レアメタル「コバルト」をめぐる争い アフリカ・コンゴで 世界最先端の技術を世界最貧国が支えるという現実 

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 「コバルト」というレアメタルの需要が急速に伸びている。スマートフォンやEVと呼ばれる電気自動車の普及に伴い、それらに搭載されるリチウムイオンバッテリーの原材料の一つであるため。

 コバルトは、たとえばスマートフォン1台に約8グラムが含まれている1。しかし、世界生産の約7割をアフリカのコンゴ民主共和国に頼らざるを得ない状況が続く。

 コンゴ南東部コルウェジ郊外にあるシャバラという鉱山には、幅数100メートル、深さ85メートルの巨大なすり鉢状の穴に、数千人の作業員たちがひしめき合う2

 「脱炭素社会」を目指す世界的な動きもあり、自動車分野でもEVの販売台数は好調。 国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年のEVの世界の販売台数は、前年の2倍を超える660万台を突破。

 2030年には世界で4500万台を超えるとの試算もある。コバルトの需要も高まり、世界銀行グループは、エネルギー分野へのコバルトの需要は2050年には、2018年と比べ、4.6倍まで増加するとも。

 しかし、OECD(経済開発協力機構)の報告書によると、コバルトの採掘の2〜3割は、コンゴ国民の個人や小さなグループによる“手掘り“が占めるという。

コンゴとは 長年にわたる紛争で国土は荒廃 感染症も蔓延

 コンゴ(コンゴ民主共和国)は、アフリカ大陸の中央に位置し、周囲をウガンダ、タンザニアで、ザンビアなど9カ国と国境を接する。西部は大西洋に面する。1997年より前は「ザイール」という国名。

 首都はキンシャサ。かつてはベルギーの植民地であった。公用語はフランス語。人口は8407万人(2018年、世界銀行データ)。

 コバルトだけでなく、金やダイヤモンドなど豊富な地下資源を有してはいるものの、長年に渡り内戦が続き、あるいは近隣国との紛争もあり国土は荒廃、経済危機にも直面。

 コンゴの国民は命の危機にも直面している3。約3分の2の世帯は飲用に適した水を入手することが困難な状況。トイレや手洗いといった衛生面における整備も遅れ、自宅に手洗い場がある世帯はわずか17%(2018年時点)。

 農業用水も確保できず、雨に頼らざるを得ない。そのため、十分な食事もできない人が全体の32%も存在する(2019年時点)。

 コバルトをはじめ、事業用の鉱山では一部の会社で違法な児童労働がなされていることも分かっている。そのことにより児童の就学の機会が奪われ、初等教育の就学率は75%、中等教育は32%止まりだ。

 経済の状態は、アフリカの中でもとくに厳しい。長年にわたる紛争に加え、コレラやエボラ出血熱などの感染症も蔓延している。

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コバルトとは 「コバルトブルー」という言葉も

 コバルトは古代エジプトや中国の時代から、ガラスや陶磁器を青くするのに用いられてきた。ほかにもさまざまな色を出すことができ、たとえばよく「コバルトブルー」といわれるような、鮮やかな青色や黄色、緑色などを出すことができる4

 しかし、金属への精製が困難であったために、いたずら好きで人間を困らせたと伝えられるギリシャ神話の山神であるコボロス(kobolos)にちなんでコバルトと呼ばれるようになった。

 1735年にスウェーデンのブラント(Georg Brandt)が初めて鉱山から元素として単体で取り出すことに成功、以降、その元素そのものがコバルトといわれるようになる。

 コバルトの鉱石は銅鉱床やニッケル鉱床などから採掘されるものの、世界の可採埋蔵量700万トンのうち,コンゴが40%を占め、以下、オーストラリア20%、キューバ14% 以下、ザンビア,ロシア,ニューカレドニアなど。しかし、いずれも政情が不安定な国が多い。

 リチウムイオン電池の電極部分にコバルト酸リチウムとして使用5。しかし、コバルトの埋蔵量が多いコンゴでは児童を使った採掘も行われており、社会問題化。最近では、コバルトを使用しない電池の開発もなされている。

コバルト生産をめぐる”闇”

 脱炭素の動きは地球には優しいかもしれないが、それ以前の問題といて人間にとって深い影を落とす。

 電気自動車の心臓部であるリチウムイオン電池の生産に必要な鉱物であるコバルトをめぐる人権侵害がそれだ。

 コンゴはコバルトの世界全体の生産の60%~70%を占め、さらに児童労働が蔓延。労働環境も劣悪で、搾取や暴行、死亡事故も頻発している。2017年には国連のILO(国際労働機関)でも議論された6

 2019年12月には、大企業に対する訴訟を支援するアメリカの民間団体「インターナショナル・ライツ・・アドボケート」(IRA)が、コバルトの開発にかかわる多くの企業を訴えたれた7

 訴訟相手となったのは、アップル、グーグル、マイクロソフト、デル、テスラなどの欧米企業だけでなく、浙江華友コバルトなど中国企業も含まれていた。

 IRAはコンゴ国民の14世帯の家族の代理人として、コンゴで開発にかかわる海外企業が、

「子どもを違法に就労させただけでなく、安全確保を怠り、事故で死亡させた」

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として提訴している。訴状によると、企業は法令に違反して子どもを雇用し、食事も十分に提供せず、賃金は1日2~3ドルしか支払われなかったという。

  1. 遠藤雄司「最深85mの大穴を埋め尽くす男たち コバルト採掘現場を訪ねてみた」朝日新聞デジタル、2022年8月16日、https://digital.asahi.com/articles/ASQ853GT8Q7FUHBI001.html
  2. 遠藤雄司、2022年8月16日
  3. https://www.worldvision.jp/news/works/africa/202008_drcongo.html
  4. コトバンク「コバルト」https://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88-65813
  5. スクラップ価格.com「コバルトの特徴と用途とは?」https://www.super-recycle.com/knowledge/190226/
  6. https://www.ilo.org/dyn/normlex/en/f?p=NORMLEXPUB:13100:0::NO::P13100_COMMENT_ID:3331022
  7. 六辻彰二「EVは地球に優しくても人間に優しくない一面をもつ――コバルト生産の闇」Yahoo!ニュース、2021年11月23日、https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20211123-00269272
  8. 六辻彰二、2021年11月23日