Viktor IvanchenkoによるPixabayからの画像
「溶血性レンサ球菌(通称:溶連菌)が原因により、手足の急速な壊死や多臓器不全を引き起こす「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の患者が、過去最多だった昨年を上回るペースで増加している。
溶連菌は通常、急性咽頭炎などを引き起こす細菌であるが、まれに重篤な状態である劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)をもたらすことも。
この病気は急速な壊死や多臓器不全を引き起こす可能性があり、ときに「人食いバクテリア」とも呼ばれ、致死率は30~70%と非常に高い。
昨年、STSSの患者数は過去最高を記録。今年もその数は増加傾向にあり、3月24日までの報告では、556人が報告されており、そのペースは昨年一年間の患者数941人の半数を超えた。
新型コロナウイルスの対策が緩和された2022年以降、世界各地で溶連菌による咽頭炎やSTSSの患者数が増加1。
この増加は、他の呼吸器感染症の増加に伴い、溶連菌咽頭炎の患者も増えていることが影響しているかもしれないが、ただし、患者数が増加している具体的な理由はまだ完全には明らかとはなっていない。
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劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は突発的に発症し、急速に多臓器不全に進行するβ溶血を示すレンサ球菌による敗血症性ショック病態のこと。メデイアなどで「人食いバクテリア」といった病名で報道される。
1987年にアメリカで最初に報告され、その後、ヨーロッパやアジアからも報告。日本における最初の典型的な症例は1992年に報告されており、毎年100~200人の患者が確認されている 。
主な病原体はA群溶血性レンサ球菌である。A群溶血性レンサ球菌感染による一般的な疾患は咽頭炎であり、その多くは小児が罹患。
一方、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は子どもから大人まで広範囲の年齢層に発症するが、特に30歳以上の大人に多いのがひとつの特徴とのこと 。
初期症状は、発熱や悪寒といった風邪のような症状のほか、手足(四肢)の痛み(疼痛)や腫れ(腫脹=しゅちょう)、傷の周りが赤くなる、血圧低下などがある。
治療では、抗菌剤や、壊死した部分の切除による感染拡大防止が行われる 。重症化のリスクを下げるには、早めに治療を始めるのが重要。
海外の状況
感染の拡大は海外でも。
2022年12月8日現在、WHO欧州事務局管轄地域の少なくとも5つの加盟国から、侵襲性A群溶血性レンサ球菌(iGAS)感染症、および猩紅熱の患者数の増加をWHOに報告。
また、これらの国の一部では、侵襲性A群溶血性レンサ球菌関連死の増加。10歳未満の小児が最も多く罹患している2。
A群溶血性レンサ球菌(GAS)感染症は、一般的に扁桃炎、咽頭炎、膿痂疹、蜂巣織炎 、猩紅熱などの軽症の疾患の原因となる。
しかし、まれにA群溶血性レンサ球菌感染症が侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症を引き起こし、生命を脅かす状態に。
2022年時点で、フランス、アイルランド、オランダ、スウェーデン、イギリスにおいて、侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症および猩紅熱の患者数が増加しており、とくに10歳未満の小児が罹患3。
なお猩紅熱(しょうこうねつ)とは、A群連鎖球菌という細菌による感染症。発熱やのどの痛みといったかぜに似た症状から、イチゴ状に赤くなった舌、全身の発疹などさまざまな特徴的な症状がある。
しかしながら、WHOは2022年12月での流行している欧州への渡航について、いかなる制限も推奨していおらず、問題なく渡航できる。
注意すべきこと
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は、子どもが罹患しやすいA群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)とは異なる感染症4。
STSSの場合、子どもから大人までさまざまな年齢層に発症し得る。感染は飛沫感染や接触感染、または手足の傷口からも起こるため、傷口を清潔に保つことが予防につながる。
多くの場合、レンサ球菌による感染は無症候で、通常は咽頭炎や皮膚の感染に留まる。しかし、まれにこの菌が血液や筋肉、肺など普通は菌が存在しない部位に侵入することが。
STSSの初期症状には、四肢の痛み、腫れ、発熱、血圧低下がある。しかし感染後は病状が非常に急速に進行し、初めの数十時間で重症化。
急激な進行は、筋肉の壊死、血圧の低下、多臓器不全などを引き起こし、ショック状態に至り、時には死に至ることも。
それを防ぐためには四肢の痛みや腫れ、発熱などの感染の初期兆候が見られた場合は、すぐに医療機関を受診することが重要だ。治療は、抗菌剤の投与や感染した部位の切除を含み、集中管理下で行われる。
いずれにせよ、重症化を防ぐためにも、早期に治療を開始することが重要だ。