2023年ノーベル生理学・医学賞 mRNAワクチンの開発 カタリン・カリコ氏、ドリュー・ワイスマン氏 mRNAワクチンとは?

医療
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Myriams-FotosによるPixabayからの画像

 2023年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、mRNAワクチン開発の先駆者、ハンガリー生まれのカタリン・カリコ氏と米ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン氏の二人だった。

 彼らの功績は、新型コロナウイルスとの戦いに革命をもたらす。またカリコ氏とワイスマン氏の研究は、病気と戦う新しい方法の扉を開いた。  両名は、遺伝情報を運ぶmRNAを用いて、体内で直接タンパク質を生産するワクチンの基盤を作り上げた。この技術の中心にあるのは、mRNAが持つ、タンパク質製造の「設計図」という役割。  しかし、mRNAを使った治療法には大きな壁があった。体内に注入されたmRNAが炎症を引き起こすことが問題視される。この課題を解決する鍵を握ったのが、カリコ氏とワイスマン氏による発見だった  彼らは、mRNAの一部を変更することで、炎症を引き起こすリスクを大幅に減らす方法を2005年に発表。  この技術的突破口は、新型コロナウイルスに対する迅速なワクチン開発を可能にする。ワクチンは2020年3月には人への接種に対する臨床試験が始まり、同年12月には実用化。オミクロン変異株にも迅速に対応した。  さらに、この技術は将来、インフルエンザやエイズ、マラリアといった感染症に加え、免疫細胞にがんを攻撃させる標的をつくる「がんワクチン」への応用も期待させる。 Amazon→

mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来
mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来
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カタリン・カリコ氏、ドリュー・ワイスマンとは?


 カタリン・カリコ氏は、しかし順風満帆のキャリアを築いてきたわけではない。

 1955年、ハンガリー東部の都市ソルノクで生まれる。冷戦時代の共産陣営国だったハンガリーは貧しく、水道もテレビもないお幼年期を過ごしてきたという1

 両親の勧めや教師の影響で勉学に励み、その中でもとくに生物学に強い関心をもつ。

 10代半ばのときに研究者になると決心。ハンガリーのセゲド大に進学し、RNAなどの遺伝物質を研究する分子生物学にのめり込む。

  転機は85年のこと。30歳の誕生日を迎えた当日、所属先での研究費を打ち切られ、研究が続けられなくなる。当初は、欧州の他の地域での研究継続を望むものの、どこも受け入れてくれない。

 唯一の受け入れ先となったのが、米テンプル大だった。しかし、当時ハンガリーは国外への通貨持ち出しが厳しく制限される。

  そのため、手持ちの財産は自宅の車を売って得た金を闇市場で両替した900ポンド(当時のレートで20万~30万円程度)のみ。それを娘が持つクマの縫いぐるみの「テディベア」の中に隠した。

 89年にペンシベニア大に移籍し、長年の研究パートナーとなるドリュー・ワイスマン助教授(当時)と出会い、mRNAワクチンの医療に向けた応用を本格的に始める。

mRNAワクチンとは

 mRNAワクチンは、スパイクと呼ばれる糖タンパクを設計する遺伝子情報(mRNA)を投与するワクチン。ウイルスの侵入に使われる部分を模倣していているものの、実際には無害だ。

  体内でこの糖タンパクが生成されると、免疫システムが反応し、ウイルスに対抗するための抗体を生産。その後、ワクチンのmRNAは細胞によって分解される。

  このワクチンは、細胞の遺伝情報を格納している細胞核には侵入せず、人のDNAに影響を与えることはない。

  従来のワクチンは、生ワクチン(弱毒化された病原体)、不活化ワクチン(無害化された病原体)、組み換えたんぱくワクチン(病原体のタンパク質の一部)などの原理で免疫を構築してきた。

  これらは主にウイルスの一部を用いて免疫反応を引き起す。一方で、mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質を直接体内で生成する設計図(mRNA)を提供することにより、免疫応答を誘発する新しいメカニズムを採用。

  mRNA は核の中に入らないため、ヒトの遺伝子に組み込まれることはなく、mRNAやつくられたたんぱく質は細胞に取り込まれてから10日以内には細胞内で自然に分解され、体内に残らない2

mRNAワクチンが見据える未来

 突如としてその効果を見せたmRNAワクチン。しかし、

 「新型コロナウイルスの遺伝子配列を中国が発表してすぐ、一気にmRNAワクチン開発が始まりましたが、その直前にすでに30~40の新薬候補の研究開発パイプラインが走っており、治験として人への投与が始まっていました。そもそも最初にmRNAがワクチンとして有望だったのは、感染症ではなくがんです。特にメラノーマ(皮膚がん)のmRNAワクチンの治験はかなり進んでおり、フェーズ2から3に入ろうとしていました」

3 

と東京医科歯科大学の位髙啓史教授は話す。

  位髙教授は、mRNA創薬黎明期から研究をしてきたこの分野のトップランナーの一人だ。乳がんや前立腺がんでも治験は始まっていた。

  一方、mRNAワクチンに関する誤解や懐疑的な声も根強い。ワクチンに反対する層は、政治やメディアへの不信感があり、体制に反対する考えを持つ傾向があるとう4

  より一層の科学的コミュニケーション能力を向上させる教育とともに、日頃からの主権者教育やメディアリテラシー教育が重要となってくる。

  1. 西日本新聞、2023年10月3日聞「mRNA コロナ禍で真価」2023年10月3日付朝刊、3項
  2. みんなの家庭の医学 WEB版「新型コロナのmRNAワクチンと、従来のウイルスベクターワクチンの違い」https://kateinoigaku.jp/qa/3035
  3. ヘルシスト「mRNA創薬の可能性は無限大」『細胞と医学』第12回、2022年1月10日、https://healthist.net/medicine/2235/
  4. 木許はるみ「「もてあそばれている」 反コロナワクチン “陰謀論”信じる理由」毎日新聞、2021年9月3日、https://mainichi.jp/articles/20210902/k00/00m/040/346000c
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