イギリス 次期首相にトラス首相が決定 「反意識高い系」 選挙情勢振り返り トラス氏を待ち受けうるもの 

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 イギリスの与党である保守党は5日、ジョンソン首相の後任となる新しい党首にエリザベス・トラス外相(47)を選出。

 党首選となる党員投票の結果、大規模な減税を掲げるトラス氏が、対抗馬と前の財務相であるリシ・スナク氏(42)を破った。

 トラス氏は、サッチャー元首相(在任期間:1979年〜90年)、メイ前首相(2016年〜19年)につづき、英史上3人目の女性首相となる。

 私は率直に物をいう女性です。

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 8月19日、中部マンチェスターで行われた保守党の党員集会で、自らをこう示した。決戦投票を戦ったスナク前財務相は弁舌上手であったため、あえて自分を、

 口下手だが正直。

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と印象づける狙いがあったと見られる。

 トラス氏がとくにストレートな物言いで訴えたのは、保守党の伝統的価値観の擁護。欧米では、ジェンダーや人種に関する差別や不公正に高い意識を持つウオーク(woke)という言葉が急速に広まっている。

 目覚める(wake)という言葉が由来とされ、イギリスでも新聞の見出しになることも多い。日本語では、「意識高系」に似ているという3。トラス氏はこれに異を唱え、「反ウオーク」を貫く。

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首相選出方法 日英の違い


 日本とイギリスとは同じ議院内閣制を採用しているものの、首相の選出方法に違いがある。

 イギリスでは、首相は下院の第一党の党首が”自動的に”国王により首相に任命される。対して日本では、内閣総理大臣は衆議院議員の多数決により選出。

 イギリスの保守党の党首選を取りまとめる1922年委員会は、7月11日に党首選と日程とルールを発表4

 立候補に必要な推薦人を前回の8人から20人に引き上げるとともに、最初の投票を通過するのに必要な票数を18票から30票に引き上げた。

 党首選は7月から順次、複数回の投票を行い、最終的に候補者を2人まで絞り込む。その後、イギリス全土16万人の保守党員が郵便投票による決選投票を行い、投手を決定する。

保守党党首決定までのプロセス


1. 各候補が出馬(候補者1人につき下院議員20人の推薦が必要)
2. 第1回投票→保守党下院議員が投票(30票を得られない候補者は除外される)
3.  第2回投票→保守党下院議員が投票(獲得票が最も少ない候補は除外される)
4.  候補者2人になるまで投票がつづく(全候補が必要な票数を得た場合、得票数が最も少ない候補が除外される)
5.  郵便投票(保守党員が投票)
6. 党首が選出(勝者は党首となり、首相になる)

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選挙情勢振り返り 「大本命」スナク氏、敗れ去る

 党首選は、ジョンソン首相の辞任を受け、7月12日に開始、8人の議員が出馬表明した。

候補者の顔ぶれ

・ケミ・ベイドノック前レベリング・アップ(標準化)担当相
・スエラ・ブレイヴァーマン法務長官
・ジェレミー・ハント元保健相
・ペニー・モーダント通商政策担当相
・リシ・スナク前財務相
・リズ・トラス外相
・トム・トゥーゲンハート下院外交委員長
・ナディム・ザハウィ財務相

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 第1回投票ではスナク氏が1位となった。ジョンソン政権から辞任し、他の多くの政府要職者が一気に辞任するきっかけをつくったひとり。

 2回目の投票でも、スナク氏が1位に。

 ブレイヴァーマン法務長官は獲得票が最も少なく、敗退。ただ、ブレイヴァーマン氏はトラス氏への支持を公表。

 また、ブレイヴァーマン氏に投票した保守党下院議員27人のほとんどが、同様にトラス外相に投票する見通しとなり、流れが変わる。

 5回目の投票でスナク氏とトラス外相が上位2人となり、党員全員による決選投票へ進むことになった。

 5日に、トラス氏が党員投票により勝利、首相の座を射止めたものの、得票は約57%で、予想外の僅差の勝利となった。2019年にはジョンソン氏が得票率66.4%で、2005年にはキャメロン氏が67.6%獲得している。

トラス氏を待ち受けうるもの インフレ スコットランド独立問題 北アイルランド問題

 
 このところのイギリスの物価高騰により保守党の支持率自体も低迷、野党である労働党にリードを許す。

 8月に行われた、

 明日総選挙ならどの党に投票するか。

という世論調査に対し、労働党は43%、保守党28%で15ポイントもの大差がついた7。イギリスの7月の消費者物価指数は40年ぶりの記録的な水準となっているが、米ゴールドマン・サックスは8月下旬、

 インフレ率は来年初めに20%を超える可能性がある。

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と今後さらに悪化する可能性も。

 スコットランドでは来年10月、独立を問う2度目の住民投票が実施される。トラス氏は反対の立場だが、ここでインフレを抑制できなければ、「独立」派が勝利する可能性もある9

 一方、アメリカのバイデン政権は、自国にアイルランド系国民が多いことから、北アイルランドをめぐるイギリスとEUの対立に懸念を示す10

 トラス氏は5月、イギリスが離脱時にEUと決めた英本土—北アイルランド間の物流の取り決めを、手続きが煩雑だとして一方的に破棄する方針を表明した。

  1. 篠田航一「トラス氏、どんな人? 「意識高い系」に反対、過去に不倫疑惑も」毎日新聞、2022年9月5日、https://mainichi.jp/articles/20220905/k00/00m/030/289000c
  2. 篠田航一、2022年9月5日
  3. 篠田航一、2022年9月5日
  4. BBC NEWS JAPAN「【解説】 英保守党党首選、ジョンソン氏の後任は誰になるのか?」2022年7月13日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-62134730
  5. BBC NEWS JAPAN、2022年7月13日
  6. BBC NEWS JAPAN、2022年7月13日
  7. 藤和彦「鉄の女2.0「トラス英国新首相」を待ち受ける難題 このままでは大規模な暴動が起きる」デイリー新潮、2022年9月6日、https://www.dailyshincho.jp/article/2022/09060601/?all=1
  8. 藤和彦、2022年9月6日
  9. 藤和彦、2022年9月6日
  10. 東京新聞「防衛費を「GDP比3%に増やす」、TikTokを「取り締まる」 トラス氏は中国、ロシア、EUに強硬姿勢?」2022年9月5日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/200258