「クールジャパン」というワードが出てきて久しい。映画だけでなく、アニメ、漫画、音楽、ゲーム、テレビ番組放送などのコンテンツは、クールジャパンとして今後も成長分野として期待されている。
だが近年は、台頭する中国市場にその座を明け渡した。とくに映画産業は日本において、約2000億円もの市場規模を有し、長年にわたりアメリカに次ぐ世界第2位の映画市場として、世界マーケットの中でも大きな存在感を示していたのだが。
他方、昨年には米アカデミー賞において、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が非英語映画として史上初の作品賞に輝いた。作品賞を受賞したことはもちろん、アメリカ国内においてヒットし、多くの観客を集めることに成功した。
世界的に高い評価を集めた黒澤明作品以降、しかし日本の大手映画会社は、国内市場の縮小とともに、海外への販売拠点を手放さざるをえなかった。
しかし、韓国映画は2000年以降の急成長とともに、国内市場のみならず、海外市場に目を向け、明確な戦略を打ち出した。その戦略が功を奏し、「パラサイト」の作品賞受賞に至ったともいえる。
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なぜ「パラサイト」がアカデミー賞を受賞したのか?
2020年にアカデミー賞作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」は、外国語映画のために用意されている国際長編映画部門(旧・外国語映画部門)にとどまらず、脚本部門、監督部門も受賞した。
非英語圏の資本で作られた完全外国語作品としては史上初の作品賞であり、アジア人による監督賞受賞はアン・リー以来。米国資本が入らない作品が受賞するのも史上初。英語以外の作品が脚本賞を受賞するのも17年ぶりである。
さらにいえば、カンヌ国際映画祭の最高賞(パルムドール)作品がアカデミー賞作品賞に受賞するのは、1955年の「マーティ」以来の64年ぶり。それ以前も1945年の「失われた週末」のみであった。
前提として、作品賞は他の部門とは違い、順位をつけて投票する特殊な集計システムのためサプライズが起こりやすいこともある。
2019年も、「ROMA/ローマ」が外国語作品賞受賞の可能性はあったが、Netflix作品という逆風も受け受賞を逃した。しかしながら、ハリウッドに「新しい長れ」が吹いていたのは事実であり、これが実を結んだ結果といえるだろう。
それだけでなく、SAGアワード(全米映画俳優組合賞)の最高賞にあたるキャスト賞を受賞したことも、大きな力を生んだ。
投票するアカデミー協会も、近年、さまざまな改革を遂げてきた。2016年のアカデミー賞では、2年連続で俳優部門の候補者がすべて白人であったことが問題視された。そのため、当時、黒人女性初のアカデミー会長だったシェリル・ブーン・アイザックは、この問題に対応するための委員会「A2020委員会」を設置した。
そして、それまで投票権を持つ会員のうち94%が白人、77%が男性、80%が50歳以上という保守的な傾向を是正するため、2020年までに女性や黒人会員の割合を引き上げ、さらに若手俳優や国際的に活躍する映画人まで幅を広げることを表明した。その結果が、「パラサイト」の受賞に大きく影響を与えたであろう。
そのような状況のなかでも、やはり韓国映画がアジア初の作品賞に輝いたのは、国を挙げての国際市場への売り込みの結果でもある。
人口が少なく市場規模も小さい韓国では、約20年前から、映画やK-POPなどのエンターテイメントを、自動車や電化製品と同様に、世界で売れるコンテンツへとするために動いてきた。
韓国映画もそのような輸出コンテンツのひとつだ。中心的な役割を果たしてきたのが、「パラサイト」を韓国内で配給した財閥「CJグループ」である。
2018年にアルバムがアジア勢初の全米チャート1位となったK-POPグループ「BTS(防弾少年団)」のプロデュースにもかかわってきた。
そのなかでも、とくに作品賞の受賞スピーチを行ったミキー・リーは、CJグループの副会長であり、受賞の「影の立役者」ともいわれた。
サムスングループ創始者の孫であり、CJエンターテインメントで数多くの映画をプロデュースしてきた彼女は、1990年代からスティーブン・スピルバーグの映画会社であるドリームワークスに投資するなど、早くからハリウッドでも活躍し、韓国映画の国際進出の支えとなってきた。
「パラサイト」の受賞は、その”到達点”ともいえるだろう。
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日本映画の国家戦略上の位置付け
2016年に閣議決定された「日本再興戦略 2016」により、文化芸術資源を活用した経済活性化が盛り込まれ、政府は2025年までに文化GDPを18兆円までに拡大することを目標としている。
一方で、2010年から「クールジャパン」を推進し、アニメ・漫画などのコンテンツを含むクールジャパンの海外への商品・サービス展開をしていくことにより、これらを通じてインバウンドの国内消費に結びつけることにより、世界の経済成長を少しでも取り込むべく、官民一体となった取り組みを行なった。
政府の説明によれば、その中でも映画を含む映像コンテンツは、国家戦略の中でも、日本の魅力を発信し、海外の日本ファンを拡大するといった海外市場における先導役であった。
そして異業種における商品・サービスの海外展開や、訪日外国人旅行者の増加といった関連産業への波及効果を大いに期待していた。
とくに映画は、原作(小説・漫画など)・音楽・映像・アニメといった要素を含む総合芸術であり、映画以外の他分野への影響を与える。日本の成長戦略のひとつである「観光立国」「文化芸術資源を活用した経済活性化」、そして「クールジャパン戦略」を確実にする上でも、日本映画の発展と海外への発信・浸透は欠かせないものであると、政府は明言していた。