台湾総統選、対中強硬派の頼清徳氏が勝利 対中緊張? ねじれ議会 高い投票率も話題に

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TumisuによるPixabayからの画像

 台湾の総統選が13日、投開票され、中国との統一を明確に拒否する与党である民主進歩党(民進党)候補の頼清徳副総統(64)が初当選。

  対して、対中国融和路線を取る最大野党の国民党の侯友宜・新北市長(66)と野党第2党の台湾民主党柯文哲・前台北市長(64)が敗北を認め、頼氏は勝利宣言をする。

  一方、中国は頼氏を独立派と見なし敵視しており、対中関係の経済・軍事面での緊張が高まる可能性が。

  中国政府は、頼氏が台湾独立を主張していた若い頃の過激な言動から、頼氏が台湾独立派だと非難し続けてきた。

  しかし頼氏は、慎重にバランスを取り続けた蔡総統の統治スタイルを踏襲すると方針を示すことで、台湾とその同盟国・アメリカを安心させ、有権者の支持を取り付けた。

  中央選挙委員会によると、頼氏の最終得票率は40.05%、侯氏が33.49%、柯氏が26.46%。全体の投票率は71.86%だった。

 頼氏の当選により、1996年に総統の直接選挙が実現して以降、同一の政党が初めて3期連続で政権を担うことになる。

 選挙戦は、中国との距離感を対立軸に争われる。有権者は約1950万人1。新総統の就任式は、5月20日に行わる。新しい総統の任期は4年。

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対中緊張?


頼清徳氏は、後ろ盾となるアメリカとの連携を重視する。しかし、これにより台湾への軍事的威嚇を強める中国との緊張が高まる可能性は必至だ。

  中国政府は今後も台湾に対し、偽情報で世論を誘導する「認知戦」や軍事、経済両面の圧力を継続するだろう。しかしながら、習近平政権が台湾に武力侵攻する可能性は高くはない。

 他方、頼氏はアメリカ寄りの姿勢を継続するものの、11月の米大統領選でトランプ前大統領が勝利することになれば、台湾海峡の平和の見通しは立たなくなる。

 頼清徳氏は1959年10月6日、現在の台湾新北市に生まれる。台湾大リハビリテーション学部、成功大医学部を卒業後、アメリカのハーバード大で公衆衛生学の修士号を取得した。

内科医を務めたのち、国民大会(2005年に廃止)代表や立法委員(国会議員)を歴任する。2010年12月~17年9月に台南市長、同月、行政院長(首相)就任。

19年辞任。20年5月20日、副総統就任、23年1月に民進歩党主席に就任した2

 頼氏は、かつて自らを

「台湾独立工作者」

3 

とまで呼んだ。対して、中国側は、頼氏を

「平和の破壊者」
「戦争メーカー」

4 

などと批判、頼氏に投票しないよう呼びかけた。

ねじれ議会 議会運営に不安を残す

 しかし同時に実施された立法委員会(国会議員)選では、与党である民進党の議席が過半数を割り込み、結果、第2党に転落。

 少数与党となったことで、予算・法案の通過の見込みが不安定となり、アメリカとの安全保障の連携に不安を残した。

 ねじれ議会となるのは、00~08年の陳政権以来、16年ぶり。民進党は、内政の課題に適切に対応できていないとの批判を受けたり、党が関係する不正や不祥事も相次いだことから、厳しい戦いを強いられた5

 また、若い世代の間で、2大政党への逃避感も強まり、これが第3政党の台湾民衆党を率いる柯文哲候補の躍進を招いた。

柯氏は世論調査によっては20代で5割の支持を誇る。

 台湾の総統は、立法院に行使する力は限られる6。アメリカ大統領のように議会が可決した法案に拒否権を発動する権限もない。少数与党となったことで、法案や予算案が通らない可能性も。

高い投票率

  
 今回注目されたのは、選挙における高い投票率だ。

  台湾の有権者の選挙への関心は非常に高い。候補者は投票日が近づくと頻繁に集会を開いたり、メディアの報道も盛り上がった。

  台湾では、県・市の議員や首長から立法委員(国会議員)、総統選挙まで、開票日が近づくたびに街のいたる所に関連の広告が現れる。

 それらの広告は、工事現場のフェンスやビルの外壁、バスやタクシーの車体など、さまざまな場所に掲載7

  広告の形態も看板やパネル、旗など多様。ただし、最近では台湾でも環境保護の意識が高まっており、こうした選挙広告が選挙後に大量の廃棄物となることに注目が集まっているとのこと。

  総統選においては、候補者は投票日の半年ほど前から台湾の各地で選挙活動を展開。市場を訪れたり、支持を呼びかけたりするだけでなく、大学のキャンパスで講演が行われている。

  また、大規模な集会は一般的に2〜3時間開催。候補者が最後に登場するまで立法委員や地方議員が順番に応援演説を行い、ステージ上では歌やダンスなどのパフォーマンスが披露される。

  このような選挙戦は、低投票率に苦しむ日本の選挙現場においても、見習うべきだ。

  1. 台北=共同「台湾総統 対中強硬の頼氏」西日本新聞、2024年1月14日付朝刊、1項
  2. 台北=共同、西日本新聞、2024年1月14日付朝刊、1項
  3. 後藤希「対中緊張 出口見えず」西日本新聞、2024年1月14日付朝刊、3項
  4. 後藤希、2024年1月14日
  5. 園田将嗣「台湾・立法委員選、与党・民進党が過半数割れ…16年ぶり「ねじれ」で政治不安定化の可能性」読売新聞オンライン、2024年1月14日、https://www.yomiuri.co.jp/world/20240114-OYT1T50033/
  6. 羽田野主「台湾議会、民進は少数与党」日本経済新聞、2024年1月14日付朝刊、3項
  7. 張成慧「新しい総統が誕生へ!台湾の選挙事情を紹介します【台湾ってこんなトコVol.6】」熊本日日新聞、2024年1月17日、https://kumanichi.com/articles/1294321
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