英トラス首相、イギリス史上最短で辞任 後任にスナク氏 スナク氏とは? 「最も裕福な国会議員のひとり」 それでもイギリス政治の混迷はつづく

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 イギリスのトラス首相が英史上最短のわずか44日で辞任、後任となる首相に、トラス氏と前回の党首選を争ったスナク元財務相が決まった。

 イギリスは、この6年で4人の首相が退任。EU離脱後、分断と造反が繰り返されえる保守党の迷走はつづく。

 トラス氏は即時の減税を公約に掲げ党首選を制す。9月には、総額450億ポンド(約7兆円)もの大型減税策を発表。

 しかしながら、金融市場は財源を示さない財政出動に拒否感を示し、ポンドは急落。G7(先進7カ国)の一角であるイギリス初世界的な金融危機さえ懸念される事態に。

 さらに今月19日には、内相であるブレーバーマン氏が辞任。政権は、党内の引き締めを図り、同日夜にシェールガス採掘についての下院投票を「信任投票」であると位置づけ、党議拘束をかけた。

 しかし、与党議員ら40人が棄権。議会は怒号が飛び交い、あるベテラン議員は、

「もうめちゃくちゃだ。とんだ恥さらしだ」

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と、テレビのカメラに向かって切り捨てた。

 24日、後任の保守党党首にリシ・スナク元財務相が選出され、イギリスの新しい首相となった。

 史上初のアジア系の首相であるとともに、2010年に43歳で就任したキャメロン氏の記録を塗り替え、20世紀以降では最も若い首相となった。

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スナク氏とは 最も裕福な国会議員のひとり

 スナク氏は、「最も裕福な国会議員のひとり」2といわれる。妻は、インドのIT大手インフォシスの共同経営者の娘。しかし、その妻はイギリス国内で納税していなかった3

 政界入りする前は、金融大手のゴールドマン・サックスで働き、自身も投資会社を共同設立するなどした。

 アフリカから移住したインド系の両親のもと、イギリスで生まれ育つ。脚光を浴びたのは、財務相時代の仕事ぶりから4(4)。2020年2月に39歳の若さで大臣に抜擢され、新型コロナウイルス対策の指揮をとる。

 休業を余儀なくされた国民に、給与の8割相当を支援するという、思い切った財政出動により、失業や倒産を抑えたことで、一気に知名度をあげた。

 ただ、あまりにも輝かしい経歴のせいか、前回のトラス氏との党首選では、

「庶民感覚がわかっていない」

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と批判され、党員の支持は伸び悩んだ。しかし論戦時、トラス氏の財源なき大規模な減税政策を「おとぎ話」と批判。トラス氏の辞任で、その予測が正しかったことが証明されたようだ。

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なぜ、トラスは勝ち、スナクは党首選に負けたのか

 7月に行われた保守党の党首選では、最終的に11人が名乗りをあげる。そのなかで、スナク氏はトップを走り続けていた。

 党首選では、他の候補が掲げる減税政策を、ただの人気取りの「おとぎ話」と批判、記録的なインフレへの対策に注視するための公約を掲げるなど、現実路線かつ安定した答弁を繰り広げる。

 ただ、スナク氏は党内基盤が弱く、7月20日に行われた5回目の投票では、得票率は38%にとどまった。

 とくにジョンソン政権時、相次ぐ不祥事で政権が混迷し、「見切りをつけて」閣僚を辞任し、結果的にジョンソン氏に引導を渡したスナク氏を、”裏切り者”と見る向きも。

 反対に、トラス氏は”反スナク票”をうまく取り込み、決選投票に躍り出る。また保守党内では、サッチャー元首相の”再来”とまで、もてはやされた。

 さらにトラス氏はスナク氏とは対照的に、最後まで、ジョンソン氏に「忠誠」を誓う。この国際情勢下、外務大臣としてウクライナに侵略しロシアへの制裁の強化を主導したことでも注目を浴びた。

 EUをめぐる問題も違いが。トラス氏は、もともと離脱反対の「残留派」であったが、その後に離脱の支持に転換し、対EUの点でも強硬姿勢。スナク氏も一応は離脱派であったものの、しかい明確な方針は打ち出さなかった。

保守党、「EU離脱後」分裂


 保守党政権の安定が最初に失われることになったのは、2016年のEU離脱を問う国民投票を決断したキャメロン氏の

「歴史的な誤算」

アメリカ公共ラジオ

だ。EUへの残留を訴えてきたキャメロン氏は、13年、保守党内のEU懐疑派の勢いを抑え、なおかつ政治基盤を強化するために国民投票の実施を公約。

 キャメロン氏は、国民が離脱を選ばないと予測していたというが6、結果は「離脱」に。キャメロン氏は16年、「国民の意思を尊重するとして辞任した。

 キャメロン氏の後任として2016年に首相に就任したメイ氏は、EUからの「円満な離脱」を目指したものの、しかし離脱強硬派からの反発を受け、EUとの離脱協定案の下院可決に失敗。

 離脱への道筋をつけられず、19年に退陣。

 一方、ジョンソン氏は「離脱の遂行」を公約。反発する野党に対し、議会を休会するなど

「予想のつかない戦略」

英メディア

を繰り出し、結果としては2020年末にEUからの完全離脱を成し遂げたものの、スキャンダルが相次ぐ。

 保守党内はEUとの関係構築や経済対策をめぐり、今も意見が割れ、”分裂”状態に。対する最大野党・労働党のスターマー党首は、

「英国はもはや保守党の混乱に耐えられない」

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とした。

  1. 東京新聞、2022年10月22日付朝刊
  2. 日本経済新聞、2022年10月25日付朝刊
  3. 木村正人「英国民はなぜ「英国のオバマ」スナク新首相が嫌い? 党と経済の立て直しには最適だが」ニューズウィーク日本版、2022年10月25日、https://www.newsweekjapan.jp/kimura/2022/10/post-192_1.php
  4. 日本経済新聞、2022年10月25日
  5. 日本経済新聞、2022年10月25日
  6. 産経新聞「英首相、6年で4人辞任 EU離脱などで党内分裂」Yahoo!ニュース、2022年10月21日、https://news.yahoo.co.jp/articles/f2b00368b395e356519112798c26c554aa6ede43
  7. 産経新聞、2022年10月21日