アメリカで大規模な竜巻が発生 被害の模様 気候変動との関係は? 物流拠点を直撃

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ComfreakによるPixabayからの画像

 

 米国ケンタッキー州など南部と中西部において、10日夜から11日の未明にかけて数十もの竜巻が発生した。12日朝からも現地では救助活動が続けられているが、停電などの影響で救助活動は難航している。

           

 南部のケンタッキー州では、クリスマスシーズンを目前に控え24時間体制で稼働していた、ろうそく工場が倒壊。工場が倒壊した現場では、従業員などおよそ110人のうち40人が救助されたものの、いまだ多くの安否がわかっていない。

          

 ケンタッキー州のペシア知事は12日午前、テレビ局の番組に出演し、ろうそく工場の現場では24時間以上は生存者を救出できないと明らかにし、州における死者は100人を超える可能性を示す。

           

 ケンタッキー州以外でも、これまでに中西部のイリノイ州で6人、ミズーリ州で2人、南部のテネシー州で4人、アーカンソー州で2人が死亡し、合わせて14人の死者が確認されている。

       

 バイデン大統領は11日の演説で、今回発生した竜巻は”アメリカ史上最大級”の一つであると認識し、連邦政府として復旧支援に全力を挙げる考えを示すとした。

       

 米メディアによると、米国内の大規模な竜巻が気温の低い12月に発生することは、珍しいという。

   

目次

  • 被害の様子
  • 竜巻とアメリカ
  • スーパーセル
  • 破壊力強く、継続時間が長い竜巻が発生か?
  • 季節外れの竜巻。気候変動で被害拡大か?
  • 「スーパーセル」による竜巻 日本でも過去に被害
  • 一定の条件整えば、冬場でも竜巻発生のおそれ
  • 竜巻から身を守るポイント
  • 物流の拠点を直撃 供給網の混乱広がるおそれ
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被害の様子

      

 発生した竜巻のうち、ケンタッキー州を襲ったうちの一つは、米史上有数とされる220マイル(約350キロ)以上にわたり移動したと見られる。

           

 州知事のシビア氏は12日、州内の犠牲者が50人ほどになるという可能性を示した。ケンタッキー州で建物が全壊したろうそく工場の広報担当者は12日、8人の死亡が確認されたと語る一方、しかし絶望視されていた従業員の大半の無事が確認され、行方不明者は8人であると明らかに。

               

 多くはシェルターに集まって難を逃れていたが、現地の停電により通信の状態が悪く、安否の確認に時間がかかったという。しかしながら、工場で働く従業員が、「帰宅すれば解雇される」と証言していた。

       

 壊滅的な被害を受けたケンタッキー州のメイフィールドの中心部は、「まるで空爆を受けた」(西日本新聞12月13日付夕刊)被害であった。市中心部の建物はほぼ全滅し、天井が吹き飛んだ鉄筋コンクリートの建物、トレーラーは横転し、大木は根こそぎ倒れていた。

          

 市中心部から数百メートル離れると、竜巻の痕跡はなくなるものの、しかし停電は広範囲にわたる。街灯も信号も消え、夜はほぼ真っ暗の中、ろうそく工場では懸命な捜索活動が続く。

       

 ろうそく工場の従業員であるキアナ・パーソンズ=ペレズさんは、フェイスブックで救助を必死で求める動画を投稿していた。

       

 イリノイ州では、アマゾンの倉庫で6人の死亡が確認された。倒壊した倉庫からは45人が救助されたものの、竜巻の起きた時間がちょうど工場において従業員のシフトが代わるタイミングであったこともあり、倉庫のなかにいた正確な人数の把握が困難であるという。

           

   

竜巻とアメリカ

       

 竜巻は、発達した積乱雲にともなう強い上昇気流により発生する激しい渦巻きである。台風や寒冷前線、低気圧など積乱雲が発生しやすい気象条件下で竜巻は起きやすい。日本でも、気象庁が「竜巻注意情報」を発表している。

           

 米国では、フロリダ半島南部(北緯25度)からカナダ領にいたる範囲で、度々、竜巻の発生が見られる。反対に、西部のロッキー山脈周辺は高地となっており、竜巻の発生は少ない。

               

 日本では、北海道から沖縄にいたる全国で竜巻の発生が起こりうる。しかし、日本の国土は多くが山地であるため、海岸線沿いに竜巻が発生しやすい。

       

スーパーセル

           

 さらに今回、被害がここまで大きかった理由としては、巨大な積乱雲である「スーパーセル」が発生したからであるとみられる。

           

 スーパーセルは、非常に強い上昇気流によってできる巨大な積乱雲であり、空気が回転しながら上昇し、建物に大きな被害を及ぼすような強い破壊力をもつ竜巻をいくつも起こすのが特徴的だ。

           

 スーパーセルは巨大なため、なかなか勢力が弱体化せず、今回も長時間にわたり州をまたいで移動し、広い範囲で被害が出た。

     

破壊力強く、継続時間が長い竜巻が発生か?

               

 ケンタッキー州の周辺では、10日夜に「フックエコー」と呼ばれる「かぎ」のような形をした雨雲が確認された。これは、発達した積乱雲に特有の円を描くような小さな渦で、竜巻が発生するときにはよくみられる現象である。

               

 フックエコーによる竜巻が、ろうそく工場を襲ったとみられる。

  

季節外れの竜巻。気候変動で被害拡大か?

       

 竜巻の発生時、アメリカ南部では南西から暖かい空気が流れ込み、記録的な高温となった。テキサス州ヒューストンでは現地時間9日の木曜日と翌10日の最高気温が30℃近くまで上がった。

           

 このような記録的な暖かい場所に、上空5500m付近ではマイナス30℃以下の強い寒気が南下して大きな温度差が発生し活発な前線が形成され、その前線に沿うように積乱雲が急速に発達、周辺でも次々に竜巻が発生したとみられる。

           

 南部はもともと竜巻が発生しやすい地帯であるが、その竜巻が発生するシーズンは初夏から夏にかけてであり、この冬の時期にここまで大きな被害が出る竜巻は発生するケースは滅多にない。しかし、今回1日で発表された竜巻警報は、実に150回以上に達した。

       

 アメリカ海洋大気庁によると、現地時間の10日金曜日だけで、400件を超える竜巻や突風などの報告があったという。

           

 とくにケンタッキー州からテキサス州にかけての南側と、イリノイ州を含む北部の2つのエリアに集中して竜巻が発生していた。

 なかでもケンタッキー州では竜巻の強さを示すEFスケール(改良藤田スケール)でのうち、6段階の強い方から3番目に当たるEF3の竜巻が発生、瞬間的に秒速70m前後の突風が吹いたとみられる。しかし、今後の調査によりEF4~5と判定される可能性もあるという。

     

 日本においては、改良藤田スケールをもとに日本の建築物の状況などに合わせたJEF(日本版改良藤田スケール)が用いられている。今回のアメリカの竜巻に相当するJEF3は日本でも発生する可能性が十分にあるといい、木造住宅が倒壊するレベルだ。

       

 またNHKの取材に対し、竜巻などの気象を専門とするアイオワ州立大学ウィリアム・ギャラス教授が、「局地的な竜巻への影響を判断するのは難しい」としながらも、「気候変動によって以前は竜巻が起きなかった時期にも発生するようになる。冬場に巨大な竜巻が発生するのは気候変動の影響として予測されていることと一致する」と話す。

  

「スーパーセル」による竜巻 日本でも過去に被害

           

 スーパーセルによる巨大な積乱雲は、日本国内でも発生しており、竜巻などにより被害がもたらされている。

           

 2012年5月には、スーパーセルとみられる積乱雲が発生、茨城県つくば市などで死者やけが人が出たほか、多くの建物が全半壊する被害が出た。翌2013年9月にも、スーパーセルとみられる積乱雲にともなう竜巻により、埼玉県と千葉県で大きな被害をもたらした。

       

 2017年8月には愛知県付近でスーパーセルとみられる積乱雲が発生、民間の気象会社の解析ではおよそ6900回もの落雷が確認されたほか、落雷とみられる火災も相次いだ。

       

一定の条件整えば、冬場でも竜巻発生のおそれ           

 冬の時期に今回のような竜巻の大規模な竜巻被害はアメリカでも珍しいものの、一定の条件が整えば、冬場でも竜巻の発生は起こり得るという。

           

 実際、日本でも1990年12月に千葉県茂原市で竜巻が発生、1人が亡くなり、およそ250もの建物が全半壊する被害が出た。

            

 とくに日本では、低気圧の急速な発達に合わせ冬でも竜巻が起きる可能性は十分にあり、決して対岸の火事でもないという。

           

 急発達する低気圧が近づいたときには、ベランダにあるものを家の中に入れるなどの備えをしたり、雷の音が聞こえたり、冷たい風が吹いてくるなどしたら、竜巻が起きるサインでもる。

   

竜巻から身を守るポイント

       

 気象庁によると、日本では大気の状態が不安定になりやすい7月から11月にかけて竜巻が発生しやすいというが、さらに急速な低気圧の発達などによって冬場に竜巻が発生する可能性もあるという。

           

 日本で竜巻が発生すると、木造家屋の屋根が飛ばされたり、横倒しになったりするなどの被害が出て、亡くなるケースもある。

           

 とくに住宅の窓ガラスが割れたり屋根が飛ばされたりすると、屋内に風が入り込むとともに、割れたガラスやがれきが勢いよく飛んでくるおそれがある。

           

 こういった飛散物から身を守るためには、屋内にいた場合にはトイレや風呂場などの小さな個室で窓が小さい部屋が安全だ。

               

 そのなかでも、浴槽は基礎がしっかり出来ており、米国では過去に竜巻により住宅が跡形もなく吹き飛ばされたものの、バスタブの中にいた人が助かった事例もあるとのこと。

      

 屋外にいた場合、「あたりが急に暗くなる」という状況は巨大な積乱雲が日光を遮っているおそれがあり、あるいは「冷たい風を感じる」といったことは積乱雲の下では冷たい空気が吹き出している状況を意味している。とくに暖かい日中は、温度差を肌で感じることができる。

           

 「雷の音がする」といった状況も積乱雲が発達している可能性があり、落雷から身の安全を守る必要がある。

           

 竜巻が起きるというときは、天候が急激に変わっているときでもある。異変を感じたら、すぐにできるだけ安全な場所に避難するなど身をも守る必要がある。

   

物流の拠点を直撃 供給網の混乱広がるおそれ

       

 今回相次いだ竜巻の発生は、米国における物流の拠点を直撃するなど、アメリカ経済の流れを寸断した。とくにクリスマス商戦に向けて影響を与える可能性がある。

           

 中西部のイリノイ州にはアマゾンの物流倉庫があり、少なくとも6人の従業員が死亡した。

 また物流大手の「フェデックス」は本社がある南部テネシー州メンフィスの物流センターが大きな被害を受けたと発表、このセンターは米国南部における主要な拠点となっており、今後、大幅に荷物の配送に遅れが生じる可能性があるとし、状況を随時、ホームページで確認してほしいとする。

       

 第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣氏は、

           

物流が滞ることによって、アメリカの深刻な物価上昇に拍車が掛かって。週明けのマーケットで、リスク回避の円高株安というのは、その可能性があるということは言えると思います。そういった意味では、日本も対岸の火事とはならない可能性はあると思います

(テレビ朝日「グッド!モーニング」2021年12月13日放送)

               

と語った。

       

 北米トヨタによると、ケンタッキー州ジョージタウン市に位置する自動車工場では、11日の昼過ぎの時点では竜巻による被害の報告は入っていないとのこと。工場では8000人もの従業員が働いており、被害が出ていないか確認を進めたうえで、週明けの13日から操業を稼働するか判断をするという。

       

 だが米国では、新型コロナウイルス後の経済の再開にともない、サプライチェーン(供給網)の混乱が広がっているが、今回の竜巻の被害により、状況がさらに悪化するおそれがある。

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