「経済制裁の最終兵器」が発動 ロシアをSWIFTから排除 SWIFTとは? 銀行版Gmail

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mireya fernandezによるPixabayからの画像

 ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関し、対する西側諸国はついに、「経済制裁の核兵器」を発動して対抗した。

 2月26日、米国と欧州連合は共同声明を発表、ウクライナに侵攻したロシアに対し、国際決済ネットワークである「国際銀行間通信協会(SWIFT・スイフト)」からロシア関連の一部の銀行を排除する追加制裁を決定。

 SWIFTは、各国の金融機関同士の取引に必要な通信ネットワークを運営している。排除となれば、ロシアの金融機関を送金の国際枠組みから締め出すこととなり、ロシアの貿易を停滞させて経済的な打撃を当たえることとなる。

 他方で、ロシアからの天然ガスなどの輸出が滞る可能性も。また、排除される銀行が限られる余地は残っている。

 声明は、EU欧州委員会と、米国、フランス、ドイツ、英国、イタリア、カナダが26日に発表。そのなかで、

 この戦争がプーチンの戦略的失敗であることを一致して知らしめる。

と強調した。

 SWIFTからの排除は、「経済制裁の核兵器」といわれる。過去に北朝鮮とイランに対し発動されたことはあるが、これまでロシアのような大国を対象としたことはなかった。

 締め出される銀行が広範囲になるほど、輸出の停止が大規模となりロシア経済へ与える影響は大きくなる。

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経緯

 ロシアのSWIFTからの排除についての考え方については、欧州の間でも隔たりがあった。とくにドイツはロシアからのパイプライン計画の凍結、ウクライナへの武器輸出に関しては制裁へ踏み切ったものの、SWIFTからのロシア排除については、最後まで協調してはいなかった。

 SWIFTからの排除の例は、過去に核開発計画で緊張の高まった2012年と18年にイランの銀行について遮断。

 その影響により、イランの国内総生産(GDP)は18年にはマイナス6%と大幅な落ち込みとなり、同国の通貨リアルも価値が6分の1にまで暴落した。

 しかしながら、ロシアへの制裁については世界的な衝撃はイランと比べ計り知れない。イランのGDPは約20兆円にすぎないが、ロシアはその8倍の約150兆円。

 さらに欧州はエネルギーの調達をロシアに依存しており、天然ガスの4割はロシア産である。そのロシアはSWIFTから排除すれば、エネルギーの調達に支障が出る可能性はあった。

 ただ、ロシアのウクライナに対する攻撃が止まらず、欧州の主要都市でもウクライナへの支持を表明する大規模なデモが広がる。ドイツとともに制裁に慎重な姿勢であったイタリアとハンガリーの首相も、「SWIFTからの排除」はやむなしとの考えにいたる。

 さらに制裁の副作用となるおそれをなるべく防いでいった。ロシアのすべての銀行をSWIFTから排除すれば、購入する天然ガスの代金を支払えなくなり、調達に支障が及ぶ。そのため、まずは大手の銀行だけを対象とすることで”最小限”の経済的な関係だけは保てるようにした。

SWIFTとは

 SWIFTは、海外送金の事実上の標準的システムだ。1973年に各国の銀行により協同組合形式の団体として設立され、本部はベルギーにある。現在、約200の国と地域の金融機関、約1万団体が参加。

 ロシア国立SWIFT協会によれば、ロシア国内からは300の銀行および金融機関が所属しており、これは米国に次いで次ぐ2番目に多い。欧米メディアによれな、SWIFT全体の送金情報のうち、ロシアが関係するものは約1.5%という。

 SWIFTとは、「Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication」の略称。国境を越えた迅速な決済を可能にし、国際貿易を円滑に行うための情報通信システムを構築している。

 SWIFTの2020年の年次報告によれば、システム上で1日当たり約3800万件の送金情報がやり取りされていた。

 現状、たとえば日本の銀行から海外の銀行に送金しようとした際、それぞれの国にある「中継(コルレス)銀行」と呼ばれる決済代行銀行を介する必要がある。このコルレス銀行となる国際銀行は互いに口座を持っており、そこで資金のやり取りが行われる。

 SWIFTの役割は、これらの一連の流れのなかで送金の情報を送受信すること。米国ワシントン・ポスト紙はこのSWIFTを「グローバルバンキングのGmail」と表現する。決済情報は監視されず、中立的なプラットフォームであるが、しかし国や国際機関が制裁を決めると、それに伴い対象の金融機関が排除される。

 SWIFTは本部を置くベルギーの法律に従う必要があり、ベルギーが加盟する欧州連合(EU)の決定を受け入れる立場にある。よって、制裁はEUの動向に左右される。

ロシアに与える影響

 ロシアの銀行や金融機関がSWIFTから排除される打撃は図りしれない。まずロシアは世界中の金融市場へのアクセスが困難となる。そしてロシア国内の企業は、輸出入品の決済、国をまたぐ投資や借り入れが難しくなる。

 とくにロシアの主要な輸出品である石油や天然ガスなどのエネルギーの決済が他国とできなくなるため、ロシアは収入源が断たれかねない。ロシアに輸出する機械や自動車といった工業製品の代金が受け取れなくなるため、外国企業がロシアとの取引を避ける動きもあるだろう。

 SWIFTを介さず、電話回線や電子メールで伝票をやりとりするという”アナログ”的な決済手段を使うことは可能であるが、しかし取引に時間とコストがかかる。

 このような国際的な決済システムから切り離されることで、ロシアの通貨であるルーブルの信認が低下し、通貨安となる可能性もある。そのため、ルーブルを買い支えるロシア中央銀行の為替介入を規制する制裁措置をセットで発動すれば、ルーブルの下落は続き、ロシア経済はインフレが発生し、大規模な混乱が予想される。

 カーネギー国際平和財団モスクワセンターの分析によれば、ロシアがSWIFTから排除されると、ロシアのGDPは5%減少するという。

制裁が与える影響

 ロシアへの制裁はSWIFTにとどまらない。米国と欧州は、経済制裁をさらに強めるためにロシア中央銀行にも制裁を科し、為替の介入をできなくする。

 中島真志・麗沢大教授は、

 投機筋のルーブル売りで通貨が暴落するシナリオもある。

日本経済新聞2月28日付朝刊

という。

 実際、ルーブルは2月24日に史上最安値をつけた。通貨が急落すれば、輸入品の価格が上がり、生活が困窮しかねない。すでにロシアではインフレ率が8%台まで高まっており、

 ロシア国民の間で反戦機運が高まる。

野村総合研究所・木内登英氏

とされる。

 欧州市場で金融取引の決済を担う清算機関である「クリアストリーム」がロシア株や債券などのルーブル建て取引を停止し始めており、ロシア政府や企業の資金調達にも打撃を与える。

 中国が制裁でダメージを受けたロシアのエネルギー輸出を引き受け、制裁を”骨抜き”にするという憶測もあった。

 ただ、米国の高官は、

 直近では中国が救済に動いている兆候はうかがえない。

産経新聞2月28日付

という。制裁の効果を念頭に、中国も慎重な行動を取っているようだ。

制裁のデメリット

 日銀・元決済機構局長でフューチャー取締役の山岡浩己氏は、日本経済新聞の取材に対し、

 SWIFTは政治的中立に努めてグローバルな資金決済の利便性を高めてきた。国際世論の一致したものがあれば別だが、制裁に使うのはなじまない。

と答える。

  SWIFTからの排除は、「経済制裁の核兵器」といわれるように、制裁を科す側も”返り血”を浴びかねない。 事実、 今回の制裁に関し、ドイツは抵抗した。しかし、最後は返り血を”覚悟”した結果となる。

 ドイツはロシアからの天然ガスに依存しながら、再生可能エネルギーへのシフトを着々と進めてきた。原子力発電所を年内にすべて停止し、石炭火力の停止も大きく前倒しする予定であった。しかし、そのシナリオが崩壊しかねない。

 ロシアのSWIFTからの排除についてはEU諸国の間でも慎重論があった。ロシアからのガスへ依存度の高いドイツをはじめ、イタリアやプーチン大統領と緊密な関係のあるハンガリーも難色を示していた。

 ところが2月24日、EUの緊急首脳会談でウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで、

 あなた方が私を見るのはこれが最後かもしれない。

とまで訴えたという。あるいは、ウクライナ側からの、

 (ウクライナの)人命よりも(EUの)経済的幸福を選んだ。

元駐EUウクライナ大使・毎日新聞2月28日付

などと反発の声が上がる。

 ただ、ロシア産のエネルギーや穀物に依存する国々にとっては、ロシアからの輸入が難しくなる。ロシアの国内総生産(GDP)は世界で11位、さらに天然ガスや小麦、あるいは半導体の製造に使われるパラジウムなどの主要な輸出国。

 これらの供給量が世界的に減少すれば、エネルギー価格などがさらに上昇し、世界的なインフレにも拍車をかける。

日本へ与える影響

 一連のロシアへの制裁に関し、日本政府はまず、米国と欧州の動向を見極めてから判断するという、”受け身”の姿勢を取った。北方領土問題を抱え、制裁の議論は主導しなかった。

 また、SWIFTはベルギーに本部を置き、EUや世界的な基軸通貨であるドルを持つ米国が影響力を持ち、そもそも日本は関与しにくい。欧州は反対する国が多いとの見方もあったようだ。

 ただ、ウクライナの地において、力による現状変更を許せば、台湾や沖縄の尖閣諸島の問題にも波及しかねない。そのため、日本が制裁の強化に加わっていないように世界に映ることは避けたかった。

 ロシア本国と取引がある日本企業は、SWIFTからのロシアの主要金融機関の排除について、その影響を注視している。ロシアからの輸入の中心はエネルギーであり、国別(2020年度)では石炭が2位(14.7%)、液化天然ガス(LNG)は4位(8.4%)の大きな相手国。

 LNGを輸入する電力大手の関係者は、毎日新聞に対し、

 制裁の具体的な内容については情報収集中だが、ロシアの報復措置も含めて供給に支障が生じる懸念はある。

毎日新聞2月28日付朝刊

とする。

 自動車関連への影響も懸念される。ロシアへの輸出では自動車や自動車部品が輸出額の半分を占める。資金の決済ができなくなれば、日系企業のロシア工場での自動車の生産に影響が及ぶ可能性も。

 金融機関も、その動向を注視する。3大メガバンクは、ロシアに現地法人を持っている。グループ間の送金については問題がないとされ、日本企業が3行を経由してロシアに送金することは問題がないとみられる。

 だが、メガバンク関係者は、

 日系企業の取引先のロシア企業は現地の金融機関を使っている。そうした企業との決済はスムーズにできなくなるだろう。

とした。

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