正規軍と準軍事組織である「即応支援部隊(RSF)」との間で戦闘が続く、アフリカ北東部の国スーダンに在留する邦人とその家族45人が、自衛隊輸機で国外退避したと、24日深夜、岸田文雄首相が明らかにした。
スーダン国内では、戦闘によりこの1週間で300人もの死者は出たという1。そのため日本政府は、邦人の退避のために、航空自衛隊の輸送機を、経由地のジブチに送っていた。
関係者らによると、スーダンの首都ハルツームから北東部のポートスーダンに向けて移動した国連職員らを乗せた退避車列に、一部の日本人も加わっていたという2(2)。
またフランスの外務、国防両省は24日、自国民ら計388人をジブチへ退避させたときに、なかに日本人が含まれていたと発表。
邦人が退避したジブチは、2011年7月に自衛隊初の海外拠点が置かれた場所3。現在も約400人の隊員が、現地で活動を行っているという。
スーダンとは
スーダンは、北東アフリカに位置する共和制国家。首都は、ハルツーム。エジプト、リビア、チャド、中央アフリカ共和国、南スーダン、エリトリアと国境を接する。
南部には油田地帯が点在し、そこで産出された石油はハルツームを経由し、紅海に面した北東部の港であるブールスーダンまでパイプラインで運ばれている4。
スーダンは、広大な国土を持ち、面積はアフリカ大陸の中で3番目に大きい。
1899年からイギリスとエジプトの統治を受け、1956年に独立。イスラームが国教でイスラム法による国づくりが進められていた。ムスリムは人口の7割を占め、そのほとんどが北部に居住。
一方、南部にはキリスト教が広がり、スーダンは独立時、南北対立による内戦が、40年近く続く。結果、2011年に南部は、「南スーダン共和国」として独立。
油田の多い地域であっため、残ったスーダンの油田は減少することになる。
また、2000年代には、西部のダルフール地方で、アラブ系民族とアフリカ系諸民族の対立が内戦に発展。死者約30万人、難民・避難民約200万人という「世界最大級の人道危機」と呼ばれる最悪な事態まで生じた。
戦闘激化 「第2の軍隊」
スーダンで軍と戦闘を繰り広げている準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」は、イランの革命防衛隊と同じように、軍がクーデターを起こしても、それを迎え入れることができるよう想定された、「第2の軍隊」5。
そのため、軍と互角に戦える装備や訓練が施されている。RSFは、2019年まで30年に及ぶ独裁制政治を敷いてきたバシル政権が、構築した
「カウンター・クーデターのための暴力装置」
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であった。しかし最後は、軍と手を組み、権力を掌握。強力をきっかけに、RSFは軍からの大量の「出向者」を受け入れ、スーダン全土に勢力を広げていく。
スーダンでは、2021年の10月、軍のトップの将軍がクーデターを起こす。今回の衝突は、クーデター後に主権評議会(暫定政権)の議長となった将軍に従う陸軍部隊と、副議長の司令官に従うRSFの対立によるもの。
民政移管のプロセスをめぐる協議では、RSFを国軍へ統合する時期について両者が折り合わず、緊張が高まっていた7。
米英は特殊部隊を派遣
激しい戦闘がいまなお続くスーダンでは、各国が自国民の退避を進めているものの、アメリカは大使館職員らを救出するため、精鋭として知られる米海軍特殊部隊を投入した。
イギリスも特殊部隊を派遣し、首都近郊の飛行場まで輸送したあと、輸送機で国外へ。ドイツやサウジアラビアなども、軍用機や船舶を使い退避させる8。
スーダンには、二重国籍者を中心に、米国人が推定1万6000人いるという9。また、スーダンの治安状況は極めて劣悪だ。
このうち、米メディアによると、ジプチ時間22日午後4時ごろ、大型輸送ヘリMH47チヌーク3機が、基地を飛び立つ。
3機には、2011年に国際テロ組織アルカイダ指導者のウサマ・ビンラディン氏を殺害したことで知られる米海軍特殊部隊SEALS(シールズ)の40人が乗り込んだ。
戦闘をめぐっては、諸外国の責任を問う声も上がっている。
スーダン国内やアメリカ政府関係者には、スーダン軍トップとRSFのトップを宥めながら権力を放棄させようとした諸外国、アメリカとイギリスだけでなく国連やアフリカ・アラブ諸国にも今回の惨事に対する責任があるとみる10。
- 六辻昭二スーダンで内乱激化、邦人も退避へ――なぜ?拝啓、経緯、展望…基礎知識5千)Yahoo!ニュース、2023年4月22日、https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20230422-00346576
- 西日本新聞「スーダン 邦人ら45人退避」2023年4月25日付朝刊、1項
- 今西憲之「「ジブチ」は四国と同じ大きさ ここに自衛隊初の海外拠点ができた理由 海賊対策のその後は〈dot.〉」AERA dot、.Yahoo!ニュース、2023年4月24日、https://news.yahoo.co.jp/articles/cff7ae980294a683d9421b568c31d24d79a8290b?page=1
- 井田仁康「「スーダンってどんな国」2分で学ぶ国際社会」DIAMOND online、2022年6月26日、https://diamond.jp/articles/-/304337
- 時事「独裁者が構築「第2の軍」」西日本新聞、2023年4月22日付朝刊、5項
- 時事、2023年4月22日
- ザイナブ・モハメド・サリ、エマニュエル・イグンザ、BBCニュース「スーダンで国軍と準軍事組織が衝突、死傷者多数 国連機関の職員3人も」BBC NEWS JAPAN、2023年4月16日、https://www.bbc.com/japanese/65290322
- ワシントン=共同「米英は特殊部隊投入」西日本新聞、2023年4月25日付朝刊、3項
- 共同、2023年4月25日
- Declan Walsh「戦闘が一気に勃発「スーダン」なぜこうなったのか」The New York Times、東洋経済ONLINE、2023年4月21日、https://toyokeizai.net/articles/-/667785