米ハワイ・マウイ島でここ100年間で最悪の山火事 なぜ被害が拡大? 世界は気候変動により、「炎の時代」に突入か

北アメリカ
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hhabichtによるPixabayからの画像

 米ハワイのマウイ島で起きた山火事は、これまでに96人の死亡が確認され、アメリカの山火事としては、この100年あまりで最悪の被害となった。

 現地では、観光客など4万人以上が島を離れるなど、本格的な避難の動きが続く。

 山火事は、今月8日に発生。島の西部にあたる観光地であるラハイナは、とくに壊滅的な被害を受けた。地元当局によると、ラハイナでの焼失面積は870ヘクタールを超えたという。

 ハワイ州観光局によると、12日時点でマウイ島を訪れていた観光客などおよそ4万6000人が、カフルイ空港経由で島を離れるなど退避した。

 島の西側に位置するホテルでは、予約の新規受付を一時的に停止しており、火災が完全におさまり、車道の安全が確保されるまでは、従業員と家族を優先させて宿泊させているという。

 州観光局は、マウイ島西側への観光について、

「状況が改善してから予定を立て直してほしい」

1 

 と見合わせるよう、呼びかける。

  島には支援物資が次々に送られており、空港にある航空貨物便の倉庫にはハワイのカウアイ島からも多くの支援物資が届けられた。

  支援物資は、カウアイ島に住む女性が個人的に呼びかけて集めたもので、マウイ島の人たちに配ってほしいと、現地に住む友人でありミュージシャンのカレフア・カヘレさん宛てに送ったという2

 支援物資の中には、ペットボトルの飲料水やお菓子、寝具などが含まれている。

 火災が起こったマウイ島とは、ハワイ諸島で2番目に大きい島。ハワイの州とホノルルがあるオアフ島の南東に位置し、日本からも多くの観光客が訪れる。

  島の北西部のラハイナには19世紀初頭、カメハメハ大王がハワイ王国の首都を置き、以後、ホノルルに首都が移るまで、行政と捕鯨、漁業の中心地として栄えた3

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山火事の原因 送電線?

 マウイ島を襲った山火事の原因はまだ調査中であるが、米紙ワシントン・ポスト紙は先週末、火災が発生する数日前、強風が危険な状況を起こすリスクがあったにも関わらず、ハワイの電力会社ハワイアン・エレクトリック・インダストリーズが十分な安全対策を怠っていた可能性があると報道。

 火災の被害を受けたラハイナの住民は集団訴訟案の中で、強風で送電線が吹き飛ばされ、山火事が急速に広がる可能性があるという国立気象局の警告にもかかわらず、送電を停止しなかったとし、電力会社を非難する4

  一連の事態を受け、ハワイアン・エレクトリックの株価は14日、一時40%急落、2010年2月以来、13年ぶりの安値に沈んだ。

  山火事をめぐっては、司法当局が捜査する方針を固める。また、すでに地元の住民は電力会社を相手取り、集団訴訟を起こした。

 火事が起きた8日前後には、突風にあおられた電柱約30本が倒壊。断線して地面に落ちた送電線のなかには、通電したものもあったという5

  現地ではハリケーンの影響により事前に強風が見込まれていたものの、しかしハワイアン・エレクトリックは危険回避措置となる計画停電に踏み切らなかったようだ。

 訴状で、住民らは、

「送電を止めるべきだったが停止せず、送電線に草木が接触して引火した」

6 

と主張する。しかし現時点で詳しい出火原因は分かっていない。

 山火事が頻繁に起きるカリフォルニア州などでは、火災は起きやすい気象条件となった場合、事前に送電を停止する措置が取られている7

なぜ被害拡大?

 なぜここまで被害は拡大したのか。米CNNは、火災発生時に警報のサイレン80基が作動していなかったと報道。住民に火災が周知されなかったことで被害が拡大したおそれがあり、司法当局が検証する見込みだ。

 サイレンが作動しなかった原因は明らかとなっていない。

 地元当局は、携帯電話やテレビ、ラジオを通じて緊急警報を流したという。AP通信によると、住民らは、「サイレンが聞こえず、近くで炎を見て初めて身の危険を感じた」などと語っており、避難に十分な時間がなかった可能性がある。

  山火事があった当時、現地ハワイはカテゴリー4のハリケーン「ドーラ」による強風に見舞われていた。また火事が発生する前、米国立気象局からは、現地に「レッド・フラッグ」と呼ばれる警報が出されていたようだ。

 何カ月も続く干ばつに低い湿度、強い風という3つの危険な条件がそろっていたためだ。

 またニューヨーク・タイムズはハワイの外来植物が強い炎をあおったと指摘8

 それによると、ハワイには家畜の飼料として持ち込まれたアフリカ原産の草がたくさん生息し、現在では州全体の4分の1近くの土地に生息する状況だ。

  研究者らは、干ばつとハリケーンによる強風、乾燥した外来種の草が山火事を悪化させたと指摘する9

 一方で、インターネット上では、山火事について気候変動の潜在的な影響を軽視しようとする、政治的動機に基づく活動家たちによるフェイク情報が拡散されている10

  彼らの主張は、今回の山火事が自然災害によるものではなく、「誰かの指示によるエネルギー兵器」や「レーザー光線」、あるいは爆発によって引き起こされたものだというもの。

フラッシュ干ばつ 世界は気候変動により、「炎の時代」に突入か

 またAP通信は、マウイ島の一部が急激なスピードで乾燥が進む、「フラッシュ干ばつ」という現象に覆われ、火事が広がりやすい状態であったのではないかという専門家の見解を伝える。

  それによると、マウイ島の一部は今年の5月では干ばつ状態でなく通常の状態であったのに対し、しかし8月に入り、急激に乾燥状態に入ったという。

 専門家は、

「降水量の少なさや蒸発の進行で地面や植物の乾燥が急速に進む『フラッシュ干ばつ』が起きたものとみられる。気候変動は異常な状況を加速させるため、洪水や干ばつの頻度が高くなる」

11 

 とする。

 一方で、今回の火事により、世界は「パイロセン(Pyrocene=火新世)」と呼ばれる「炎の時代」に突入したという見方も12

  現在のマウイ島は乾季にあたる。アメリカの干ばつモニターによると、マウイ島の一部はすでに異常に乾燥しており、中程度から重度の干ばつレベルに達していたという。

 乾燥した地帯では、干からびて枯れた植物が積み重なり、火災が起きやすくなっている。

 さらに乾いた風が辺り一帯に残っている水分も蒸発させ、状況をさらに悪化させる悪循環に。また、一般的に気候変動により大気が温暖化すると、空気はますます乾燥し、さらに水分を蒸発させる。

 他方、歴史的な要因もマウイ島を火新世に追いやる。18世紀後半にヨーロッパ人がやってきてサトウキビやパイナップルを栽培するプランテーションを形成したとき、外来種の草も持ち込まれた。

 しかし、いまでは経済状況が変化し、プランテーションは休耕地となっている。だが、外来種の草は疫病のように蔓延。

 「そのような燃えやすい外来種が、道端や集落と集落との間、家屋間など、あらゆる場所のあらゆる隙間を埋め尽くしています」

13 

 と、ある現地管理組織の人は語る。

  1. NHK NEWS WEB「ハワイ 山火事 死者96人 4万人以上島離れるなど避難の動き続く」2023年8月14日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230814/k10014162771000.html 
  2. NHK NEWS WEB、2023年8月14日 
  3. 共同=西日本新聞「ワード BOX マウイ島」2023年8月12日付朝刊、5項 
  4. REUTERS「ハワイ電力会社株急落、マウイ森林火災と関連の可能性巡り」2023年8月15日、https://jp.reuters.com/article/hawaii-wildfires-hawaiian-electric-indus-idJPL6N39V0D7
  5. 金子靖志・小林泰裕「ハワイ山火事、断線した送電線が出火原因との見方も…住民らが電力会社に集団訴訟」読売新聞オンライン、2023年8月15日、https://www.yomiuri.co.jp/world/20230815-OYT1T50155/
  6. 金子靖志・小林泰裕、2023年8月15日 
  7. 金子靖志・小林泰裕、2023年8月15日
  8. https://www.nytimes.com/2023/08/13/us/hawaii-wildfire-factors.html
  9. David R Baker「ハワイで山火事の頻度高まる、干ばつや外来植物などで状況悪化」Bloomberg、2023年8月12日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-08-11/RZ8U6UT0AFB401 
  10. シャヤン・サルダリザデフ、マイク・ウェンドリング、BBCヴェリファイ(検証チーム)「【検証】 レーザー光線、エリートの仕業……マウイ島森林火災で偽情報が拡散」BBC NEWS JAPAN、2023年8月15日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66506509
  11. NHK NEWS WEB「【11日詳細】ハワイ山火事 55人死亡 “不明者の救助に全力”」2023年8月11日、https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66506509 
  12. MATT SIMON「大規模な山火事が発生したハワイは、ついに「炎の時代」に突入した」WIRED、2023年8月12日、https://wired.jp/article/the-scary-science-of-mauis-wildfires/
  13. MATT SIMON、2023年8月12日 
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