kevin kevinによるPixabayからの画像
台風10号は8月22日に発生し、非常に強い勢力にまで発達した。29日には鹿児島県薩摩川内市付近に上陸し、その後四国を通過し、9月1日には東海道沖で熱帯低気圧に変わった。
10号は非常にゆっくりとした速度で進行し、特に九州付近では時速15キロメートル程度の速度で北上した。そのため影響が長引いた。
また、日本近海の海面水温が平年より高く、台風がさらに発達した。そして台風を流す風が弱く、影響が長期化した1。
10号は九州から関東にかけて記録的な大雨をもたらし、宮崎県のえびの高原や静岡県天城山では総雨量が900ミリを超えた。最大瞬間風速は鹿児島県枕崎で51.5メートルを観測した2。
人的・物的被害としては21道県で被害が発生し、人的被害は132名(死者6名、行方不明者1名、負傷者125名)、住宅被害は1,080棟に及んだ。
交通機関への影響としては、九州新幹線や東海道新幹線が運休し、航空便や高速道路も多くが運休や通行止めとなった。
21道県では、災害救助法が適用された地域もある。特に神奈川県、岐阜県、静岡県、愛知県、大分県、宮崎県、鹿児島県の34市町村に対して、普通交付税の繰り上げ交付が行われる予定だ3。
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宮崎県で竜巻発生
10号の影響により、九州地方では竜巻が発生し、被害が報告された。具体的な被害の詳細は不明だが、宮崎県では竜巻や突風の発生が確認されている。
その要因としては、宮崎県の西側を通過したことが挙げられる。台風の進行方向の右側(東側)は特に危険な領域とされ、竜巻が発生しやすい条件が整いやすくなる2。
地形の影響もあった。宮崎県は太平洋に面しており、海からの湿った空気が流れ込みやすい地形である。
台風10号が接近した8月下旬は、統計的に見ても竜巻が発生しやすい時期に当たる。宮崎県のような海岸線に沿った地域では、海と陸の温度差により局地的な気流の乱れが生じやすく、竜巻の発生を促進する可能性がある。
気象庁は、竜巻などの激しい突風が予想される場合に、段階的に情報を発表する。
まず、半日から1日前には「竜巻などの激しい突風のおそれ」として気象情報を発表し、数時間前には雷注意報に「竜巻」を明記して注意を呼びかける。
そして、竜巻が発生しやすい気象状況になった場合には「竜巻注意情報」を発表する4。
台風接近時には、気象情報に十分注意を払い、竜巻注意情報が発表された場合は建物の地下や窓のない部屋に避難するなど、速やかに安全な場所に移動することが重要だ。
計画運休浸透 医療介護維持に課題も
台風の接近に伴い、計画運休が広範囲で実施され、その浸透が進んだ。九州新幹線は8月28日夜から一部区間で運休を開始した。山陽新幹線も29日夜から計画運休を実施した。
全日空は30日、九州や中国地方の空港、関西の空港に発着する便など、合わせて346便の欠航を決定し、日本航空は九州を発着する便を中心に合わせて287便の欠航を決定した5。
各社ともに「空振り」を恐れず、利用者や従業員の安全確保を重視した対応が広がっている。
他方、各エッセンシャルワーカーは社会の基盤を支える重要な役割を担っているため、台風10号の影響下でも可能な限り業務を継続することが求められた。しかし一方では、彼らの安全確保も重要な課題となっている。
今後、災害時に行政、企業、そして地域社会全体でエッセンシャルワーカーを支援する体制づくりが必要だろう。柔軟な勤務体制の導入(交代制、勤務時間の調整)、従業員の安全を最優先した判断と対応などが必要となってくる。
今回、台風の動きが遅かったことから、長期戦を見据えた対応が重要となった。エッセンシャルワーカーの負担を軽減しつつ、必要不可欠なサービスを維持するバランスが求められている。
彼らの安全を確保しつつ、社会の基盤を維持するという難しいバランスを取ることが求められている。
地球温暖化の影響により台風発生率増加の可能性
一方、毎日新聞6によると、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究チームが台風10号クラスの台風について分析を行った結果、地球温暖化の影響により発生確率が増加していることが明らかになった。
研究は「イベント・アトリビューション」という手法を用いて分析された。イベント・アトリビューションとは、特定の気象イベントが温暖化によってどの程度影響を受けているかを定量的に分析する手法である。
そして、過去の観測データと温暖化による平均気温上昇(産業革命前から1.3℃上昇)を考慮したシミュレーションが実施された。
その結果、台風10号クラスの台風の発生確率が温暖化の影響で26%増加していることが判明した。人為的な気候変動がなかったと仮定した場合の発生頻度は10年間平均で4.5回だったが、現在の気候では5.7回に増加している。
台風の強度増加についても、温暖化の影響で、九州付近を通過する台風の最大風速が7.5%増加している可能性がある。具体的には、最大風速が時速約6.5マイル(秒速約3m)強くなっているという7。
ラルフ・トゥーミ教授は「温暖化の根本原因の化石燃料を廃止しなければ、台風は日本にさらに大きな被害をもたらすだろう」と温暖化防止の緊急性を強調している8。
- 吉田友海「台風10号まとめ 記録的な大雨・暴風 秋も台風の発生しやすい状況続く 動向に注意」tenki.jp、2024年9月2日、https://tenki.jp/forecaster/t_yoshida/2024/09/02/30414.html
- 吉田友海、2024年9月2日
- NHK NEWS WEB「台風10号で被害 7県34自治体 普通交付税繰り上げ交付へ 総務相」2024年9月3日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240903/k10014570441000.html
- 気象庁「竜巻注意情報・竜巻発生確度ナウキャスト」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/tatsumaki.html
- 日本経済新聞「台風10号接近、減災へ計画運休 鉄道や航空の判断早く」2024年8月28日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE276H50X20C24A8000000/
- 山口智「台風10号クラス、温暖化で発生確率26%増 英国の研究チーム分析」2024年8月30日、https://mainichi.jp/articles/20240830/k00/00m/100/214000c
- RIEF「台風10号の強風の影響。地球温暖化で風速で秒速約3m強く(7.5%)、発生確率で26%上昇。英ICLの研究チームが温暖化による気温上昇を踏まえたモデル分析で解明」2024年8月31日、https://rief-jp.org/ct12/148378
- 山口智、2024年8月30日