4月から成人年齢が18歳に引き下げ 変わることと変わらないと それとともに求められる”子ども観”の見直し

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PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像

 4月から、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。成年年齢を18歳に引き下げることを内容とする、「民法の一部を改正する法律」が2022年4月1日から施行されるためだ。

 22年4月1日時点で、18歳以上20歳未満(2002年4月2日生まれから、2004年4月1日生まれ)の人は、この日に成年になる。04年4月2に生まれ以降の人は、18歳の誕生日に成年になる。

 近年、憲法改正に伴う国民投票の投票権年齢や、公職選挙法の選挙年齢が18歳となり、18歳と19歳の市民も国政の重要な判断に参加してもらうための政策が、着々と進んできた。世界的に見ても、成人年齢を18歳と定めることが主流。

 このようななか、市民生活に関する基本法である民法についても、18歳以上を“大人“として扱うことが適当ではないのかという議論が長年重ねられ、このたび、成人年齢が引き下げられることとなった。

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成年とは

 明治時代から、日本の成年年齢は20歳と民法で定められてきた。民法の、「満20年をもって成年とする」(4条)から、満20年後の生まれた日に成年となる。ただ、皇室典範22条により、天皇、皇太子、皇太孫の成年は満18年であった。

 成年に達すると、「公法」的には選挙権の取得などがあるが、「私法」的には完全行為能力者となる。成年に達すると、単独で完全に有効な契約を結ぶことができる。あるいは、親権者の同意なしに完全に婚姻をすることができる。

 対して、成年に達しない未成年者が法的な行為をするときには、原則として法定代理人の同意を得なければならず(民法5条1項)、法定代理人の同意なしに行った法的行為はこれを取り消すことができる(同条2項)。

 ただし、未成年者であっても婚姻すると成年に達したものとみなされる(同法753条)。

変わること

 成年年齢が引き下げられる社会的な影響は大きい。

 たとえば、これまでは携帯電話を契約する、一人暮らしの部屋を借りる、クレジットカードを作る、何か高額な商品を購入したときにローンを組むといったとき、未成年者は親の同意が必要であった。しかし成年に達すると、親の同意なしで、このような契約ができるようになる。

 また、より具体的には、親権が及ばなくなるため、自分の意志で住む場所、進学や就職などの進路も決定できるようになる

 さらには、「10年有効のパスポート」を取得できたり、公認会計士や司法書士、行政書士などの資格を取得したりもすることができる。

 同時に、女性が結婚できる最低年齢も16歳から18歳に引き上げられ、結婚できる年齢が男女とも18歳以上となった。

変わらないこと

 一方で、これまでと変わらず、20歳になってしかできないものもある。

 飲酒や喫煙、競馬などの公営競技についての年齢制限は、これまでと変わらず20歳に維持された。健康面や非行防止、青少年補保護の観点からだ。

 また、「養子を迎える」こと、大型・中型自動車の運転免許の取得もこれまでと同じ20歳から。

 子どもの養育費に関しても、取り決めが行われた時点の成年年齢が20歳だとしたら、成人年齢が引き下げられたとしても、従来通り、子どもが20歳になるまで養育費の支払い義務を負うことになると考えられている。

 養育費は、子どもがまだ未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものであり、子どもが成人に達したとしても経済的に自立していない場合には、養育費の支払い期間が、「子どもが18歳に達するまで」とはいかないとされる。

 たとえば、子どもが大学に進学している場合には、大学を卒業するまで養育費の支払い義務を負うことになる。

 なお、今後、新たに養育費に関する取り決めを行う場合には、「大学を卒業する22歳の3月まで」といった形で、具体的な支払い期間の終結を定めることが望ましい。

成人式

 とくに若者にまず影響を与えるのは成人式の在り方だろう。2022年の成人式はまだ施行前のため影響はなかったものの、来年の23年以降、18歳が成人年齢となる。そのため、20歳を成人とすることを前提とした成人式の定義が揺らぐことになりかねない。

 ただ多くの自治体は、これまで通り、「20歳」を祝う式典を23年以降にする予定だ。しかしながら、来年以降の成人式の方針を明らかにしている自治体では、同年度に満20歳となる人を対象としながらも、新しい名称で実施をする、という場合が多いようだ。

 東京都世田谷区や杉並区は、現在の「新成人のつどい」から名称を変更し、「20歳のつどい」などと改める方針だ。

 23年以降に満20歳を対象とした式典を行う自治体では、

「18歳を対象とすると、その多くが高校生で受験者就職の準備に忙しい」

「進学や就職前で出費を伴う家計への負担が大きい」

 ということを理由に挙げている。また18歳も参加する式とした場合、「初年度は18歳から20歳までの3つの年齢分が対象となり、会場の確保が難しい」との意見もあった。

民法

 成人年齢引き下げについての議論は、ここ数年で出されたものではない。

 具体的には、2007年の5月、「日本国憲法の改正手続きに関する法律」、いわゆる国民投票法が成立し、「憲法改正のための国民投票権を有する者の年齢を満18歳以上とする」と国民投票法の3条で規定され、そこに付け加える形で、「成年年齢を定める民法などの見直し条項」が設けられた。

 成人年齢が18歳と規定されたのには、「国民投票の年齢を満18歳とする」ことが国際標準であるためだ。

 成年年齢のデータがある187カ国の地域のうち、成年年齢を18歳以上としているのは141の国と地域。

 とくに、18歳という成年年齢が定められた背景には、1970年代のベトナム戦争を背景に、徴兵年齢の引き下げと併せて、成年年齢を18歳に定めた国が多かったことが理由とされる。

 日本で20歳が成年とされたのは1876年に遡る。明治時代、国の重要なことは「大成官」というところで決められた。その大成官になることのできる要件の年齢が20歳であった。

少年法

 成人年齢の引き下げとともに、「少年法」も変わる。罪を犯した18歳と19歳を「特定少年」として”厳罰化”する。

 選挙権の年齢や成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことで、「20歳未満」としている少年法の適用年齢との整合性が問題となっていた。

 このたび改正される少年法では、現行法の全件家裁送致は維持しながらも、18歳と19歳については、成人と同様の刑事手続きを取る検察官送致(逆送)を対象とする犯罪を拡大。

 具体的には、罰則が1年以上の懲役または禁錮にあたる強盗や強制性交罪などを逆送の対象とする。現行法では、16歳以上で故意に人を死亡させた殺人罪などの事件が逆送の対象となっていた。

 本名や顔写真などの報道を禁じる規定も見直し、特定少年については、起訴(略式を除く)された段階で解禁される。

 ただ、「成長途上で更生の可能性が高い」とし、特定少年についてもいったん、全件を家裁送致する現行の制度は変わらない。家裁の調査官が家庭環境や成育歴を調べ、非行に至った経緯などを明らかする。

注意すべきこと

 注意すべきことについては、司法手続きに関することだ。このことについては、あまり周知されていないことがある。

 まず、18歳と19歳が「特定少年」と位置づけられたことにより、この年齢の間で一定の重さの罪の犯した場合は、刑事事件で有罪になると少年院でなく刑務所に服役することになる。

 少年院では、教官が寮で一緒に寝泊まりするなどして人間関係を築きながら立ち直りを支援するが、刑務所でこのようなサポートはない。

 また、18歳以上は新しく「裁判員」に選ばれる対象となる。この裁判員は、有権者の名簿のなかから、”くじ”で選ばれる。ただでさえ、裁判員制度の意義が周知されていない中、18歳と19歳は選ばれる可能性がある。

 現状、学生は学業などを理由に辞退することもできるとされるが、制度の周知とともに一層の「法教育」が求められる。

海外の成人年齢

 前述したように海外では、18歳以上を成人年齢とする国が多数派だ。

 2016年時点で、OECD(経済開発協力機構)加盟国35カ国のうち、32カ国が18歳以上を成人と定めていた。成人年齢を18歳としていない国は、韓国(19歳)、日本とニュージーランド(20歳)である。

 世界に先駆けて18歳を成人年齢とした国は英国のようだ。1960年代に、「若者の成熟化」などを理由にそれまで21歳が成人年齢であったのを18歳に引き下げた。

 英国で成人年齢は21歳と定められたのは13世紀のこと。 騎馬用の防具を身につけられるという年齢が21歳であったという。

 英国に追随する形で、欧州各国も成人年齢を18歳とした。1974年にはドイツとフランス、75年にはイタリアが成人年齢を18歳とする。

 ただ、海外においても成人年齢を引き下げるともに、「飲酒が可能な年齢」と「喫煙が可能な年齢」もアメリカ(21歳以上・州により異なる)を除き、18歳以上とした。とくに、ドイツでは一部の酒は16歳から飲むことができる。

 喫煙・飲酒可能年齢を引き下げなかった日本とは、事情が異なってくる。

子どもの権利条約

 そもそも、「子どもの権利条約」の適用範囲を18歳未満としているのにも関わらず、相変わらず20歳を成人年齢としてきた日本政府の”体質”は批判されるべきだ。

 子どもの権利条約の第1条には、

この条約の適用上、児童とは、18歳未満すべての者をいう

と規定する。

 さらにいえば、子どもにとって関係する法規(法条項)もすべてにおいて18歳に統一すべきだ。

 付け加えて、選挙に立候補できる権利(被選挙権)も18歳まで引き下げることは当然のことであろう。

 日本では、衆議院議員と県議会議員、市町村長と市町村議員の被選挙権は満25歳、参議院議員と県知事は満30歳である。

 ところが、世界の被選挙権は調査可能な194カ国のうち、18歳(54カ国・27%)、21歳(60カ国・30%)、25歳(57カ国・29.4%)である。このような数字をみるに、日本の参議院議員と県知事の被選挙権年齢30歳など、「ありえない」年齢だろう。

 世界の潮流は、「選挙権」と「被選挙権」の年齢を統一することであり、日本の被選挙権も速やかに18歳に統一すべきだ。

”保護”からの脱却を!

 そもそも、「成人年齢引き下げ」を考えるうえで必要なのは、私たち大人側の”子ども感”の見直しだ。

 「子どもの権利条約」への批准運動の中で、子どもを「保護の客体から権利行使の主体へ」というものがあった。本来、子どもは一方的に保護される対象ではない。

 事実、子どもの権利条約には、第12条に「意見表明権」が存在し、第18条には、親の一次的養育責任について、「親は子ども最善の利益を第一義的に考慮しなくてはならない」と明記されてある。

 子どもの権利条約をそのまま当てはめるなら、子どもの「意見表明権」を考え、現在の管理教育的な学校校則のあり方は見直すべきだ。

 また、「親は子ども最善の利益を第一義的に考慮しなくてはならない」とあるように、子どもの虐待に対しても厳しく対応しなくてはならない。

 このように、「学校の校則」と「虐待」はセットで思考されるべきもの。しかし、実際はどうだろうか。

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