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鳥インフルエンザの状況が深刻さを増し、卵の供給にまで影響を与えるようになった。
5月8日時点で、北海道、青森、宮城、福島、群馬、栃木、茨城、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、福井の15都道府県で、感染の発生が確認。
養鶏場などで鳥インフルエンザが発生した場合、自治体と養鶏農家はさらなる感染拡大を防ぐために、速やかにニワトリを”処分”しなければならない。
処分の方法には、埋却(土の中に埋める)か焼却処分の2通りがあるが、焼却処分の場合、施設を借りるなど調整に時間がかかることなどが理由に、多くの自治体は、埋めることを優先している。
しかしながら、あまりの殺処分されるニワトリの多さで、埋める土地が全国各地で不足するようになった1。
「地下の水位が高く、水がしみ出す恐れがあった」
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「大きな石などがあり重機を入れられなかった」
「近くに食品関連の工場や民家があり、悪臭の被害が出る恐れがあった」
このような理由で、別の土地を確保したり、焼却処分に変更せざるを得ないケースが。処分されたニワトリは4月時点でも1700万羽を超える。これは卵を採るための国内のニワトリのおよそ9%にあたる。
なぜ感染が拡大しているのか?
なぜここまで鳥インフルエンザの感染が拡大しているのか。専門家は、変異ウイルスの出現で渡り鳥の感染が増え、日本各地に感染を広げている可能性を指摘している3。
現在、高病原性鳥インフルエンザウイルス「H5亜型」が世界的に拡大、WHO(世界保健機関)は警戒を強めている。
高病原性インフルエンザは、主に鳥類が感染するA型インフルエンザウイルスのこと。鶏には、とくに高い病原性があり、感染するとその致死率は75%にのぼる4。
今回の感染拡大は、2020年に確認されたH5亜型の変異株「グレート2・3・4・4b」の影響が指摘される4。
渡り鳥の病原性が低い特徴があり、感染しても死なない個体が増えたとみられる。渡り鳥同士で広がりやすくなった一方、ほかの野鳥や鶏には依然、病原性が高い。
日本の場合、営巣地のシベリアなどから、越冬のため秋から春にかけて飛来した渡り鳥が感染源になっている4。
また、日本のような高密度に鶏を飼育する養鶏場も感染リスクが高い5。
海外の状況
深刻な状況は海外でも同じ。ヨーロッパで流行してきた強毒性のH5N1型は2021年秋に大西洋を越えたとみられ、アメリカでは2022年以降の家禽(かきん)の殺処分が約5800万羽と過去最悪に6。
欧州食品安全機関(EFSA)は、
「6月から9月に前例にない数のウイルスが検出された」
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「(北極圏にある)スバールバル諸島からポルトガルまで前例にない地理的な範囲からの報告があった」
と、「前例にない=unprecedented」と繰り返しながら鳥インフルエンザの感染拡大に警告を発する。
感染拡大は南米にも及び、初めての検出が相次いで報告されている。
国際獣疫事務局(OIE)の報告書によると、2022年10月にコロンビアで初めて野鳥から高病原性ウイルスが検出された。南米全体での報告も2002年のチリ以来、20年ぶりという。
11月にはペルーとベネズエラでも初めての感染を確認。
5月22日には、鶏肉輸出量が世界最大であるブラジルで野鳥での高病原性鳥インフルエンザ「H5N1型」の感染を確認したとして、全土に180日間の動物衛生緊急事態を宣言される。
農水省によると、ブラジルでの感染確認は初めてのこと。
鳥インフルエンザはヒトへの感染もあり得る
鳥インフルエンザについては、ヒトへの感染も確認されている。
2月22日、カンボジアで11歳の少女が鳥インフルエンザに感染。39度以上の高熱、せき、のどの痛みがあり、最終的に亡くなってしまった。この少女の父親も感染が確認されているが、父親に関しては、無症状だったということ。
このことについて、国際医療福祉大学の松本哲哉主任教授はTBSの取材に対し、
「通常は、鳥にしか感染しないH5N1型がほ乳類にも感染できる形に変異した可能性がある」
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とする。
鳥インフルエンザのヒトへの感染は1997年の香港。18人が発症し、6人が死亡した。その後もヒトへの感染はたびたび報告され、重症化しやすいことが知られている9。
潜伏期間はおおよそ2〜8日。
初期の症状は季節性インフルエンザによく似ていて、38℃以上の発熱、せきや喉の痛み、筋肉痛、頭痛、鼻水など。肺炎を合併して急速に悪化し、発症から平均9〜10日目に呼吸不全により死亡することが多い。
ヒトにおける致死率は53%ともいわれる10。
- NHK松山放送局「鳥インフルエンザ過去最多で“土地が足りない”」2023年4月6日、https://www.nhk.or.jp/matsuyama/lreport/article/000/20/
- NHK松山放送局、2023年4月6日
- 鬼頭朋子「渡り鳥が変異ウイルス拡散…鳥インフル 世界で被害」読売新聞オンライン、2023年4月5日、https://www.yomiuri.co.jp/commentary/20230404-OYT8T50198/
- 鬼頭朋子、2023年4月5日
- グリーンピース・ジャパン「もう1つの感染症「鳥インフルエンザ」− 拡大の原因と人間への影響は?アニマルウェルフェアとは?」2021年3月27日
- 下田敏「鳥インフルはブラックスワンか 欧米で異例の感染拡大 」日本経済新聞、2023年1月24日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD165MR0W3A110C2000000/
- 下田敏、2023年1月24日
- TBS NEWS DIG「“鳥インフル”「H5N1型」が猛威 ヒトからヒトへの感染リスクは?【解説】」2023年2月27日、https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/350590?display=1
- 日本感染症学会、https://www.kansensho.or.jp/ref/d46.html
- 久住 英二「ヒト致死率53%「鳥インフル」から身を守れるのか」東洋経済ONLINE、2023年3月15日、https://toyokeizai.net/articles/-/658683