世界で「サル痘」が拡大 原因不明の子どもの小児肝炎も 21世紀は感染症の時代へ

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 世界で「サル痘」が異例の拡大をしている。WHO(世界保健機関)は27日の総会で、動物由来のウイルス感染症サル痘が従来において継続的に発生してきたアフリカ以外にも広がっていることは「異例」とし、警戒を訴えた。

 サル痘は欧米を中心に20カ国以上で約200人以上の患者が確認。WHOは、今後の見通しについては「不明」としながらも、増加のおそれがあるとする。

 WHOで感染症の予防対策を行うブリアン氏は、ウイルスはアフリカで確認されたものと同じ型で、変異して拡大したわけではないと指摘。

 急速に広がった新型コロナとは異なり、一般市民が心配しなくてはいい病気だ

共同通信、2022年5月27日

と冷静な対応を求め、とくに渡航の制限措置などは勧めないとした。

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サル痘とは


 人類の歴史上、少なくとも3000年にわたり命や視力を奪うなとしてきた天然痘を約40年前に根絶してきたことは、公衆衛生史上最大の功績のひとつとされてきた。しかし、それにともなう「ワクチンプログラム」が、今再び見直されようとしている。

 アフリカで宿主の動物から人間へ感染し、1970年代からたびたび流行してきた「サル痘」の拡大もその帰結であろう。最近の感染拡大において、イスラエルやオーストラリア、アルゼンチンなどでも確認されている。

 サル痘は、1958年に最初に発見される。研究用に飼育されているサルのあいだで天然痘に似た集団感染が発生したことが、名称の由来だ。だが、サルは感染源ではない。

 サル痘は、天然痘よりも伝染力が低く、症状も軽い。WHOによれば、致死率は天然痘が30%前後であるのに対し、サル痘は約3%から6%程度だ。

わかっていること


 サル痘について、分かっていることは以下の通りだ。

 症状は、1~2週間の潜伏期間を経て、発熱や筋肉痛、倦怠感といったインフルエンザのような症状を引き起こす。ただ天然痘とは異なり、リンパ節の腫れをともなう。

 発熱から数日以内に発疹が出現し、顔から体の他の部分に広がる場合が多い。発疹は、水疱・嚢胞化したあとにかさぶたとなり、目に症状が表れた場合は失明の原因となるおそれがある。

 症状は通常、2~4週間つづく。子どもや若年の成人では致死率が高く、免疫不全の基礎疾患がある人は、重症化リスクはあるという。

 感染はヒトの間では広がりにくい。主な感染経路は、感染した動物や患者、ウイルスに感染したものとの接種。具体的には、ウイルスは皮膚の傷や気道、目、鼻、口の粘膜から体内へ侵入することが分かっている。

 宿主となる動物はまだ特定されていない。1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトへの感染が確認された。患者は9歳の少年。それ以後、ヒトへの感染の大半は、中央・西アフリカの熱帯雨林の地域であった。

パンデミックのおそれはあるか?


 今回のような、アフリカ以外の地域のサル痘の感染は極めてまれだ。2017年以降に他の地域に流入した事例でも8例のみで、通常は国外渡航者が絡んだものだった。

 しかしながら、ヒトからヒトへの感染について、サル痘のウイルスの遺伝子について感染力が増すような変異があるのではないか、との懸念は多くの研究者はもっている。

 ポルトガルの研究者が23日に公表したレポートによれば、最近採取されたウイルスのDNAの配列には、ウイルスの自然進化を考慮した場合について予想されるよりも多くの突然変異が起きていたという。 

 ただ、こうした遺伝的な変化が何らかの臨床上、重要なのかはまだわかっていない。

海外の事例


 BBCの報道によれば、23日時点で、サル痘の感染者は欧米や中東を中心に、世界15カ国に拡大した。イスラエルとスイスはそれぞれ、最近海外渡航していた1人の感染を特定したと公表。イスラエルではさらに複数の感染疑いがあるとして調査している。ほか、米国やカナダ、オーストラリアでも感染報告が相次いでいる。

 研究者は今回の感染拡大に驚いているものの、一般市民へのリスクは低いと指摘。英国の国民保健サービス(NHS)も、感染してもほとんどの人は数週間で回復するとする。

 一方、WHOは調査中だと説明するものの、さらに多くの感染者が確認される可能性があると警告した。

 バイデン大統領も、

(ウイルスはより広く拡散すれば)重大な事態になる

と述べ、

 誰もが懸念すべきことだと

と付け加えた。

 サル痘は5月初めに英国で確認されたあと、欧州全体で検知。スペイン、ポルトガル、ドイツ、ベルギー、フランス、オランダ、イタリア、スウェーデンで患者が確認された。

 WHOのハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は、人々は集まりやすい夏にかけて、「感染が加速する」可能性があると警告する。

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日本の対応


 岸田首相は30日、参議院予算委員会で、サル痘について、自治体や医療機関に対する報告の依頼や、水際対策、効果があるとする天然痘ワクチンの生産と備蓄の取り組みを進めていくと強調した。

 そのうえで、

 今後とも情報収集に努めながら、監視をしつつ、対応を検討していかなければならない

TBS NEWS DIG、2022年5月30日

との認識を示す。

 一方、後藤厚生労働省大臣は、天然痘ワクチンの備蓄などの情報については、

 危機管理上の理由から、ワクチンの種類や量、製造販売業者、備蓄場所などについては、公表を差し控える

TBS NEWS DIG、2022年5月30日

とした。

 日本国内においては、1976年を最後に天然痘のワクチン接種は行われていない。ただ、2001年の米国多発テロ事件を受け、国は当初、約250万人分の天然痘ワクチンの備蓄を開始している。

 仮に国がワクチン接種に踏み切った場合、どのような人が接種の対象となるのか。サル痘は、呼吸器感染症である新型コロナウイルスやインフルエンザのように一気に広がる感染症ではないため、接種対象者は限られそうだ。

 ただ、感染者の濃厚接触対象者に事後的に接種したり、感染者を治療する医療従事者にあらかじめ接種することも考えられている。英国では、医療従事者や濃厚接触者への接種を推奨し、すでに接種体制を整えている。

 現在、国内の天然痘のワクチンをサル痘の予防に使うことは薬事承認がなされていない。ある厚労省幹部は、毎日新聞の取材に対し、

 初期対応としてどれぐらいの量を持っていればいいのかは判断が難しい。天然痘として準備しているものを活用することは選択肢の一つだと思う

毎日新聞、2022年5月27日

と語っている。

サル痘以外にも 原因不明の子どもの肝炎急増


 急増している感染症は、サル痘だけではない。欧米を中心に、子どもの原因不明の急性肝炎が相次いでいる。日本でも、16歳以下の患者24人が確認された。

 ただ、厚労省は患者が急増している英国や米国とは異なり、「明らかな増加傾向」とは見ていない。

 世界中で原因の究明がなされているなか、コロナ禍における感染対策や、感染歴との関連が指摘されている。

 原因不明の小児肝炎は4月、まず英国で増加が報告、以後、各国に広がった。欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、欧州を中心に米国やイスラエル、中南米など約30カ国で600人を超え、14人が死亡している。

 厚労省も昨年10月以降の国内における症例を調べ、24人が確認された。このうち、5月5日までに確認された男女7人の年齢の中央値は8歳。地域的な隔たりはなく、肝移植や死亡にまでいたった例もなかった。

 患者の増加が著しい英国では、小児肝炎患者の7割からアデノウイルスが検出された。アデノウイルスは、のどの痛みや胃腸炎、結膜炎を引き起こす。

 英国健康安全保障庁(UKHSA)は、新型コロナとの間接的、直接的な影響についての仮説を立てた。間接的な影響については、コロナ禍での厳しい感染対策によりウイルスにさらされる機会が減り、免疫が備わっていないという説。

 直接的な影響は、コロナ感染による免疫システムの変化と関係。オミクロン株による感染で、アデノウイルスが幹細胞に侵入しやすくなっているという考え方がある。また、そもそも新型コロナは肺だけでなく、肝臓への影響も起きやすい。

21世紀は、感染症の時代へ


 いずれにしろ、21世紀は感染症の時代に突入した。感染症とは、ウイルスや細菌、真菌などの病原体が体の中に侵入することで引き起こされる病気のことをいうが、21世紀の社会構造そのものが、相次ぐ感染症を招いているおそれがある。

 たとえば、アフリカのごくわずかな風土病に過ぎなかったエボラ出血熱、メキシコでの発生からわずか2カ月で世界的な流行を引き起こした新型インフルエンザなど、環境破壊や地球温暖化、都市化による人口過密、交通機関の発達などが感染症拡大の”引き金”となっている。

 また、地球温暖化により永久凍土が融けると、それにともない、有害な細菌やウイルスが大気中に放出され、人体に影響を及ぼす可能性も。

 とくにスイスのアルプスの永久凍土では約1000種類もの微生物が確認されているが、その実態は定かではない。

参考文献

swissinfo.ch『新たなパンデミックは氷の中に眠る?』2020年5月26日。

ブルームバーグ『「サル痘」とは何か、感染はどのように広がったのか-QuickTake』2022年5月24日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-05-24/RCBGYDDWX2Q201

TBS NEWS DIG『マスク生活で免役力低下か? “サル痘”感染 世界で広がる【ひるおび】』2022年5月24日、https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/52917?display=1

東京新聞『子どもの「原因不明」肝炎、国内24人確認 新型コロナと関連指摘も 欧州中心に拡大』2022年5月25日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/179325

金秀蓮、小鍜冶孝志『サル痘に有効とされる天然痘ワクチン 日本も備蓄、活用方法を検討』毎日新聞、2022年5月27日、https://mainichi.jp/articles/20220527/k00/00m/040/303000c

ロイター『サル痘感染、世界20カ国超で約200人確認 WHOが監視強化呼びかけ』2022年5月27日、https://jp.reuters.com/article/health-monkeypox-who-idJPKCN2NC1P3?utm_source=pocket_mylist

テレ朝NEWS『”サル痘”ふせぐ天然痘ワクチン「国内で生産備蓄」』2022年5月27日、https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000256125.html?utm_source=pocket_mylist

共同通信『サル痘拡大「異例」と警戒 WHO、患者200人に』2022年5月27日、https://nordot.app/902908882239143936?utm_source=pocket_mylist

TBS NEWS DIG『【速報】岸田総理、サル痘について「情報収集に努め監視を」』2022年5月30日、https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/57604?display=1