「サル痘=ゲイの病気」という誤解と偏見は危険 かつてエイズもゲイの病気とされた アメリカではエイズの拡大初期、対応を放置 病気と差別とはどのようにして結びつくのか

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 日本でも先週、2例目の感染が確認されたサル痘をめぐり、かつての「HIV=ゲイが感染する病気」と、同様の風潮が起き始めている。

 HIVのときのゲイ=病気みたいな風潮が、またおきるのではないかとやっぱり怖くて。

TBS NEWS DIG 1、8月1日

とTBSテレビに語るのは、五十嵐隼人さん。ゲイであることを公表しているが、

「サル痘が流行ってるからゲイは禁止にしよう」

「絶対にサル痘にはなりたくない。ゲイ認定されるとか屈辱の極み」

TBS NEWS DIG、8月1日

という書き込みを目にした。

 サル痘の感染者の多くが男性の同性愛者であるため、現在、サル痘は「ゲイの病気」という誤解と偏見が広がりつつある。

 しかし、そうした偏見はむしろ、感染を広める要因になりかねない。

 事実、かつてのエイズも、ゲイが感染する病気とされた 2。エイズは、1981年にアトランタの防疫センター(CDC)で、初めて公式に確認。

 以降、全米各地で同様の症例が確認されたものの、これらの患者はいずれもゲイであったため、当初、アメリカ社会はエイズの感染拡大に無関心であった。

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エイズとは何か


 1981年6月5日、アトランタのCDC(防疫センター)は、1980年10月から81年5月までの間に、ロサンゼルスの病院で5人の男性から「カリニ肺炎」の症例が確認されたと発表。これが、エイズの最初の公式確認となった。

 同年の7月になると、今度はニューヨークとカリフォルニアで26人の男性が「カポジ肉腫」と診断。このうちの4人はカリニ肺炎とも診断。

 以降、全米の各地で同様の症例が相次ぐも、これらの患者はいずれも男性同性愛者(ゲイ)であった。

 カリニ肺炎は本来、免疫力の弱い未熟児や高齢者にみられる病気であり、これまで成人の男性が発症することはほとんどない。

 カポジ肉腫も、それ自体がかなりめずらしい癌であった。これらの患者は免疫のシステムが正常通りに機能していないことがわかる。

 ただ、1981年8月に女性の麻薬常用者の患者でカリニ肝炎の発症例が報告されるも、これは都合よく無視され、”ゲイの病気”という側面ばかりだけが強調。一時、この病気は、「ゲイの癌」とも呼ばれた。

 ただ同じころに、血友病患者の発症例が報告、以後、異性愛者の症例や、血友病患者の妻の発症などの報告がつづく。

 それにもかかわらず、エイズの「ゲイの病気」というイメージが払拭されることはなかった。


病気と差別とはどのように結びつくか


 病気は差別と強く結びつくが、しかしすべての病気が差別の対象となるわけではない。

 たとえば、C型肝炎ウイルスは、その感染経路がHIVと同じで、あるいは感染力はHIVよりも強く、1989年まではウイルスの正体すらもわからなかった。

 そのため、有効な治療法もなく致死性も高かったものの、C型肝炎患者がエイズ発症者のような差別の対象とはならなかった。

 アメリカの作家・社会活動家のスーザン・ソンタグは、ある種の病気には、その具体的な症状とは別個に”隠喩(メタファー)”が付随し、それにより、その病気に対する恐怖心も伝染するとする 3

 つまり、ある種の病気には、「穢れ」や「恐れ」、「罰」といったさまざまな”負の物語”がまとわりつきやすい。

 エイズについては、”外国”、アメリカの場合はアフリカやハイチであり、日本ついてはアメリカからやってきたものであり、「恐れ」といった感情がまとわりつく。

 さらに異性愛者にとってはゲイが感染を広げたとみなされ、「穢れ」「罰」の対象となった。

 HIV感染については、「リスク・グループ」という言葉がある。これは本来、感染する可能性が高いグループを意味する言葉であるが、日本では初期、HIV感染を引き起こす可能性が高いグルーとしてゲイや、性産業に従事する人たちが差別の対象となった。

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アメリカは初期、エイズの感染拡大を放置 最初に立ち上がったのはゲイたちだった

 1995年の秋までにアメリカのエイズ発症者は50万人にのぼり、そのうち31万人が死亡した。

 アメリカでは1992年のエイズによる死者が25~44歳の男性の死因の1位となり、1995年には男女合わせた同年齢の死因でもトップとなる。

 ここまでアメリカでHIV感染が広がってしまったのは、当初、エイズがゲイの病気であるとして、政府やメディア、そして市民の大多数がまったく無関心であったために、初期対応が大きく遅れたためである。

 もともと宗教的・ピューリタン的伝統が強く、性に関して保守的なアメリカでは、感染の拡大初期、ゲイがエイズで死んでいくには「自業自得」であるとして、自分たちに関わる問題であるとみなされなかった。

 このようななか、最初に行動を起こしたのはゲイたちであった。次々に友人やパートナーが死んでいくのを目の当たりにし、感染者や発症者への支援、エイズに関しての情報や知識の獲得と普及に乗り出す。

 その結果、1980年代の半ばにはゲイの間で新たにHIVに感染するケースが明らかに減少していった。

 エイズも、そしてサル痘についても、そして新型コロナウイルスについても、感染者・発症者が恐怖の存在ではない。

 差別と偏見とをなくし、誰もが感染する可能性がある病気であるとして、“共生”する社会をつくることが求められるのだ。

  1. TBS NEWS DIG 「「ゲイ=病気みたいな風潮が…」広がりつつあるサル痘めぐる誤解と偏見 専門家「差別とか偏見をなくすのが大事」」2022年8月1日、https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/111561?display=1 
  2. 石元清英「エイズ」伊藤公雄・橋本満[編]「はじめて出会う 社会学 社会学かカルチャー・スタディ」有斐閣、1998年 
  3. スーザン・ソンタグ、富山太佳夫[訳]「隠喩としての病」みすず書房、1982年