混迷する福岡県第3の都市・久留米市長選のゆくえ 保守分裂 5年連続の水害 求められる”公共性”の創出

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  「久留米が真っ二つになる・・・」。

 1月23日に投開票(16日告示)される福岡県第3の都市・久留米市の市長選挙は、保守分裂選挙となる様相を呈してきた。

現職の大久保勉市長は昨年10月にわずか1期限りでの退任を表明、それを受け、元県議会副議長の十中大雅氏(68)、市議の原口新五氏(61)、医師の細川博司氏(61)の新人3人が名乗りを上げた。ただ、十中氏と原口氏は両名ともに自民党員である。

 久留米市を含む衆院福岡6区選出の鳩山二郎衆院議員が、十中氏を支持する一方、その鳩山氏と対立する自民党議団の一部が原口氏の支援へと回る。その結果、党を二分する分裂選挙となる見込みだ。保守系市議も二分する形となり、支援団体の囲い込みや切り崩しなど、前哨戦も過熱している。

 前回4年前の市長選では、与野党系や県農政連、久留米商工会議所、連合福岡など「オール久留米」の支援態勢により、大久保氏が初当選したが、同氏の不出馬で構図は一変。

 そもそも、鳩山氏と県議団は、これまでも対立を繰り返してきた。きっかけは、鳩山氏が初当選した2016年の衆院福岡6区補選にまでさかのぼる。その時点で、公認をめぐり県議団を中心とする県連と関係が悪化していた。

 和解へ向けての協議が何度かまとまりかけてはいたが、しかし、いずれも破談する。このような軋轢が解消されないまま、両者は福岡県内の首長選などで、たびたびぶつかり合う。

 過去2回の小郡市長選で鳩山氏の支援する候補が勝利した一方、県議選小郡市・三井郡区では自民公認候補が鳩山氏の元秘書を破った。昨年11月の筑後市長選においても党が分裂。県連の重鎮である蔵内勇夫県議(筑後市区)が支援した県連推薦の新人が、藤丸敏衆院議員らが推す現職に敗れた。

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これまでの経緯

 久留米市政は、2期目を目指すとみられていた大久保勉市長のまさに予想外の不出馬で混迷する。大久保氏は地元・久留米市出身。しかし高校卒業後は久留米市を離れ、米国の投資銀行で勤務するなど、海外や東京での生活が長かった。2004年から2016年まで2期、参議院議員を務めてきた

 そこから、満を持しての久留米市長の座に就く。しかしながら、大久保氏は毎月の地元経済人と開く朝食会において、「次期市長選には出馬しない」と語っていたという。

 そのうちのある参加者は、

 久留米商工会議所会頭・本村康人氏との付き合いに閉口したようだ。こんな「田舎者たち」とは付き合いきれないというのが本音ではないだろうか!

と漏らす。

 大久保氏自身も、1期で退任する理由について、

市長は何年やるかではなく、何をやるか。4年間を3倍速でやってきた。

と述べた。

 一方で、「同族支配」との声も上がる。その批判が向けられているのは、自民党福岡県連会長の原口剣生県議会議員と、弟である原口新五元市議会議長。

 新五氏が、久留米市長選挙に出馬する意向であることを周辺に伝えたことから、「一族で久留米市を牛耳るつもりか」「原口一族による久留米支配だ」などと反発が広がった。

 県政界関係者は、新五氏は、自民党県連の幹部を訪ねて世間話程度の話をしたあと、勝手に「市長選出馬へのお墨付きをもらった」などと建設業界の支持者や市議会の同僚らに報告。これはすぐに嘘であると露見したが、出馬への意思は固かった。

 しかし、すでに原口兄弟の3人の兄弟が議員バッジを付けている 一番下の弟である新五氏が市議で、次兄の剣生氏が県議。加えて長兄の原口和人氏も久留米市議だ。市議、県議に加え、市長まで当選すれば、原口兄弟勢ぞろいとなる。

 対する十中氏をめぐっても非難の嵐だ。十中氏が県議会副議長という要職にあったにもかかわらず、議会に相談することなく、正式な手続きを経ずに市長選への出馬を表明したため県政が混乱。

 鳩山氏と同じ衆院福岡6区を含む大川市・三潴郡区選出の秋田章二県会議長はもちろんのこと、県議会全体が副議長の行動に激怒、ことの顛末を暴露したのち、十中氏を厳しく非難する「決議」を出すという、前代未聞の騒ぎに発展したのだ。

久留米市とは

 久留米市は、広大で肥沃な筑後平野を、九州で一番大きな川である筑後川が北東部から西部にかけて流れ、東部には耳納連山がそびえ立つ。

 1889(明治22)年に全国の30の市とともに、日本で初めての市制を施行し、人口24,750人の市としてスタート。

 その後、何度かの合併を繰り返し、2005(平成17)年2月のいわゆる「平成の大合併」時に、近隣の田主丸町、北野町、城島町、三潴町との合併により、人口30万を超える。

 さらに、2008(平成20)年4月からは、九州では県庁所在地以外で唯一なる中核市として位置づけられた。

 中核市とは、都市の人口規模などにより、都道府県の事務権限を市に移譲する制度のひとつ。このような制度としては他に「政令指定都市」があるが、政令指定都市の指定要件が「人口50万人以上」であるのに対し、中核市は「人口20万人以上」となっている。

 ただ、人口だけでなく、都市としての規模や機能など、一定の要件を満たせば、中核市として国から指定される場合もある。

 2022年現在において、中核市は全国に62市存在する。この中核市に指定されると、その市単独で、飲食店の営業の許可や浄化槽設置の届出受理などの保健衛生に関する事務や、養護老人ホームの設置認可をはじめとする福祉に関する事務手続きをすることが認められる。

 あるいは、産業廃棄物に関する環境保全に関する事務や、屋外広告物の設置の制限などの都市計画についての事務が可能だ。

 他方、東京都には「東久留米市」が存在する。もとは、1889年に久留米村として誕生したが、名称は市内を流れる「黒目川」が転じて名付けられたという説が有力だ。

 1970(昭和45)年に市制が施行させるが、福岡県久留米市との行政上の混同をさけるため、西武鉄道池袋線の駅名「東久留米」から、現在の市名となった。

市長村長の役割と権限

 市長村選挙で当選すると、「市長村長」と呼ばれる市町村の首長に選出される。その役割は、地方自治法や地方公務員法により定められている。

 身分としては、「特別職地方公務員」という公務員職であるが、地方公務院法により規制を受けない身分となる。

 市長村長については、満25歳以上の日本国民に被選挙権がある。ただし、禁錮以上の刑に処せられた人、公民権が停止されている人などは、対象外となる条件が存在。選挙権については、その該当する市町村に3ヶ月以上、住まないとならない。

 市町村長の任期が4年で、市町村長は兼務できない職業であり、それは国会議員やほかの地方自治体の議員、常勤の職員に該当する。

 また、その自治体との利害関係にある企業については、企業の責任者を含む、企業幹部と交流は禁止されている。だたし、第三セクターや、民間でなく公営の企業の場合は例外ともなる。

 市町村長に対しては、住民は、「リコール」と呼ばれる解職請求を行うことができる。リコールは、住民投票により行われる。

 また自治体の議会が市町村長に対し不服のある場合は、不信任決議をすることができる。不信任決議のときは、まず議会の本会議において3分の2以上の議員が出席し、かつ出席している議員数の4分の3以上の賛成が得られた場合に、不信任案は成立。成立した場合、首長が議会の解散または10日以内の退任を選択することになる。

 ただ、議会を解散した場合でも、再会後の議会において、改めて不信任案決議が提出された場合、出席している議員の半数以上に賛成で、また不信任決議が成立することになる。

 市町村長の職務としては、市町村の予算にかかわる業務を行うこと、条例の設定にかかわる業務を行うこと、議会において議決すべき問題について議案を提出することなどはがある。

 ただ、議会で議決された内容について不服がある場合は、「拒否権」を発動し、再度その議案を議会で審議させることができる。拒否権を行使した場合、議案が議会で3分の2以上の賛成で議決した場合は、確定となる。

 議決した内容が違法であると疑われる場合は、都道府県知事に対して議決の再審査を依頼することができる。

久留米市の課題

 久留米市は、ここ5年連続で水害の被害を受けた。とくに市内の農業算出額の4割超を占める野菜の主要な産地でもある北野町は、本来は、野菜畑が広がり、ビニールハウスが立ち並ぶが、最近は何も植えられていないハウスが目立つ。

 水害の被害に加え、コロナ禍による入国制限で、技能実習生の確保も難しくなった。もともと北野町は、農地を集約化しやすい平野部に位置し、大規模化や法人化も進み、高い生産力を誇ってきた。

 しかし、農地を分散すると、人手も余計にかかるという。人口の減少や高齢化も農業を圧迫。農林水産省によると、2020年の市内の農業従事者は6694人で、10年前と比べ、4割近く減った。平均年齢は60.9歳で、65歳以上が49%を占める。

 「平成の大合併」による弊害も目立つ。田主丸町の船越校区は、市の東端に位置し、市役所の本庁舎からの距離は20キロもある。市内の全46校区の中で最も遠い。

 さらに市中心部へ続く国道も慢性的に渋滞している。「久留米・うきは工業団地」を行き来する車両や観光客などに対応しきれていない。

 新しく道路を整備しようとしても、国道沿いには古くからの街並みが広がり、交差点に右折レーンを新設する面積がない。政令指定都市なら持っている国県道の維持管理業務に関する権限は、久留米市のような中核市は持つことができない。

 このため、市は国道の北側を併走する筑後川の堤防道路を整備し、渋滞を緩和しようとしたが、抜本的な混雑解消には至っていない。

 そもそも田主丸町の住人は、市役所本庁舎への“心理的な距離“も感じている。合併時には、「田主丸町の副都心化」も掲げられたのに、だ。

求められる“公共性“の創出

 ここ5年連続で水害に見舞われた久留米市は、その対策が急務だ。ただでさえ、地球温暖化による気候変動は、平均気温の上昇以前の問題として、熱波や大雨、干ばつといった異常気象の影響をもたらすことがわかっている。

 異常気象の原因は、そもそも大気や海流に影響で起きる内部変動と、外部からの要因があるとされる。原因が内部変動だけなら、長期的には平均化されるが、しかし日本国内の雨量の変化をみても、世界の平均気温をみても、明らかに異常であることは間違いない。

 さらにいうなれば、もはやこのような異常気象は“日常“となり、すでに「適応するか死ぬか」の段階に来ている。

 このような水害への対策として、「グリーン・インフラ」という対策がある。これは、国土の適切な管理や質の高いインフラの整備を推進し、自然と共生する社会を実現する取り組みのこと。

 グリーン・インフラには、

・防災、減災、国土強靭化

・地域振興、地方創生」

・生態系、環境保全

の3つの機能がある。

 道路の舗装は人々の生活の利便性を向上させたのは事実であるが、一方で地面に吸収されない雨水が下水道や川に直接流れ込んでしまい、それが豪雨のときに河川の氾濫などにつながってきた。

 久留米市と同じような都市水害に悩まされてきたニューヨークでは、10年前から、このグリーン・インフラの計画を打ち出し、街に緑を増やす取り組みを進めてきた。

 たとえば、それまでアスファルトがむき出しだった道路脇の側溝を緑化させ、あるいは花壇を設置することで、そこに道路に降った雨水が流れ込む構造となっている。

 そもそも日本の地方自治には、“公共性“というものが欠如している。欧米圏では基本的に、この社会は3つの空間により形成されていると解釈されている。プライベート(私的)な空間、オフィシャル(公的)な空間、そしてパブリック(公共的)な空間だ。

 欧米人が電車の中で居眠りをしないのは、まず前提として、電車内が不特定多数の人間により構成される「パブリック」な空間であり、そこで「寝る」というプライベートな行為は許されないからだ。

 あるいは、コロナ禍の中で、欧米圏で飲食店などや外出制限などのロックダウンが実施される法的な根拠としては、まず第一に街という空間が「パブリック」な空間であり、そこに私権が入り込む余地などないとされるためだ。

あるいは、昨年2021年に公開された米国のドキュメンタリー映画「ボストン市庁舎」では、ボストンを舞台に「市民のための市役所」のあるべき姿が映し出されている。

 映画に登場するマーティン・ウォルシュ市長は、「とにかく困ったことは電話をください」と市民に呼びかけていた。

 他方で日本はどうか? ついこの前、1月10日は110番の日だった。その日にニュースになったのが、緊急性がない「困った110番」通報であった。

「今、新宿にいて、渋谷まで行きたいんですけど、道案内をお願いできますか?」
「パソコンの調子が悪い」
「酔っ払ったから、家まで送ってくれ」
「テレビのリモコン、落ちちゃったので拾ってください」

など。

 しかし、このニュースを取り上げるメディアに、「なぜこのよう110番通報が警察に寄せられるか?」という視点を持った報道は皆無だった。

 ただ、ニュースは、「学校の道徳のお勉強」でない。何でも、個人の“マナー“に帰結させ自己責任を訴えるメディアは、消えてなくなれば良い。

あるいは、「ボストン市庁舎」を見て、“公共性“というものの、お勉強をしてもらいたいものだ。

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