フランス大統領選挙の特徴としては、本選挙の結果で1位だった候補者がそのまま大統領となるわけではなく、1位となった候補者が有効投票総数の過半数に達していない場合には、本選挙においての1位の候補者と2位の候補者による決選投票が行われるという点。
国会議員における選挙についても、上位2名の決選投票ではなく、1回目の投票で登録有権者の12.5%以上を獲得した候補者が2回目に進むことになっており、決選投票に進む候補者は2名とは限らない。
今回の大統領選挙において、フランスの調査会社イプソスによると、4月24日に発表した有権者の属性別の支持率調査(21日~23日に実施)によると、所得が高くなるほどマクロン氏を支持する傾向が高かった。
具体的には、手取りの月収が3000ユーロ(約41万円)以上の世帯では、マクロン氏支持者が65%、ルペン氏が35%である。 しかし低所得者層は反感を強め、ルペン氏を支持する傾向が強い。
今後、もし憲法が改正され任期が7年に延長されれば、改正の内容によっては「数え直し」として、マクロン氏が2034年まで大統領を続けることが理論上は可能となる。 ただ憲法の改正は議会の賛成が必要であり、野党の共和党が第1党を占める上院が「許さない」との見方が根強い。
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大統領選挙の仕組み
それでは、フランスの大統領選挙の仕組みについて述べていく。5年に1度行われる大統領選挙に立候補するためには、次のような要件が必要になってくる。
- フランス国籍を持っていること
- 被選挙権に関して、市民権がはく奪されていないこと
- 選挙人名簿に登録されていること
- 国会議員や地方議員500名以上の署名を集めていること
- 資産状況の申告書を作成していること
- 選挙活動のための銀行口座を所持していること
フランス大統領選挙の特徴としては、本選挙(第1回投票)の結果で1位だった候補者がそのまま大統領となるわけではなく、1位となった候補者が有効投票総数の過半数に達していない場合には、本選挙においての1位の候補者と2位の候補者による決選投票が行われるという点だ。
ただ、現在の仕組みで行われるようになった1965年の大統領選挙以降、本選挙だけで当選者が決まったケースはなく、いずれも決選投票に持ち込まれている。
このような2回投票制は、米国における党が主催する予備選挙を公的な選挙制度に組み込んだようなもの。
2回投票制は、フランスでは大統領選挙だけでなく、国会議員(国民議会)の選挙(小選挙区制)でも行われている。
ただ、国会議員における選挙では、上位2名の決選投票ではなく、1回目の投票で登録有権者の12.5%以上を獲得した候補者が2回目に進むことになっており、決選投票に進む候補者は2名とは限らない。
先進国の中で現在、この2回投票制をしいているにはフランスだけであるが、しかし20世紀の初めごろまでは欧州諸国でよく採用されていた選挙制度だ。
大統領の権限
フランスの政治制度は、米国のような大統領制と英国のような議院内閣制との中間形態にあり、「半大統領制」と呼ばれている。
それは、国家元首も兼ねる大統領が首相と閣僚の任命権、議会の解散権などの政治的権限を持つ一方、大統領に任命される首相は、大統領だけでなく議会に対しても責任を負わなければならないとするものだ。
首相の任命に際しては、議会による指名があるわけではく大統領が任命できるものの、しかし議会で多数派を占める勢力が大統領と対立する場合には、大統領は議会の多数派から首相を選ばざるを得ない。
大統領というとまず思い浮かべるのは、米国だろう。米国の大統領は国家元首であるとともに行政府の長でもあるが、しかし議会の解散権は持たない。
議会も、大統領に対する不信任決議についての権利を持たず、大統領と議会は互いに独立し、均衡した関係。これを、「大統領制」という。
他方、英国のような議院内閣制では、国家元首(共和国の国家では大統領、君主制国家では国王)が議会の多数派の意向に基づき、首相を任命する。
このうち、首相を長とする内閣が、議会にのみ責任を負うことを「一元型議院内閣制」、議会だけでなく国家元首にも責任を負うものを「二元型議院内閣制」という。
「内閣が責任を負う」とは、行政権の執行について連帯責任を負うということであるが、具体的には議会や国家元首により辞めさせられるということを意味する。
フランスでは、国民により直接選出された大統領とは別に、「首相」と「内閣」が存在、内閣は「議会」だけでなく国家元首である「大統領」にも責任を負うため、「二元型議院内閣制」だ。
また、フランスは、国家元首が国民により直接選出される大統であるとともに、なおかつその大統領が強い権限を持っている。これが「半大統領制」と呼ばれる所以であり、米国の大統領とは違った構造をとる。
過去の大統領
それでは、過去の大統領について書いていく。ここでは、第五共和政以降のフランスの大統領を挙げる。
第五共和政とは、1958年にシャルル・ド・ゴール将軍がアルジェリア戦争において第四共和政を事実上打倒し、現在までつづく新たにつくられた共和政の政治体制のこと。第四共和政に比べ、国民議会である立法権の権限が大きく低下し、逆に大統領の執行権が強化され、いわば行政と官僚機構が強大なのが特徴的だ。
第五共和政以降のフランスの大統領は以下の通りだ。
- シャルル・ド・ゴール(1959年~1969年)
- ジョルジュ・ポンピドゥー(1969年~1974)
- ヴァレリー・ジスカールデスタン(1974年~1981年)
- フランソワ・ミッテラン(1981年~1995年)
- ジャック・シラク(1995年~2002年)
- ニコラ・サルコジ(2007年~2012年)
- フランソワ・オランド(2012年~2017年)
- エマニュエル・マクロン(2017年~)
このうち、とくに現代フランス政治に大きな影響を与えたのは、シャルル・ド・ゴールだろう。
ド・ゴールは、第二次世界大戦下、ナチスの侵攻によりフランス本国が陥落したあと、英国・ロンドンにおいて亡命政府を設立、レジスタンスと共闘した。臨時政府で最初の首相となり、1959年1月に第五共和政において最初の大統領となった。
任期中は、アルジェリアの独立の承認、そしてフランスの核武装、NATOからの脱退をした。
フランス国内では、彼の栄光を称え、パリの郊外にある国際空港シャルル・ド・ゴール空港や、海軍の原子力空母、シャルル・ド・ゴール広場、セーヌ川にかかるシャルル・ド・ゴール橋など、ド・ゴールの名前がついたものがいくつもある。
フランス国内だけでなく、カンボジアのプノンペンにあるシャルル・ド・ゴール通りなどフランス語圏にも多数存在する。
分断
今回の大統領選では、フランス社会においても”分断”が進んでいることが露わとなった。
フランスの調査会社イプソスによると、4月24日に発表した有権者の属性別の支持率調査(21日~23日に実施)によると、所得が高くなるほどマクロン氏を支持する傾向が高かった。
具体的には、手取りの月収が3000ユーロ(約41万円)以上の世帯では、マクロン氏支持者が65%、ルペン氏が35%である。他方、1250ユーロ(約17万円)未満の世帯でマクロンを支持した人が44%、ルペン氏は56%。
あるいは、別のエラブという調査会社も職務別の支持率では、管理職などのマクロン支持率は7割を超えた一方、工場労働者では3割にとどまった。
マクロン大統領は、労働法改革など”痛み”を伴う改革を次々と実施、失業率の改善などの実績は残す。しかし低所得者層は反感を強め、ルペン氏を支持する傾向が強い。
今回の大統領選でも、マクロン氏が定年を62歳から65歳に延ばすことを公約に掲げるも、これは多くの労働者の不評を買った。他方、ルペン氏は付加価値税の引き上げを提案、支持を集めることにつなげた。
いずれにしろ、政治に対して多くの人が”無力感”を抱いていることは事実。内務省によると、決選投票の投票率は72%。この数字は、左派の候補者が決選投票に勝ちあがれず、結果、多くの人が棄権した1969年の68.9%につぐ低さ。ちなみに1990年~2000年代は投票率が、80%前後であった。
「自由、平等、博愛」を掲げるフランスであるのにも関わらず、フランス社会は2つの”格差”を長年にわたって放置してきたという。
1つ目は教育格差。フランスでは、エリート養成校グランゼコールの出身者がまさに国内を仕切る。フランスでは、エリート・非エリートであることは、そのまま勝ち組・負け組という構造につながる。
2つ目は地域格差。中央集権的な国家体制のもと、疲弊した地方に住む人々が、「パリに見捨てられた」と思う傾向が強い。
ただ、この2つの格差はフランスだけでなく、欧州全体を包む問題。結果、大衆迎合主義(ポピュリズム)がまん延することとなった。
今後の動向
今後のフランス政治の焦点は、6月に行われる国民議会(下院)総選挙に移る。それに向け、各陣営が動いている。
マクロン大統領を支える与党である「共和国前進(REM)のゲリニ代表は今月5日の記者会見において、党の再構築を始めると語った。
まず党の名称を「再生」に変更するとともに、別党派の議員らの合流を目指すという。ゲリニ氏は、総選挙に向け、与党連合を組んできたREMと他の中道政党や「民主運動」、右派出身であるフィリップ前首相が結成した新党である「地平線」も加え、新たな連合である「結集」をつくり、共闘すると発表した。
フランスメディアによると現在、577選挙区のうちREMが約400、民主運動が100超、地平線が60において候補を擁立することで合意したという。
一方、大統領選第1回投票にて3位と健闘した急進左派である「不屈のフランス」の創設者であるメランション候補が、社会党や共産党など4党にまたがる選挙連合を結成した。2期目に入るマクロン大統領陣営が過半数の確保を目指すなか、強力な対抗馬となりそうだ。
フランス大統領の任期は当初は7年であったが、「長すぎる」として、2000年に実施された国民投票で5年に短縮された経緯がある。
ただ、マクロン大統領、あるいはルペン氏ともに任期を7年間に再延長することに興味を示しているという。マクロン氏はフランスメディアに「5年は短すぎる」と語っているほか、ルペン氏も再選なしの7年の任期を主張する。
現在、フランスの大統領の再選は1度しか認められていない。今回マクロン大統領は再選を決めたものの、次回の2027年の大統領選では出馬できない。
今後、もし憲法が改正され任期が7年に延長されれば、改正の内容によっては「数え直し」として、マクロン氏が2034年まで大統領を続けることが理論上は可能となる。
ただ憲法の改正は議会の賛成が必要であり、野党の共和党が第1党を占める上院が「許さない」との見方が根強い。
~おわり~
参考文献
『マクロン氏勝利、支持層に偏り 次のハードルは下院選』日本経済新聞デジタル、2022年4月25日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR234SG0T20C22A4000000/?unlock=1。
赤川省吾『欧州を揺らす「自由の国」の分断 マクロン仏大統領再選』日本経済新聞デジタル、2022年4月25日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR253NJ0V20C22A4000000/。
『仏大統領与党「再生」に名称変更 下院選へ新連合で共闘』中日新聞デジタル、2022年5月6日、https://www.chunichi.co.jp/article/465330。
『下院選へ左派連合結成=過半数目指す与党に対抗』時事エクイティ、2022年5月11日、https://equity.jiji.com/oversea_economies/2022051100705。