欧州議会選、投開票 極右台頭”ニューノーマル”化 仏マクロン、下院解散 危険な賭け 

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joronoによるPixabayからの画像

6日から9日にかけて欧州連合(EU)欧州議会(定数720、任期5年)選挙の投票が行われ、9日に開票された。議会事務局発表の暫定結果によると、EUの政策に批判的な極右や右派は伸長し、計150議席を占めるに至った。
 
この結果を受け、フランスのマクロン大統領は国民議会(下院)の解散総選挙を発表。
 
続投を目指すフォンデアライエン欧州委員長を支える親EUの3会派は議席を減らすものの過半数は維持し、今後は次の指導部人事が焦点となる。
 
10日午前の暫定結果では、親EUの3会派が上位3位を占めるも、16議席減らし計401議席。
 
内訳は、中道右派「欧州人民党(EPP)」が185席で最大を維持。続いて中道左派「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」が137議席、中道リベラルの「欧州刷新」は、23議席減の79議席。
 
対して、EUに批判的な会派は、イタリアのメローニ首相が率いる右派政党が入る「欧州保守改革(ECR)」が4議席増の73議席。フランス極右の「国民連合(RN)」などでつくる「アイデンティティーと民主主義」は9議席増の58議席を占めた。
 
一方、上記の会派に属していない極右・右派政党もあり、ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」が15議席を獲得し、勢力を伸ばす。

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欧州議会とは

 欧州議会は、EU(欧州連合)の機関で唯一直接選挙が行われ、ときに「EU市民の代表」とも呼ばれる。

  加盟国の閣僚らで構成されるEU理事会とともに立法作成を担い、EUの政策や予算を承認する。議員らは法案を提出する権限は持ってはいないが、法案修正などを求めることでその影響力を行使する1

  また法案や政策を提案する欧州委員会のトップである欧州委員長の人事を最終的に承認するのも欧州議会の役割だ。

  議会選挙は1979年から5年に1度実施され、今回はEUに加盟する27カ国で行われた。加盟国には人口に応じた議席数が割り当てられ、約3億7000万人の有権者2が自国の政党に投票する。

  各国で選ばれたあと、政策や主張が合致する議員らが国をまたいで活動することが主な責務。今回の定数は720で、議席数の最多はドイツで96だ3

  投票できる年齢は各国によって異なっている。多くの国は18歳以上であるが、ベルギーとドイツでは今回、16歳に引き下げらた。またオーストリアとマルタは以前から16歳であり、ギリシャは17歳から投票できる4

  議会選の課題は低い投票率だ。それでも近年、増加傾向にあり、2019年に投票率は50.7%に達した。

極右の台頭 ”ニューノーマル”

  欧州でも極右は、かつては過激せあるとして敬遠されてきた。しかし現在、極右は移民の急増やEUの政策に不満を抱く市民の共感を集め存在感を増し、極右勢力の「ニューノーマル(新常態)」化が進む。

  欧州では新型コロナの流行が落ち着き始めた2021年ごろから、移民・難民の流入が急増。それは、2015年のシリア難民ら100万人以上が殺到した際を想起させた。

  また近年、EUは低炭素社会移行に向けた「欧州グリーンディール政策」など先進的な環境政策を進めてきたが、しかし今年に入り、農薬使用などに関する規制が農業の生産性の低下を招いているとして農家の抗議活動が拡大5

  加えて失業や経済的不安に敏感な若者が、国内産業の保護や移民の制限を訴える極右に共感する。

  欧州議会選では、今回からドイツとベルギーで投票年齢が16歳に引き下げられ、新たに約150万人の若者に選挙権が与えられた。

  オーストリアとマルタも16歳、ギリシャは17歳、その他の国は18歳以上となっていて、各党にとっては若者の票をどう取り込むかも重要であるが、右翼政党は動画投稿アプリ「TikTok」で選挙戦を展開してきた6

仏マクロン、下院解散 危険な賭け 

  衝撃的だったのは、フランスのマクロン大統領の動きだ。

  マクロン氏は、9日夜、欧州議会選でマリーヌ・ル・ペン氏率いる極右政党「国民連合」がフランスで大勝する見通しとなったことを受け、議会下院を解散し総選挙を実施すると表明。

  マクロン氏は、大統領2期目の2年目に入ったばかりであるが、しかし議会では過半数を握れていない。総選挙も、マクロン大統領自身の職には影響せず、下院選と大統領選は全くの別物。

  ニューノーマルとはいえ、極右勢力の大勝は欧州規模の一時的な結果であり、マクロン氏はやり過ごすこともできた。

 そして、もうすぐドイツで始まるサッカーの欧州選手権や、パリ五輪でにより、国民の関心は数カ月の間は政治から離れる。

  パリの政治コメンテーターたちも、与党が敗北してもマクロン氏はそうやって受け流すだろうと予期していたとも7。しかし、マクロン氏はおそらく今回の事態を予測したうえで、入念な準備をしていたという。

  総選挙はパリ五輪開幕の数週間前の6月30日と7月7日の2回に分けて実施。とはいえ、フランスで議会が解散されるのはシラク政権下の1997年以来のことであり、異常事態であることは間違いない。

  1. 牛尾梓「いちからわかる! 「欧州議会」ってどんな役割があるの?」朝日新聞、2024年6月11日付朝刊、2項
  2. 牛尾梓、2024年6月11日
  3. 牛尾梓、2024年6月11日
  4. 牛尾梓、2024年6月11日
  5. ブリュッセル=共同「欧州議会 極右「新常態」に」西日本新聞、2024年6月11日付朝刊、3項
  6. 牛尾梓「フォロワー130万、TikTok駆使の右翼政党党首 若者から声援」朝日新聞デジタル、2024年6月5日、https://digital.asahi.com/articles/ASS634J60S63UHBI005M.html
  7. ヒュー・スコフィールド「マクロン仏大統領、解散総選挙という賭けに 欧州議会選で極右に大敗」 BBC NEWS JAPAN、2024年6月10日、https://www.bbc.com/japanese/articles/ce44zj47v47o
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