ウクライナ、原発取水のダム決壊 国連安保理、非難の応酬 一体、誰が? 農業被害、深刻化懸念

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Engin AkyurtによるPixabayからの画像

 6日未明、ロシアが占拠するウクライナ南部ヘルソン州にあるカホフカ水力発電所で爆発があり、ダムが決壊した。

 それにより、ドニプロ川の水量が急増、下流水域では洪水は起きている。同日、ウクライナ軍は、ロシア軍による爆破だと主張。

  ダムの貯水地はザポリージャ原子力発電所にも水を供給しており、原発への影響も懸念されている状況だ。ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSで、

 「ロシアのテロリストがダムを破壊した」

1 

 とロシアを非難、

 「ウクライナの勝利以外、国土の安全は回復できない」

2 

 とした。ウクライナは6日午前、国家安全保障国防会議を開催し、対応を協議。

  一方、タス通信によると、ロシアの大統領報道官は6日、

 「ウクライナによる破壊工作だ」

2 

 とウクライナ側を批判する。

  ウクライナ政府などによると、ダムの決壊により、近隣の州都ヘルソンを含む約80の自治体で洪水の被害の可能性があるという。なお、一部地域はすでに浸水しており、住民に避難命令が出された。

  ダムの貯水地はザポリージャ原発の原子炉に冷却水を供給しているが、IAEA(国際原子力機関)によると、貯水池の水位は毎時5センチ減少しているとのこと。

 IAEAのグロッシ事務局長は6日、別の冷却池など代替水源があることを明らかにし、

 「現時点で安全上の差し迫った危険は生じていない」

2 

とする。IAEAは原発に職員を常駐させており、代替水源の確認を進めている。

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国連安保理、非難の応酬

 ダム決壊を受け、国連の安全保障理事会は6日、緊急会合をひらいた。各国からはロシアへの批判が相次ぐ。他方、ウクライナとロシアはそれぞれ両者を非難する。会合は、ロシアとウクライナ両国の求めによるもの2

  会合に先立ち、国連のグテレス事務局長は、

 「(ダムの決壊は)ロシアによるウクライナ侵攻が生んだ壊滅的な結果である」

2

 との声明を出す。一方で、ダムが決壊した経緯については、国連は何も情報を得られていないとした。

  会合に出席したウクライナのキスリツァ国連大使は、

 「ロシアの占領軍による攻撃だ。外部からの爆破させることは物理的に不可能である」

2

 とし、国際機関に対し、人道支援団の派遣や被害を受けた地域住民を支援するよう求めるとした。

  他方、ロシアのネベンジャ大使は、

 「事務総長にはウクライナ側によるテロ行為を客観的に評価し、非難するよう求める」

2 

 と主張。

  アメリカのウッド次席大使は、

 「民間施設に対する意図的な攻撃は戦争法違反にあたる。ロシアはウクライナから軍隊を撤退させなければならない」

2

 とロシアを厳しく非難。フランスのドリビーエル国連大使は、

 「ロシアのウクライナで犯した罪の責任を負うべきだ」

2 

 とする。

  米CNNによると、ヘルソン州のウクライナ側の当局者の話として、ドニエプル側西岸にいる約1万6000人が、「危険地帯」にいると報道。 同じ地域では、1300人を超える家屋が水没しているようだと伝えた。

一体、誰が?

  ウクライナとロシアは互いの破壊工作であると、主張。米欧もロシアの関与を疑うものの、真相は明らかになりそうにない。

  州都ヘルソンは、昨年11月、ウクライナ軍が奪還。しかしダムがあるカホフスカ水力発電所は、対岸上流のロシアの支配地域だ。

  米紙ニューヨーク・タイムズによると、ウクライナ国営水力発電会社の幹部は、「原爆にも耐えられる」ほどの頑強な構造であると指摘。ゼレンスキー大統領も、

 「外部からの砲撃で破壊することは不可能だ」

3 

 とし、ロシアが内部から爆破したと非難した。

 決壊前、ダムは大雨で水位が上昇していたといい、ある政府高官は洪水を引き起こすタイミングを見図っていたとする4。しかしながら、明確な根拠は示していない。

  アメリカのウッド国連次席大使は、6日の安全保障理事会会合前、記者団に対し、

 「論理的に考えれば、なぜウクライナ政府が自国民と領土にこんなことをする必要があるんだ」

4 

 と述べ、ロシア側の関与をあからさまに語る。

 一方、ロシアの当局者は「ウクライナの攻撃」と断言。ダムの下流域では、ロシアの支配地域であるドニエプル側の南側に低湿地が拡がり、決壊すれば北側のウクライナよりも甚大な被害で出ると予想されていた4

  ロシアが”わざわざ”自らの支配地域に大災害を引き起こす動機は見当たらず、ロシア側はウクライナ軍による”反転攻勢”の一環であるとみている。

 また、ダムはロシアが併合したクリミア半島の水源であり、クリミアでは今後、水不足のおそれもある。

 農業被害、深刻化懸念

 ダム決壊の被害は、農業分野への打撃を与えている。決壊を受け、小麦などの穀物相場は反発。世界の指標となるシカゴ商品取引所の小麦の先物価格は6日、一時、前日比で4%ほど上昇し、約3週間ぶりの高値をつけた5

  ウクライナは小麦やトウモロコシの主要な輸出国の一つであるが、政府機関によると、今回のダム決壊による洪水により、ヘルソン州だけで日本の耕地面積の10分の1にあたる広大な土地が利用不能に陥ったという4

  また灌漑のシステムへの被害総額は100億ドル(約1兆4000億円)にものぼるとの試算も。

  そもそも、小麦の国際価格は最近では下落傾向にあった。5月末には2年半ぶりの安値をつけている。

 世界最大の小麦輸出国であるロシアヘの豊作期待の強まり、ウクライナ産穀物の黒海経由の輸出を可能にする関係者合意の延長などが要因。

  しかしながら、今回のダム破壊の決壊を契機に、供給の懸念が一気に広がる。調査会社ソブエコンのアンドレイ・シゾフ氏は、日本経済新聞の取材に対し、

 「ダムの爆発は悲惨な結果と大きなリスクをもたらしそうだ。相場上昇は始まったばかりかもしれない」

4 

 と先行きを懸念する。

  ダム決壊により放出された水は約18万立法キロメートルとされ4、泥や汚染物質の除去、灌漑システムの普及には数年かかるとみられる。

  灌漑システムへの被害は、ザポロジエ州にも広がっており、ウクライナ南部の農業生産の回復には10年以上の月日がかかるとの見方も4

  1. 読売新聞「露占拠ダムで爆発、決壊」2023年6月7日付朝刊、1項 
  2. 読売新聞、2023年6月7日 
  3. キーウ、ニューヨーク=共同「反転戦略練り直し必至」西日本新聞、2023年6月8日付朝刊、5項 
  4. 共同、2023年6月8日 
  5. 田中孝幸「ダム決壊 農業打撃」日本経済新聞、2023年6月8日付朝刊3項 
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