もう一つの審判 最高裁判所国民審査とは?

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10月31日の衆議院選挙に合わせて、最高裁判所の国民審査を行われる。審査対象となるのは、前回の衆院選(2017年10月)後に任命された、深山卓也氏、岡正晶氏、宇賀克也氏、堺徹氏、林道晴氏、岡村和美氏、三浦守氏、草野耕一氏、渡辺恵理子氏、安波亮介氏、長嶺安政氏の11人(告示順)。


 最高裁判所(最高裁)は三権の1つである「司法」の結論を示す場所である。ほかの裁判所が異なる判断をすることは、事実上できない。最高裁は、国の法律が憲法に違反していないか、行政の対応に何か問題がないかを審査する役割を担う。

 このような権限を持つ15人の裁判官たちを審査するのが、憲法で定められた国民審査である。

 投票用紙は、衆議院選挙の投票用紙と一緒に渡される。投票用紙には、就任してから一度も審査を受けていない裁判官や、審査から10年以上たった裁判官の名前が書かれてある。

 今回の審査は、前回2017年の衆院選以降に就任した11人が対象で、これまでで2番目に多くなっている。11人の裁判官にとっては、「最初で最後」の国民審査である。

 投票で辞めさせたい人がいた場合には、「×」を書く。「×」が有効投票の過半数に達した裁判官は、罷免される。このときに、「〇」などのほかの印や文字を書くと、無効扱いとなる。また白紙で投票されたときは、「全員信任」となる。投票率が1%を下回った場合は、過半数に達しても罷免されない。

 結果は、衆議院選挙の結果とともに公表される。

 この国民審査の制度は、戦後に日本国憲法を制定する過程で、アメリカのミズーリ州などにあった制度を参考に考案されたという。

 州知事が、諮問委員会から示されたリストをもとに裁判官を任命し、その後、住民の投票による審査を行う仕組みだ。だが、アメリカの連邦最高裁には、このような国民審査の制度はない。

 日本の最高裁の裁判官(14人とトップの長官1人)の指名権と任命権は、三権分立に基づき内閣が持つ。

 任命される資格は、「識見の高い法律の素養のある40歳以上の者」と定められている(定年は70歳)。

 15人のうち少なくとも10人は、高裁長官、裁判官、検察官、弁護士、法律学の教授・准教授に一定期間就任した人の中から選ぶことになっている。

 ただ慣例として、裁判官枠が6、検事枠が1、行政官枠が2、学者枠が1、弁護士枠が4あった。しかし2020年に安倍政権が弁護士枠を3に減らし、学者枠を2に増やした。

 たとえば国権と民権の線引きが求められるような裁判が最高裁に持ち込まれた際、裁判官、検事、行政官は国権側に立ち、弁護士が民権側に立つ傾向が多い。

 だが、民事、刑事、行政訴訟、違憲訴訟などすべての裁判で最終決定を下す最高裁は、元々、圧倒的に国権側に立つ場合が多く、国家賠償請求などがほとんど認められない。

 日本に最高裁で初めて女性が就任したのは1994年で、女性の割合が最も多かったのは3人であった。

 裁判所には、国会がつくった法律や行政の省令などの「法令」が憲法の趣旨に反する場合に「ノー」を下すことができる「違憲審査権」がある。

 憲法の番人ともいえる最高裁判所がこれまで憲法違反と判断したのは10件であり、憲法違反にあたる部分はその後、改正された。

 しかし、最高裁まで持っていかれる案件は極めて限定される。原則として、憲法が最高裁の判例に違反するかどうか、法令の解釈が間違っているか、といった案件だけである。

 最高裁が「上告に相当する案件」とみなし、最高裁としての判断を示す場合は、法廷を開いて「判決」を言い渡す形で結論と理由を示す。

 判決の前に双方の主張を聞く「弁論」を開くこともあり、この弁論が開かれると、多くの場合、地裁や高裁の判断が覆される。

 逆に、最高裁としての判断を示さない場合や、「上告できる案件ではない」とみなす場合は法廷を開かず、当事者に結論を示す文書(決定)を送って終了だ。

 ほとんどは、この「上告できる案件ではない」という短い説明だけで上告が退けられる。

 その理由や、事実関係の認定は地裁や高裁が行い、最高裁は法的な判断のみ認定するという役割が、法律により定められているためだ。

 しかし刑事事件の場合、地裁や高裁の判断に問題があり、そのまま刑を確定させると「著しく正義に反する」とされた場合、最高裁が地裁・高裁の判断を覆すこともある。

 このような国民審査の制度であるが、制度が始まった1949年以降、今まで24回の審査が行われたものの、誰ひとり罷免された裁判官はいない。

 平均の不信任率は6〜8%、過去最高でも15%にとどまる。最も多く×がついたのは、1972年の第9回審査での下田武三氏。失言があり野党が反発、大規模な「罷免キャンペーン」が展開された。

 今回の国民審査の対象となる11人は、どのような判断を下したのだろうか。

平等原則


「夫婦同姓を前提とした民法や戸籍法の規定は違憲か?」


(合憲)深山卓也氏、林道晴氏、岡村和美氏、長嶺安政氏
(違憲)宇賀克也氏、草野耕一氏、三浦守氏(ただし別姓の婚姻届不受理は正当)

「制同一性障害の男性が戸籍状の性別を女性に変更するように求めたのに対し、すでに女性と婚姻していることを理由に国が認めかったのは違憲か?」

(合憲)岡村和美氏、三浦守氏、草野耕一氏

「浮気が原因で女性同士の事実婚カップルが破局した場合、男女の夫婦と同じく法的に保護される関係として、慰謝料の支払い義務が生じるか?」

(生じる)岡村和美氏、三浦守氏、草野耕一氏

選挙制度

「1票の格差が最大1.98倍だった2017年の衆院選は違憲か?」


(合憲)深山卓也氏、林道晴氏、岡村和美氏、草野耕一氏
(違憲状態)三浦守氏
(違憲)宇賀克也氏

「2019年の参院選で導入された比例代表の特定枠は違憲か?」

(合憲)岡村和美氏、三浦守氏、草野耕一氏

政教分離


「孔子廟」に対する那覇市の公園使用料免除は違憲か?

(違憲)深山卓也氏、宇賀克也氏、林道晴氏、岡村和美氏、三浦守氏、草野耕一氏

表現の自由

「表現の不自由展」大阪会場の施設利用を認めるべきか?

(認めるべき)宇賀克也氏、林道晴氏、長嶺安政氏

刑事事件

「1966年の袴田事件で死刑が確定した袴田巌氏の再審開始を認めなかった高裁の判断は妥当か?」


(不当、直ちに再審を開始すべき)宇賀克也
(不当、高裁で審理をやり直すべき)林道晴

「1979年の大崎事件で義弟を殺害したとして有罪になり、服役した女性の再審開始を認めた1、2審の判断は妥当か?」


(妥当ではない)深山卓也氏

「1985年の松橋事件で男性を刃物で刺して殺害したとして有罪になり、服役した男性の再審開始を認めるべきか?」


(認めるべき)三浦守氏

「2003年に男性患者が死亡した湖東記念病院事件で有罪になり、服役した元看護助手の女性の再審開始を認めるべきか?」


(認めるべき)草野耕一氏

「GPS機器を相手の車に無断で取り付け、位置情報を把握するのは「見張り」に当たり、ストーカー規制法で有罪となるか?」


(無罪)深山卓也氏

「医師免許がないのに客にタトゥーを入れたら医療行為に当たり、医療法違反で有罪となるか?」

(無罪)岡村和美氏、草野耕一氏

 日本における三権分立のうえで、最高裁の判事を任命するのも内閣であるし、三権の長となる最高裁の長官を指名するのも内閣だ。

 この最高裁判事の国民審査を行うことは、最高裁の人事を判断するとともに、その人事を行った内閣への意思表示を示すものとしても重要なものとなる。