第94回アカデミー賞結果 多様性と包括 そして分断も進んだ

 今年行われたアカデミー賞は、様々な意味において歴史的な授賞式となった。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ウクライナ出身の俳優ミラ・クニスが登壇し、同国への支援を呼びかけたほか、ウィル・スミスの平手打ちが論議を呼んだ。

 第94回アカデミー賞授賞式は現地時間3月27日にハリウッドのドルビー・シアターで行われた。

 冬季オリンピックとの関係で、例年とは1ヶ月遅れた授賞式。主催する映画芸術科学アカデミーは昨年の視聴率が過去最低だったことを受け、放送時間を3時間以内に収めるため、一部の賞の発表を事前に実施。

 ただ、結果的に今回の授賞式の視聴率は過去2番目に少なかった。

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ハイライト

 ほんの数年前までは「白すぎるオスカー」と言われたアカデミー賞。同じ映画関連の賞であるゴールデン・グルーブ賞がいまだその風潮から脱却できないなか、アカデミー賞は確実にその流れを変えた。

 今回の授賞式の“歴史的瞬間”は早々にやってきた。スティーヴン・スピルバーグ監督作「ウエスト・サイド・ストーリー」でアニタ役を演じたアリアナ・デボーズが助演女優賞を受賞。

 LGBTなどに属さない、性的少数者クィアを公表する有色人種が受賞したことは初めてだと自身でスピーチ、ヒスパニック系だけでも2人目だ。

 そして、スピーチでは、

 自分のアイデンティティについて、少しでも、ちょっとでも疑問に思ったことがある人、あるいはグレーゾーンに住んでいることに気がついてしまったすべての人へ。約束します。私たちの居場所は確かにあるのです。

と語った。

平手打ち

 他方で、今回のアカデミー賞においては、いまだに米国社会の”分断“が進んでいることをあらわした。

 それは、ウィル・スミスのクリス・ロックに対する”平手打ち“に対する反応において表出する。

 「暴力は許されない」という意見は一致するものの、脱毛症を告白していた妻への侮辱に怒った行為としてのウィル・スミスへの同情の度合いは、米国では低所得層ほど高いという調査結果も出た。

 調査機関ブルー・ローズ・リサーチが2000人以上に「どちらかより間違っていたか」をインターネットによるアンケートしたところ、52.3%がクリス・ロックであると答え、ウィル・スミスだと答えた47%を上回る。

 さらに所得別では、年収15万ドル(約1800万円)以上は54.2%がウィル・スミスであると答えたのに対し、2万5000ドル(275万円)以下で63.4%がクリス・ロックであると答えた。また高学歴な人ほど、ウィル・スミスには否定的でもあった。

 ジェンダー認識についての問題が、所得や学歴により分断され、さらに米国社会の分断へと結びついている。

作品賞

 作品賞はネット配信系としてAppleが始めての受賞を獲得。「コーダ あいのうた」は、元はインデペンデント系の中規模な作品として製作されたあと、Appleが権利を買い取った。

 ノミネート段階で作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門だけの候補にもかかわらず、嫌われない好感度を追い風に、賞レース終盤で浮上。

 同じ配信業者でもあるNetflix製作で12部門ノミネートされていた「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を破って受賞した。

 3部門しかノミネートを果たしていない作品が作品賞を受賞するのは、実に90年ぶりのこと。

 先行して映画界に作品を送り出してきたNetflixやAmazonに追い抜く形でAppleは栄誉を得た。

 ただ、日本でギャガが権利を獲得したため、現時点で劇場公開のみとなっている。

監督賞

 監督賞には昨年の「ノマドランド」のクロエ・ジャオに続き、女性が2年連続受賞。最多12部門ノミネートを成し遂げた、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を監督したジェーン・カンピオンが自身、2度目のオスカーを獲得。

 1度目は、日本でも話題となった「ピアノ・レッスン」(1994年)の脚本賞受賞。

 ニュージーランド出身。作品の撮影もニュージーランドで敢行された。近年はテレビドラマ業に専念していたため、13年ぶりの映画制作となった。

 ジェーン・カンピオンはニュージーランドのウェリントン出身。二つの大学を卒業後、映画の制作を学びながら作った「ピール」(1982年)が第39回カンヌ国際映画祭の短編映画部門パルムドールを獲得。

 1989年に「スウィーティー」長編映画デビュー、翌年の「エンジェル・アット・テーブル」がベネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞。

 「ピアノ・レッスン」では女性初のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したほか、アカデミー賞監督賞候補にもなった。

主演男優賞

 主演男優賞は、ウィル・スミス(「ドリーム・プラン」)が獲得。「平手打ち」は物議を醸したが、直後の自身が受賞した際のスピーチのことも考えてのことだろう。それほど、今回の彼の受賞は確実視されていた。

 過去にモハメド・アリを演じた「ALI アリ」(2001年)、「幸せのちから」(2006年)でノミネート。

 ほか、「インディペンデンス・デイ」や「メン・イン・ブラッグ」などハリウッドどころか世界的なヒット作を含め、ドル箱スターかつ性格俳優として業界への貢献は大きかっただけに今回のトラブルは残念だ。

 米国、ペンシルベニア州出身の53歳。10代のころからラッパーとして活躍し歌手としてもグラミー賞ほか数々の賞を受賞。

 1990年代にテレビに進出したのを皮切りにハリウッド映画にも本格的に出演。2000年代に入り、アカデミー賞にノミネートされるようになった。

主演女優賞

 ノミネート俳優が出演した作品が、1本も作品賞候補とならなかった今年。票の行方が最後まで読めなかったが、蓋を開けてみれば盤石の強さを誇ったのが、ジェシカ・チャスティン(「タミー・フェイの瞳」)

 テレビで大きな布教活動を展開した実在の著名な宗教活動家・伝道師タミー・フェイを、チャスティンは自らプロデューサーを務めつつ、徹底的な役作りをして演じきった。

 過去に「ヘルプ」 ~心がつなぐストーリー」(2011年)で助演女優賞、「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年)で主演女優賞にノミネート。3度目のノミネートにして初の受賞となった。

 カリフォルニア州出身。名門ジュリアード音楽院の演劇部門で学び、舞台を中心にキャリアをスタートした。

 テレビドラマ「ER X 緊急救命室 (第10シーズン)」(2004年)、「ヴェロニカ・マーズ(シーズン1)」(2004年)などに出演し、2008年に「ジョリーン(原題) / Jolene」で映画デビュー。

 2011年にブラット・ピッド主演、テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」に抜擢されたことで大きな注目を集めた。

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助演男優賞

 助演男優賞には、「コーダ あいのうた」を作品賞に導いた最大の立役者ともいってよいトロイ・コッツァーが受賞。

 当初、この部門は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のコディ・スミット・マクフィーが有力視されていたが、賞レース終盤のSAGアワード(全米俳優組合賞)を受賞。オスカーでも勝利した。

 手話はもちろん、演技面においても迫真の演技が今回の「コーダ旋風」を呼んだ。ろうあ者の俳優としては2人目のオスカー受賞者となった。

 ちなみに最初に受賞したのは、「コーダ」の共演者である女優のマーリー・マトリンだった。

 53歳。生活面おいて苦労しながらも、最後まで俳優業をやめなかったすえの受賞となる。SAGアワードでの手話による受賞スピーチが共感を呼び、支持は広がった。

助演女優賞

 助演女優賞でも歴史的なことが起こった。1961年のオリジナル版で同じ役を演じたリタ・モレノに続き、アリアナ・デボーズが二代続けての受賞。

 31歳。これまでは主に舞台で活躍。映画デビュー作となった本作で、見事オスカーを射止めた。

 性的少数者クィアを公表している有色人種として初めての受賞。かつアフロ・ラテン系としても貴重な勝利となった。

 米国ノースカロライナ出身。2009年にオーディション番組「アメリカン・ダンスアイドル」でテレビに初出演。2011年に「チアーズ!」でブロードウェイデビューを果たす。

 以降、「Summer: The Donna Summer Musical」(2017年、2018)の主演でトニー賞にノミネートされたほか、大人気ミュージカルを映像に収めた「ハミルトン」(2020)にも出演した実績を持つ。

国際長編映画賞

 国際長編映画賞では、前哨戦を含め盤石な強さを誇った「ドタイブ・マイ・カー」が文字通り、圧巻の強さを発揮。日本映画として2009年の「おくりびと」以来、13年ぶり5作目の受賞となった。

 本来、今年は世界各国の巨匠たちが撮った作品が勢ぞろい、激戦が予想された。ところが、蓋を開けてみたら、この部門だけでなく作品賞・監督賞・脚色賞など主要3部門にもノミネートされ、受賞は100%とも言ってよい状態だった。

 アップテンポなアクション映画がハリウッドを席巻するなか、静かに、かつ奥深い作風で3時間もの長丁場を飽きさせない作風が評価。また、コロナ渦で身近な人を失った世界中の人たちの心をつかんだといえるだろう。

 濱口竜介監督は43歳。東日本大震災のドキュメンタリー映画を自主制作として3本撮ったのを皮切りに、神戸での映画講座の一環として制作された「ハッピーアワー」(2015年)も海外の映画賞を獲得していた。

 本作は、「寝ても覚めても(2018年)に続く商業映画2作目。製作会社は、TSUTAYAグループのC&Iエンタテインメント。

 なお、日本映画の過去のアカデミー賞外国語映画賞受賞作として、「羅生門」(1952年)、「地獄門」(1955年)、「宮本武蔵」(1956年)、「おくりびと」(2009年)がある。

その他の賞

 その他の賞としては、007シリーズ最新作の主題歌を歌ったビリー・アイリッシュに注目したい。ビリー・アイリッシュは、映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」のテーマ曲である「ノー・タイム・トゥ・ダイ」で歌曲賞を受賞。

 まだ20歳のため、21世紀生まれで初めてのオスカー受賞者となった。

 「ノー・タイム・トゥ・ダイ」は、007シリーズで初めてのなる米国人ソングライターによる楽曲。

 ビリー・アイリッシュとフィニアスは、「メリー・ポピンズ』の「チム・チム・チェリー」(1964年)でロバート・B・シャーマンとリチャード・M・シャーマンが同賞を受賞して以来のきょうだいでの受賞となった。

 なお、007シリーズでは、2012年の「スカイフォール」のアデル、2015年の「スペクター」のサム・スミスに続き、3作連続でアカデミー賞歌曲賞を獲得したことになる。ダニエル・クレイグが卒業した以降の次回作の主題歌も、より一層、注目が向けられるだろう。