Gerd AltmannによるPixabayからの画像
アメリカ・ニューヨーク州の大陪審は、30日、トランプ前米大統領を起訴した。副大統領が起訴されたことは過去にはあるが1、大統領経験者が起訴されるのは米国史上初めて。
トランプ氏は2016年の大統領選挙期間中、かつて不倫関係であった元ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ(本名=ステファニー・クリフォード)氏に「口止め料」を支払った疑いがあり、これに関し法 律に触れたとして立件されたものとみられる。
あるいは、AP通信によるとトランプ氏は虚偽文章の作成など複数の罪に問われ、少なくとも一つの重罪が含まれる。30件以上の訴訟で起訴されたのと報道もあるが2、起訴状は未公表であり詳細は不明だ。
ただ、起訴されたとしても次期大統領選への出馬は可能だ。「無罪の推定」とともに、たとえ有罪が確定したとしても、法律上、大統領選への立候補を阻む規定はない3。
数々の疑惑の渦中の最中、しかしトランプ氏は刑事被告人として法廷で争いつつ、次期大統領選をたたかうことになる。
関連記事→
大陪審とは
「大陪審」とは、アメリカの司法制度のうち、検察が提出した証拠を検討し、起訴が妥当かどうか判断する機関。法律用語でいえば、犯罪が行われたと信じられる「相当な理由」の有無を判断することになる機関だ4 。
大陪審には結論を出すための捜査権限が与えられる。一般市民のなかから選ばれた複数の陪審員で構成され、似たような組織に刑事裁判で有罪か無罪かの評決を下す「陪審(小陪審)」があるが、大陪審は罪の有無の認定はしない5。
ニューヨーク州の大陪審は、18歳以上の23人から構成され、審理が完全非公開で行われ、起訴されるためには12人以上の賛成が必要となる7 。
合衆国憲法の修正第5条は、
「何人も、大陪審による告発または正式起訴によるのでなければ、死刑を科しうる罪その他の破廉恥罪につき公訴を提起されることは無い」
と定めている。
すべての州に大陪審を認める規定があるが、実際には約半数の州では利用されていない8。それ以外の州では、連邦レベルではない犯罪で容疑者を起訴するかどうか、予備審問で決めることが多い。
トランプ氏を起訴に持ち込んだのはブラッグ検事とは?
トランプ氏を起訴に持ち込んだのは、2022年に黒人として初めてマンハッタン地区の検事に就任したアルビン・ブラッグ氏(49)。
昨年2月の時点では、トランプ氏を起訴しない方針を固めたことから、訴追の可能性は消えたかにみえたが、しかし今年に入り、新たに大陪審を招集、証拠を積み上げ起訴に持ち込んだ。
ニューヨーク州のマンハッタン地区の検事を務めるブラッグ氏は、ベテランの検察官として2022年初めに地区検事に就任。
アメリカでは地区検事は公選制であるが、ブラッグ氏は公選時の2つのテーマを打ち出す。
1つは、刑務所で服役させるものではない別の処罰方法の推進。そしてもう1つが、ホワイトカラー犯罪と公職者の汚職の起訴強化であった9 。
地区検事を目指す選挙運動で、ブラッグ検事は自分の経歴を強く打ち出す。検事は、1980年代にクラック・コカイン中毒が蔓延していた当時のニューヨーク市ハーレム地区で生まれ育つ。
警官に銃を突き付けられたり、自宅の玄関前に殺人事件の被害者が倒れていたり、そして義理の兄弟が一時拘束され、その後しばらく同居していたことなどの経験を持つ10。
暴動や混乱懸念
ロイター通信などによる最新の世論調査では、トランプ氏の共和党内における支持率は44%でトップ。2位のデサンティス・フロリア州知事の30%を大きく上回る。
アメリカでは起訴されても大統領選への出馬を阻む規定はない。仮に、選挙期間中に有罪判決を受けて収監されても、刑務所から出馬することもできる11。
トランプ氏は、3月18日に自身が逮捕されると訴え、支持者らに抗議するよう呼びかけた12 。その後、検察に脅迫が相次いでおり、トランプ氏の出頭やその後の手続きがスムーズに進むか懸念する声も上がっている。
通常、出頭後は写真撮影や指紋が採取され、裁判官の前で起訴内容を告げられ、罪状認否に臨む。しかしその後は、保釈される可能性が大きい。
無罪を主張すれば、公判に進む。罪状にもよるが、軽い犯罪以外は、大陪審とは別の召集される市民による陪審が有罪か無罪かの評決を下す。有罪の場合、量刑は裁判官が判断。
ときには手錠をかけれらたまま被告が公衆の前に姿を見せる手続きが取られることもあるが、今回は安全の確保や大統領経験者であることが考慮され、見送られるとの見通しだ13。
- James D. Zirin「もしドナルド・トランプが起訴された場合、どうなる? 元連邦検事が語る」Esquire、2023年3月30日、https://www.esquire.com/jp/news/a43459908/donald-trump-indictment-explained-2023/
- 高野遼・遠田寛生「トランプ氏起訴、重罪含む複数の罪か 4日に出頭、全面的に争う構え」朝日新聞デジタル、https://digital.asahi.com/articles/ASR4174K3R41UHBI00R.html
- 高野遼・中井大助「トランプ氏を起訴」朝日新聞、2023年4月1日付朝刊、1項
- BBC NEWS JAPAN「【解説】 アメリカの「大陪審」とは何なのか」2023年3月23日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-65047861
- 時事通信「大陪審」西日本新聞、2023年4月1日付朝刊、1項
- 時事通信、2023年4月1日6時事通信、2023年4月1日
- BBC NEWS JAPAN、2023年3月23日
- サム・カブラル「トランプ前米大統領を訴追するマンハッタンの検事とは」BBC NEWS JAPAN、2023年4月2日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-65152671
- サム・カブラル、2023年4月2日
- 金子渡「トランプ氏 結束に腐心」西日本新聞、2023年4月1日付朝刊、2項
- ニューヨーク・共同「暴動や混乱を懸念」西日本新聞、2023年4月1日付朝刊、2項
- 共同、2023年4月1日