離婚後の両親に共同親権を認める改正民法、成立 なお残る懸念 家裁の人員、不足 求められる養育費の支払いの徹底

人権
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OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像

 離婚後の両親に共同親権を認める改正民法が国会で成立した。この法改正は、現在の単独親権制度を77年ぶりに見直し、両親が合意すれば共同親権を選択できるようにするもの。新しい制度は2026年度までに施行される予定だ。
 
 また、すでに離婚して単独親権が認められている場合でも、家庭裁判所に申し立てて認められれば、共同親権に変更することが可能に。
 
 親権は、親が子どもの世話や教育、財産管理を行う権利と義務を指す。しかし、これまでは親権のない親は子育てに関われないとされてきた。
 
 共同親権を選択した場合、両親は子どもに関する事柄を原則として共同で決定する。ただし、習い事などの日常の行為や緊急手術などの急を要する場合は、一方の親だけで決めることができる。

 しかし、その線引きは必ずしも明確ではない。
 
 懸念されているのは、虐待やDV(家庭内暴力)による離婚の場合などだ。
DVなどのリスクがある場合、家庭裁判所が単独親権を選択することになる。

 家庭裁判所の役割は重要であるが、裁判官や調査官は多くの案件を抱えており、複雑な家庭事情を適切に理解し判断できるかには大いに疑問が残る。

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家族の在り方 なお多様性と乖離

  共同親権の論議が推進された背景には、「諸外国は大多数が共同親権だ」1との声があったからだ。

  しかし、このことに対し、広島大法科大学院の小川富之客員教授(家族法)は、

「欧米では別居親の権利を高める改正をした結果、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)が軽視された」

2 

 とする。

  実際、面会交流中に子どもが殺害される事例がアメリカやオーストラリアで多発。なかでも、オーストラリアではこのことを受け、子の安全を最優先に図れるよう、同居親の判断を重視するよう、法改正を行った。

  反対派は共同親権に懐疑的な点は、「合理的理由」という視点からも。

  民法の家族法の分野では、近年、時代に即した改正がなされてきた。非嫡出子の相続差別規定の削除や、女性の再婚禁止期間の撤廃、配偶者居住権の新設など、いずれも前時代的で不合理な制度を現代に合わせ見直してきた。

  しかし、共同親権の場合、これを推進する特別な「合理的理由」は見当たらないとする。

  他方、日本では世論調査で約7割が賛成する選択的夫婦別姓の場合、1996年に法制審議会が答申するも、保守派議員が強く反対してきた。

家裁の人員、不足

 また、改正案では、父母が話し合いで共同親権を決めた場合だけでなく、意見の対立により在り方を合意できなくても、家裁の判断で共同親権になり得る。この点については、衆院で賛成に回った野党からも懸念が。

  立憲民主党は衆院での改正案の修正協議で、「父母の合意がない場合は共同親権を認めるべきでない」と主張したが、修正には反映されなかった。共産党はこの件を重くみて衆院で改正案に反対3。  

  最高裁によると、家裁が扱う新規の家事事件は2012年の約85万件から、22年には約114万件に増加。調停の平均審理期間は、18年の6カ月から22年には7.2カ月に伸びた4

  この状況下で改正案が成立すれば26年までに施行され、共同親権への変更申し立てや、共同親権の父母が子の養育で対立した際の調停なども家裁が担うことの懸念もある。

  一方、2024年4月現在、裁判官が常駐していない家裁支部は全体の2割に上る44カ所ある。21年の国会答弁では、東京家裁では1人当たり約500件を担当する裁判官もいるとされた5

求められる養育費の支払いの徹底

 共同親権の是非とともに検討しなければならないのは、養育費の支払いの徹底だ。日本の場合、離婚した母子家庭の子どもは、4人に3人の割合で養育費を受け取れていない。

 厚生労働省の調査で、母子家庭で養育費の支払いを受けているのは24.3%という状態だ(2016年)。

  一方、海外の場合、養育費の支払いについて厳格だ。アメリカやイギリス、オーストラリアでは国(アメリカの場合、州政府が行うことも)が養育費を給与から天引きして強制的に徴収するほか、フランスやスウェーデンでは親が支払わない場合に、国が立て替える制度も。

  また滞納した場合には、運転免許の停止やパスポートの発行を拒否するといった対応を取っているケースまであるという6

  なかには、アメリカでは、未払いの親がピザを注文した場合、宅配されたピザの箱に顔写真付きで「養育費を払いなさい」と紙が貼られて届く場合があるとのこと7

  そもそも養育費は本来、子どもが受け取るべき権利でもある。同様に、共同親権の点についても”子どもの権利”という視点が欠かせない。

  1. 西日本新聞「「共同親権」改正法成立」2024年5月18日付朝刊、2項 
  2. 西日本新聞、2024年5月18日付朝刊 
  3. 大野暢子「共同親権「離婚した父母の合意がなくても適用」に懸念相次ぐ 家裁は人手不足、参院審議入りも課題山積」東京新聞、2024年4月20日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/322358 
  4. 大野暢子、2024年4月20日 
  5. 巽賢司、三上健太郎「見えづらい家庭内…DV、虐待見抜けるか 家裁の人員体制に課題」毎日新聞、2024年5月17日、https://mainichi.jp/articles/20240517/k00/00m/040/262000c 
  6. 有吉桃子「養育費不払い 日本は“ひどい”国なの?」NHK NEWS WEB、2019年10月11日、https://www3.nhk.or.jp/news/special/kosodate/article/feature/article_191011.html 
  7. 有吉桃子、2019年10月11日 
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