懸念される新型コロナウイルス後遺症 分かっていること

医療
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Engin AkyurtによるPixabayからの画像

 新型コロナウイルス第7派の懸念が強まるとともに、コロナ後遺症の問題も改めて注目を集めている。

 日本よりも先に注目を集めるようになった海外ではロングコビット(Long Covid)とも呼ばれ、感染者の数よりもむしろ、その後の後遺症の方がより深刻であると受け止められてきた。

 欧米の先行研究や、昨年行われた東京都世田谷区の大規模な調査によれば、感染者の4人に1人が、感染症の直接の症状が治まり、PCR検査で陰性になったあとも、持続的な嗅覚・味覚の異常、全身の倦怠感、あるいは「ブレインフォグ」とも呼ばれる意識障害や記憶障害、頭痛や全身の筋肉痛、関節痛などに悩まされたという。

 このような後遺症は大半の場合、1年以内に症状が治まる傾向にあるようだが、しかし中には1年以上も症状が続き、以上のような症状を複数抱え、社会的な継続が困難になり、中には退職や解雇に追い込まれる人も目立つ。

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症状


 後遺症の症状としては、次のようなものが、同時に、あるいは複数現れるようだ。強い倦怠感、嗅覚・味覚異常、せき・たん、呼吸困難、発熱、脱毛などだ。

 第一に、強い倦怠感の症状は、人によりさまざまだという。身体的・精神的に「だるい」「疲れた」「疲れやすい」という比較的軽い症状から、「体が鉛のように重く感じられる」といった強い症状が表れ、なかには重症化し、「筋痛性脳脊髄/慢性疲労症候群」の段階へ症状が移行した人も見られた。

 第二に嗅覚・味覚異常としては、「味が分からない」「においが分からない」「本来のにおいとは別のにおいがする」など、療養後も引き続き症状が続いているという。

 第三に、激しいせき・たんが、継続するという事例がなされている。

 第四に、呼吸困難など呼吸器系の症状が持続し、中には息苦しさで日常生活に支障をきたす人もいた。

 第五に、一般的な発熱のほか、”長期間”にわたり「微熱」が続くといった事例が報告されている。

 最後に、脱毛の症状は、まず観戦中に症状が表れ、それが療養後も改善しないという報告がなされている。

 このような後遺症は、どの世代でも認められる。

分かっていること

 コロナ後遺症が起きるメカニズムについては、いまだ未解明なところが多い。ただ、単一の病態ではなく、4つの病態が複合的に絡み合ったものではないのか、と考えられている。

 4つの病態とは、

  1. 肺と心臓への恒久的な障害
  2. 集中治療後症候群
  3. ウイルス後疲労症候群
  4. 持続する新型コロナの症状

が、複数、オーバーラップし後遺症を引き起こしているのではないのか、という。

 より具体的な原因としては、自己抗体、ウイルスによる過剰な炎症(サイトカインストーム)、活動性のウイルスそのものによる障害、不十分な抗体による免疫応答などが考えられているものの、これも明確なものではない。

 後遺症の治療には、長い時間がかかる場合もあり、感染から1年が経過しても症状が見られる場合もある。

 後遺症に関するデータとしては、フランスでは回復者120人の約30%に記憶障害などの症状が見られ、米国でも約35%に症状が見られた。

 後遺症患者の男女比は女性(59%)・男性(41%)、相談者の年齢は、70代以上(5%)・60%(9%)・50代(16%)、40代(22%)、30代(16%)・20代(20%)・10代(5%)・未回答(7%)。

 コロナへの陽性判明から相談日までの経過日数が1カ月(29%)・1カ月以上3カ月未満(28%)・3カ月以上半年未満(26%)・1年以上(1%)・未回答(11%)。

 相談者の主な症状としては、嗅覚異常(32%)・倦怠感(27%)・味覚異常(25%)・発熱や微熱(18%)・呼吸困難感(15%)・せき(14%)。

 労働に対する影響力として、後遺症’(疑いを含む)の患者992人のうち、65%の人が「影響力があった」と回答、そのうち休職(396人)・時短や在宅(1102人)・休みながら就業(110人)・解雇や退職が43人であった。

 このような後遺症に対しての治療法は、対症療法が中心となる。後遺症が疑われる場合は、激しい運動や無理な行動を避け、かかりつけの医療機関や保健所などに相談する必要があるだろう。

国の対応

 この4月から、厚生労働省は新たに、後遺症の実態と影響を把握する調査を開始した。2億円の予算をかけ、具体的には国の研究班が今後の流行も踏まえ、オミクロン株の感染後にどのような症状が続いているか、や引き起こされる合併症、それらの要因などについて調査するという。

 厚生労働省は、

 今後、最新の知見をもとに後遺症とみられる患者の診察やリハビリの方法などを示した手引きを改訂、症状に悩む人が地域の医療機関で速やかに治療を受けられるようにしたいとする

そして、

「新型コロナの後遺症についてはまだ明らかになっていないことも多いが、病態の把握とともに、適切な医療につなげられるよう取り組んでいきたい

NHK WEB 2022年4月16日付

とする。

 また2022年3月まで新型コロナ後遺症を調べる国の研究班の代表を務めた高知大学医学部の横山彰仁教授は、

 オミクロン株に感染したあとで出る後遺症について、まだ詳しくは分かっていないものの、オミクロン株に感染した人はそれ以前に比べて格段に多いため、後遺症を訴える人も増えるおそれがある

NHK WEB 2022年4月16日付

とする。

海外の動き


 コロナ後遺症は、世界各地でも報告が相次いでいる。早くとも、2020年7月ごろから、欧米を中心として疫学報告がなされていた。

 イタリアでは、コロナ発症後60日の段階で、87%の患者が何らかの後遺症を訴えていた。報告では、とくに倦怠感や呼吸困難を訴える人の割合が多く、また、関節痛、胸痛、咳嗽、喀痰、嗅覚障害、眼や口腔内乾燥、結膜充血、味覚障害、頭痛、食欲不振、咽頭痛、眩暈、筋肉痛、下痢など様々な症状がみられた。

 また1733名の退院患者を対象とした中国における研究では、発症から約6ヶ月が経過したあとも、76%の患者に何らの後遺症があった。割合が多い順に、倦怠感や筋力の低下(63%)、睡眠障害(26%)、脱毛(22%)、嗅覚障害(11%)であった。研究では、重症患者ほど呼吸機能の低下を訴える人が見られた。

 スイス・チューリッヒ大学の二つの研究では、コロナ患者の成人の20〜25%、子どもの約2%が、後遺症があったとする。

 なおWHOは、後遺症について、通常、感染の疑いが強まって、あるいは感染が確認されて3ヶ月以内に発症し、少なくとも症状が2ヶ月間続くが、しかし他の病気では説明がつかない症状を後遺症であると定義する。

 また、新型コロナウイルスだけでなく、エボラウイルスやテング熱といったウイルス性疾患でも、後遺症があることが確認されている。

予防


 さて、コロナ後遺症の予防としては何ができるのだろうか。

 最大の予防策としては、もちろん新型コロナウイルス感染症に罹患しないことである。ただ、少なくとも新型コロナを「風邪」や「インフルエンザ」と同等のものとは考えてはならない。

 またワクチン接種が開始されてからも、後遺症についての調査が行われている。それによると、新型コロナワクチンを2回接種した人では、発症から28日たった時点で、症状が続いている人の割合が減少していた、という報告が海外からなされている。

 もちろん、ワクチンを接種したとしても新型コロナに感染してしまうことはあるが、後遺症が起こるリスクを減らすことはできる。

 学術的なものとしては、医学・生化学系の学術誌「Cell(セル)」の今年1月25日に掲載された論文に、

 初期のウイルス量が多かった患者に後遺症が多く見られるため、診断直後に抗ウイルス薬を投与すれば後遺症を防げる可能性がある

とした。

 イエール大学で免疫学を研究する岩崎明子教授は、

 ウイルスを早く消滅させれば、後遺症の原因と考えられる持続感染や自己免疫疾患も抑えられる

ニューヨーク・タイムズ、2月1日付

と語った。

支援の動き

 おもに職場などで新型コロナに感染し、労災だと認められる人がいるなか、コロナ感染症に苦しむ兵庫県の男性が、労災の認定を受けていることが分かった。

 国は、後遺症に関する症状も労災の対象に当たるとして、相談してほしいと呼びかけている。

 コロナ後遺症として労災が認められたのは、兵庫県内の特別養護老人ホームで理学療法士として勤務する40代の男性。

 男性は、老人ホームの利用者が新型コロナに感染して濃厚接触者となり、2020年12月にPCR検査を受け感染が判明、その後に労災と認められた。

 男性は2カ月近く療養しいったんは職場復帰したものの、強い倦怠感や息切れ、味覚障害などが続いて症状は悪化、2021年4月から再び休職した。

 医師からは、正式に新型コロナの後遺症であると診断された。男性が改めて労働基準監督署に申請したところ、

 こうした症状は業務で感染した新型コロナとの因果関係が認められる

 などとし、同年8月に労災が認められる。男性は今も働けない状態が続き、一緒に暮らす妻と5歳の娘の支援を受け、自宅療養を続けている。

 国は、コロナ後遺症にあたるケースも労災なるとして、同じような症状で悩みを抱えている人に対し、労働基準監督署に相談するように呼び掛けている。

参考文献

忽那賢志『新型コロナ後遺症 現時点で分かっていること、Yahoo!ニュース、2021年9月12日、https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210912-00257800

『「コロナ後遺症」相談相次ぐ 実態と影響は? 厚労省が調査開始』NHK WEB、2022年4月16日付、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220416/k10013585121000.html

『コロナ後遺症を甘くみてはいけない』マル激トーク・オン・ディマンド (第1088回)、ビデオニュース・ドットコム、2022年2月12日、https://www.videonews.com/marugeki-talk/1088

『コロナ後遺症を引き起こす「4つの因子」の正体 初の科学研究で対処の方向性が見えてきた』The New York Times、2022年2月1日、https://toyokeizai.net/articles/-/508087
『情報BOX:新型コロナ後遺症、これまでに判明した実態とは』ロイター、2021年10月8日、https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-longcovid-idJPKBN2GY09B

『新型コロナウイルス感染症後遺症について』COVID-19有識者会議、2021年5月28日、https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6466

『新型コロナウイルスの後遺症について』東京都、
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/soudan/longcovid_leaflet.files/leafletA4.pdf。

『スイスで進むコロナ後遺症の学術研究』swissinfo.ch、
2021年8月13日、
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9-%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E5%BE%8C%E9%81%BA%E7%97%87-%E7%A0%94%E7%A9%B6/46862890

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