混迷する民主主義 イギリス・フランス、そして日本 強まる既存政治への不満

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PerlinatorによるPixabayからの画像

 先般行われた英仏の選挙結果は、両国の有権者間に既存政治体制への不満が高まっていることを示すものである。
 
 英国では、近年の総選挙において14年ぶりの政権交代が実現した。与党・保守党が歴史的な大敗を喫し、最大野党の労働党が単独過半数を達成した。

 新首相のスターマー氏は「国家刷新と公共のための政治への回帰」を提唱し、労働者階級の生活支援を公約した。
 
 この結果は、長期間続いた保守党政権の政策に対する有権者の不満が具現化したものと考察される。
 
 一方、フランスの国民議会選挙の決選投票では、左派連合「新人民戦線(NFP)」が最大勢力となり、182議席を獲得した。

 マクロン大統領が率いる与党連合は168議席を獲得し、第二勢力に。そして極右政党「国民連合(RN)」は143議席を獲得し、第三勢力となった。
 
 ただ、この結果は事前の予想を覆すものだった。当初、国民連合の躍進が予測されていたが、実際には左派連合が予想外の勝利を収めた。
 
 決選投票では、左派連合と与党連合による候補者の一本化などの共闘戦略が功を奏し、国民連合の躍進を抑えることに成功した。
 
 しかしこの結果により、フランスの政局は混迷を深める可能性がある。マクロン大統領の政権運営は難しさを増し、首相指名へのプロセスにおける多数派工作が激化すると予想される。

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イギリス、14年ぶりの政権交代

 英国総選挙において、労働党が圧倒的な勝利を収め、キア・スターマー氏が新首相に就任した。
 
 労働党は650議席中412議席を獲得し、過半数を大幅に超える結果となった。労働党の勝利は、14年間続いた保守党政権に対する有権者の不満が反映されたものである。
 
 特に、生活費の高騰、NHS(国民保健サービス)の問題、そしてブレクジット後の経済的不安が政権交代の主要な要因となった。
 
 一方、保守党は121議席にとどまり、歴史的な大敗を喫した。保守党の敗北の要因としては、ブレクジットの影響、COVID-19パンデミックへの対応、そして経済政策の失敗が挙げられる。

 特に、ボリス・ジョンソン氏やリズ・トラス氏のスキャンダルが党の信頼を大きく損ねた。
 
 他方、自由民主党は71議席を獲得し、2019年の11議席から大きく躍進した。極右政党の改革UKは14%の得票率を得たものの、議席数はわずか4に留まった。
 
 有権者の投票行動としては、若年層は労働党を支持する傾向が強い、特に30歳未満では労働党支持が顕著だ。一方で、高齢層は依然として保守党を支持する傾向が見られた。
 
 ただ、労働党の勝利は政策への期待というよりも保守党への不満が主因である、実際の政策実行には課題が残る。

 他の小政党(自由民主党、Reform UK、緑の党)も議席を増やしており、今後は多様な政治勢力との協調が求められそうだ。

混迷するフランス ハングパーラメント(中ぶらりんの議会)の可能性

   一方、フランスの総選挙は、予想外の結果となり、今後、政治的な混乱を引き起こす可能性がある。

  左派連合「新人民戦線(NFP)」は確かに国民議会で最大勢力となり、188議席を獲得。マクロン大統領の中道連合「アンサンブル(ENS)」は161議席で2位、極右政党「国民連合(RN)」は142議席を獲得。

  選挙は、6月の欧州議会選挙で国民連合が大勝したことを受けて、マクロン大統領が議会を解散し実施。

 ただ主要な3つの勢力(NFP、ENS、RN)のいずれも単独で過半数を確保できなかったため、フランスは「ハングパーラメント(中ぶらりんの議会)」状態となり、今後の政局運営が困難になると予想1

  今後、マクロン大統領は、ENSとNFPの一部勢力との連立を模索する可能性があるが、しかし政策的な違いが大きく、特に年金改革に関する対立が予想。

  NFP内には、急進左派から中道左派まで幅広い勢力が参加しており、統一した政策を打ち出せるかが課題となっている。

  RNの失速は一時的なものであり、今後の議会運営の混乱が続けば、RNへの支持が再び高まる可能性も。

 マクロン大統領は新たな首相を任命する必要がありますが、NFPからの候補者を選ぶか、ENS内から選ぶかで議論が続く。

既存政治への不満 一方日本は?

 選挙の結果、両国ともに、長年政権を担ってきた勢力(イギリスの保守党、フランスのマクロン大統領率いる中道連合)が大きく後退。これは有権者の既存の政治体制に対する不満や変化への期待を反映しているようだ。
 
 両国ともに物価高騰や生活水準の低下などの経済問題に対する有権者の不満が投票行動に影響を与えたと考えられる。両国の選挙結果は、社会の分断を反映している
 
 イギリスでは労働党が大勝したものの、得票率は33.7%と歴史的に低い水準を記録。フランスでは議会が複数の勢力に分かれる結果となり、今後の政権運営の難しさを内包している。
 
 一方、両国とも、本選挙では投票率が高かった。フランスでは第1回投票において投票率は66.71%で、1997年以来の最高を記録した。これは有権者の政治に対する関心が高いことを示している。
 
 また、先日行われた東京都知事選挙では、一部の候補者の選挙看板が破壊されるという事態が発生した。これは、単なる器物損壊ではなく、政治的な意図を持った行為と見なされている。
 
 この行為は、既存の政治体制や政治家に対する有権者の不満や怒りの表現と捉えるべきである。特に、伝統的な政治手法や政策に対する不信感が高まっていると示唆される。

  1. William Horobin、Alice Gledhill「狭まるフランスの選択肢、極右内閣か議会こう着か-視界不良の時代へ」Bloomberg、2024年7月3日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-02/SFYU63T1UM0W009
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