米アメフトNFLの試合中で”心停止” 「過去数十年で最悪の事態」 アメフトと故障 2010年代は”脳震盪問題”で大揺れ

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eileenplohによるPixabayからの画像

 米アメリカンフットボールリーグNFLで、2日、悲劇的なことが起こった。

 バッファロー・ビルズとシンシナティ・ベンガルズの試合で第1クオータ中にビルズのダマー・ハムリン選手(24)が守備中にタックルを仕掛けた後に、転倒、一時は心停止となった。

  直後の救命措置で心拍は戻ったものの、集中治療室(ICU)に入り、現在も危篤状態にあるという。

  いまや、メジャーリーグをこえる全米NO.1プロスポーツとなった一方、激しいコンタクトプレーによる怪我や脳震盪をめぐる批判にさらされるつづけるNFL。ニューヨーク・タイムズ紙は、

 「NFLにとって過去数十年で最悪の事態の1つ」

1 

と報道。

  シンシナティでの一戦。第1クオータ5分58秒でその悲劇は起こった。ハムリン選手は、全速力で突っ込んでくる相手選手をタックルで止め、頭と胸を強打。すぐに立ち上がったものの、2歩歩いたところで、後ろに倒れた。

  現地メディアによると、倒れてから10秒ほどでチームトレーナが駆け付け、救命処置を開始。救急車もすぐにフィールドに乗り入れ、ハムリン選手を大学病院に搬送。

  CNNによると、心拍はフィールド上で回復したとされるが、病院で鎮静剤を打たれ、人工呼吸器を使用しているという2

 家族の広報担当者が4日明かしたところによると、ハムリン選手は1度だけ蘇生。3日に2度蘇生したと述べていた3。心停止の原因は詳細には分かっていない。ニューヨーク・タイムズ紙は、

 「アメフトに内在するリスクを改めて思い起こさせた」

4 

と指摘する。

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「マンデーナイト」の悲劇 

  悲劇は「マンデーナイト」と呼ばれる、月曜日にNFLのなかで1試合だけ選ばれる特別な一戦中におきた。

 レギュラーシーズンの中でも高い視聴率をたたき出し、対戦カードによっては、メジャーリーグのワールドシリーズの視聴率さえ、上回ることもある。

  昨シーズンのスーパーボウル進出チーム(敗退)のベンガルズと、今シーズンのスーパーボウル制覇が有力視されるビルズという好カード、そしてベンガルズ地区優勝やプレーオフ本拠地開催権を占ううえでも重要な一戦だった。

 テレビ中継は、数百万人が視聴したとされる5

  ハムリン選手の搬送後、試合は中断。両リームのヘッドコーチ同士がフィールド上で話し合い、審判団とも協議して、試合は結局、延期となった。

  搬送までの間、両チームの選手はサイドラインに下がって集まり、ビルズの選手は輪になって無事を祈った。ビルズの複数の選手は涙を流す。

  ハムリン選手は1998年3月24日生まれの24歳。ピッツバーグ大学で活躍し、2021年のドラフト6巡212位でビルズに指名されて入団した。185センチ91キロと大型で、ビルズでは先発セーフティーとして今季は全試合に出場。

  米メディアNBCは、アメリカ心臓協会に所属する専門医の話として、ハムリン選手が「心臓振盪(しんとう)」となった可能性があると指摘6

 心臓振盪(しんとう)とは、胸部に衝撃が加わったことにより、心臓が停止してしまう状態のこと。

  NBCによると、アメリカでは、野球、ホッケー、ラクロスなどのスポーツで、年間15~20回程度、心臓振盪(しんとう)の事案が発生しているという7

アメフトと怪我

 アメリカンフットボールは故障が多いのは紛れもない事実。たとえば、以下のスポーツ安全協会のデータがある。

 

画像
スポーツ安全協会調べ(2016~2017)

 数あるスポーツの中でも、アメリカンフットボールの事故率(怪我が発生したアクシデントの発生率)が最も多い。ラグビーよりも高く、柔道や相撲と比較しても多い。

  上記の事故発生率は、保険に加入している人の数の母数に、保険適用する怪我は発生した件数の割合。つまり、「保険適用に値する怪我」が多い順に並んでいる。

  要は、アメリカンフットボールにおける怪我は、保険適用するに値するほど大きな怪我が発生しやすいということを意味する8

  アメリカンフットボールで怪我が多い理由について、防具を装備しているから”こそ”の理由があるという9。防具があるために100%の力でお互いがぶつかり合ってしまうこと。

  ラグビーは、防具なしで肉体同士がぶつかるため、お互い急所を外してタックルしたり、本能的にも意識的にもコントロールできる部分が。

  しかしアメリカンフットボールの場合は、硬い防具を身にまといながら全力でヒットするため、怪我をした際の身体への負担は大きいと考えられている。

  アメリカンフットボールに怪我の種類は以下の通りだ10

 怪我の種類   パーセント

・捻挫     28.9%

・筋、腱損傷  17.9%

・打撲     7.5%

・脳震盪    7.4%

・骨折     5.6%

・脱臼     1.8%

・その他    30.9%

2010年代は”脳震盪問題”で大揺れ

 振り返れば、2010年代、NFLは脳震盪の問題で、まさに存亡の危機にさらされた。その詳細は、ウィル・スミス「コンカッション」でも描かれる。

 「コンカッション」は、米「GQ」誌掲載後に出版された同名のノンフィクション作品を映画化。

  原作は、NFLの元スター選手の遺体を解剖したナイジェリア出身の医師が、何度も激しいタックルによる脳震盪がもたらす新たな病気を発見、危険性を指摘するも、エンターテインメント性を重視するNFL側は問題を黙殺。

  しかしながら、やがて国民的関心事となり、最後にはNFLへの集団訴訟にまで発展していくというもの。

  医師が発見した病気は、「慢性外傷性脳症」と呼ばれる。頭部への反復する脳震盪といった傷害が原因となり、認知症に似た進行性の脳症を引き起こす。

 最初にボクサーで似たような症状が見られたことから、パンチドランカーとも称されることも。

  実際、元NFL選手の何人ものがうつ病を発症し、自殺まで追い込まれた事例が報告。

 慢性外傷性脳症の場合、頭部への現役時代の何万回もの衝撃の受けた数年から数十年後、記憶力の低下、攻撃性、錯乱、抑うつ状態など、認知症に似た症状が見られる。

  これらの症状は悪化することにより、社会生活だけでなく、日常生活も困難に。しかし、アルツハイマー病やパーキンソン病との識別が困難。

  この疾患は、アメリカンフットボールだけでなく、アイスホッケー、サッカー、プロレスリング、野球、剣道などのスポーツでも見られることが分かっている。

  1. 東京新聞「タックル後に倒れ危篤状態に 米NFLのダマー・ハムリン選手 「過去数十年で最悪の事態」」2023年1月4日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/223433
  2. CNN「試合中に心停止のNFL選手、「好転の兆し」見せるもICUでの治療を継続」2023年1月5日、https://www.cnn.co.jp/showbiz/35198176.html
  3. CNN、2023年1月5日
  4. CNN、2023年1月5日
  5. 東京新聞、2023年1月4日
  6. 日テレNEWS「アメフトNFLの試合中に心停止となった選手 “心臓振とう”の可能性と米メディア」Yahoo!ニュース、2023年1月4日、https://news.yahoo.co.jp/articles/e5704bf0546a97e33040a18970d6f068534ed152
  7. 日テレNEWS、2023年1月4日
  8. セカンドエフォート「アメフトに怪我は付き物!?怪我率が高い理由について徹底解説」2022年8月13日、https://second-effort.com/column/injury-rate/
  9. セカンドエフォート「アメフトに怪我は付き物!?怪我率が高い理由について徹底解説」2022年8月13日、https://second-effort.com/column/injury-rate/
  10. 大学アメリカンフットボールにおける傷害調査- 10 年間(1999 年から 2008 年)の傷害報告-(福田 崇氏・宮川俊平氏・松元 剛氏)
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