の可能性は残しつつも”緩やかな”連帯になりそうだ。
- REUTERS「BRICS、サウジなど6カ国が来年加盟 歴史的拡大と習中国主席」2023年8月24日、https://jp.reuters.com/article/brics-summit-ramaphosa-idJPKBN2ZZ0JI
- REUTERS、2023年8月24日
- ヨハネスブルク、サンパウロ、エルサレム=共同「新興国の「代弁者」なるか」西日本新聞、2023年8月26日付朝刊、5項
- 共同、2023年8月26日
- 今泉奏・軽部理人・畑宗太郎「BRICS拡大に高揚する中国 何もかも違う11カ国、まとまりは?」朝日新聞デジタル、2023年8月26日、https://digital.asahi.com/articles/ASR8T6SR9R8TUHBI02V.html
- NHK NEWS WEB「新興5か国 BRICS首脳会議“加盟国拡大”議論の行方は」2023年8月23日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230823/k10014171451000.html
- 土田 陽介「BRICS首脳会議「共通通貨は見送り」も「拡大は続ける」虚実の背景」BUSINESS INSIDER、2023年8月28日、https://www.businessinsider.jp/post-274457
- 土田 陽介、2023年8月28日
- 土田 陽介、2023年8月28日
- 今泉奏「加盟国拡大を決めたBRICS 共通通貨は号令倒れか 専門家の視点」朝日新聞デジタル、2023年8月25日、https://digital.asahi.com/articles/ASR8S050MR8NUHBI01F.html