全国的に麻疹(はしか)の感染拡大が懸念されている。国立感染症研究所は13日、感染力が強い麻疹の今年の国内感染者が、6月4日時点で14人になったと発表。このうち、近畿地方での感染者が5人を占めている。
4年ぶりに大流行する可能性が懸念されており、医師は、「予防のためにはワクチン接種を」と呼びかけている。麻疹の感染力は、季節性インフルエンザの10倍とも1。
免疫を持たない人が感染するとほぼ全員が発症し、発熱やせき、発疹などが出る。
感染症研究所によると、感染者は都道府県別で、東京5人、大阪3人、兵庫2人、北海道、茨城、千葉、神奈川で各1人。
日本は、2015年に土着の麻疹ウイルスの排除に成功している2。しかし、その後も海外からの流入により、2019年には全国で744人の感染者を出す。
その中でも、大阪では百貨店などで集団感染が発生、全国で最多の149人の感染者を出した。
麻疹の流行は海外でも。昨年12月、米オハイオ中部で流行、50人以上の子どもが感染し、入院者も多数発生した3。一部の子どもは、スーパーや教会、ショッピングモール内の百貨店を訪れて感染していたこともわかっている。
WHO(世界保健機関)によると、2021年の世界の麻疹症例数は59,168例。過去3年間の症例数は2018年は276,157例、2019年は541,247例、2020年は93,789例であり、減少傾向にあった。
しかし、新型コロナウイルスの流行が始まった当時、ほとんどの人が自宅にこもり、医療機関も閉鎖されたため、多くの子どもが、MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)ワクチンなどの予防接種を受けることができなかった。
そのため、コロナ禍のパンデミック(世界的大流行)に起因する世界的な予防接種率の落ち込みが懸念される。
麻疹とは
麻疹は麻しんとも呼ばれ、麻しんウイルスにより引き起こされる急性の全身感染症4。麻しんウイルスの感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染であり、ヒトからヒトへ感染が伝播し、その感染力が非常に強いという。
免疫を持っていない人が感染するとぼぼ100%が発症し、一度感染して発症すると、一生、免疫が持続するとされる。
麻疹は過去、日本で2007年から2008年にかけ10~29代を中心に大きな流行がみられた。
そのため、2008年から5年間、中学1年と高校3年相当の年代に2回目の麻しんワクチン接種を受ける機会を設けたことで、2009年以降、10~20代の患者数は減少した。
2010年11月以降の日本の感染状況につては、海外由来のみけであった。そのため、2015年3月27日、WHO西太平洋地域事務局により、日本が麻疹の「排除状態」であると、認定される。
麻疹は感染すると、約10日後に発熱やせき、鼻水といった風邪にような症状が現れる。2~3日熱が続いたあと、39℃以上の高熱と発疹は現れる。肺炎や中耳炎の合併も引き起こしやすく、1000人に1人の患者の割合で脳炎を発症するとも。先進国であっても死亡率は1000人い1人という。
その他の合併症としては、10万に1人程度と頻度は高くないものの、麻しんウイルス感染後、とくに児童期に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる中枢神経疾患を発症することもある。
麻疹は感染力が強く空気感染もするので、手洗い、マスクのみでの予防はできない。予防接種が最も有効な予防法だ。
また、麻しんの患者に接触した場合、72時間以内に麻しんワクチンの接種をすることで、麻しんの発症を予防できる可能性がある。
なぜ感染が拡大?
東京都は5月12日に都内の男女2人が麻疹に感染していると発表。都内で感染が確認されたのは2020年以来だ。
感染者
5
都内の30代女性
都内の40代男性
症状
発熱・発疹・せき
経路
同じ新幹線のグリーン車
4/23 のぞみ50号
感染が確認されたのは、都内の30代の女性と40代の男性。 いずれも発熱や発疹、せきの症状があって、医療機関を受診したところ感染が確認、女性は5月10日に、男性はその翌日の11日に、医療機関から届け出があった。
この2人は面識はなかったが、都が感染経路を調べたところ、共通することがあった 2人とも、4月23日に同じ新幹線のグリーン車に乗っていたことが判明する。
この車両は、新神戸駅を午後6時52分に発車し、東京駅に午後9時33分に到着する東海道・山陽新幹線の、のぞみ50号の9号車で、インドから帰国後の4月27日に感染が確認された茨城県の30代の男性も乗車していた。 都は、この男性がきっかけで、2人が感染したとみている。
都内のワクチンの接種率は、2021年度では1回目が93.9%と前年を5.2ポイント下回り、集団免疫を得る目安となる95%を下回っているほか、2回目も93.2%と前年を0.8ポイント下回っているという6。
その理由としては、コロナ禍で、保護者が医療機関での感染に不安を感じ、接種を控えるケースが増えたことや、小児科の発熱外来がひっ迫して、一時的に接種の予約が取りづらくなったことが要因とみられる。
ワクチンギャップ
はしかはウイルス性の感染症で、感染力がとても強い。空気感染するので、同じ部屋や電車内にいただけでもうつる恐れが。全ての人が免疫を持っていないと仮定した場合、1人の感染者が何人に感染を広げるかを示す「基本再生産数」は、12~18人と考えられている7。
麻疹は感染力が強く空気感染もするので、手洗い、マスクのみでの予防はできない。ワクチンが最も有効な予防法といえる。
麻しん含有ワクチン(主に接種されているのは、麻しん風しん混合ワクチン)を接種することで、95%の人が麻しんウイルスに対する免疫を獲得することができるという。
また2回の接種を受けることで、1回の接種では免疫が付かなかった人の多くも、免疫をつけることができる。
ただ、麻疹に限らず、中には定期接種を打ち損じた場合や幼少時期にワクチンが病気予防のために、ワクチンギャップが生じてる人もいる。以下は、麻しん(麻しん、MRワクチン)のワクチンギャップだ。
1972(昭和47)年9月30日以前生まれ
1回も接種していない可能性が高い年代。1978年(昭和53年)10月1日から定期接種が開始されているが(対象者は生後12ヵ月から72ヵ月)、自然感染によって免疫を十分に持っている人以外は,合計2回のワクチン接種が推奨される。
1972(昭和47)年10月1日~1990(平成2)年4月1日生まれ
定期接種としては1回しか接種していない年代。特例措置(*)非対象者のため、免疫を十分持っていない可能性がある。これまでに合計2回の接種を受けていなければ、追加接種が推奨される。
1990(平成2)年4月2日~2000(平成12)年4月1日生まれ
特例措置対象者(*)に相当する年代。接種率が低かったため,対象時期に2回目の接種を受けおらず、これまでに合計2回の接種を受けていなければ、追加接種が推奨される。
2000(平成12)年4月2日以降生まれ
定期接種として2回接種を受けている年代。これまでに合計2回の接種を受けていなければ追加接種が推奨される。
※特例措置: 2008(平成20)年4月1日から5年間の期間限定で実施された措置のこと。麻しん風しん混合ワクチンの定期接種対象者が第3期(中学1年生相当)、第4期(高校3年生相当)にも拡大され、2回目のワクチンが接種可能となった。
- 読売新聞オンライン「はしか、4年ぶりに流行の恐れ…大阪・兵庫でも感染者」2023年6月13日、https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20230613-OYO1T50022/
- 読売新聞オンライン、2023年6月13日
- CNN「米オハイオ州ではしか流行、世界的な予防接種率の低下に懸念」2022年12月7日、https://www.cnn.co.jp/usa/35197042.html
- 厚生労働省「麻しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html
- NHK 首都圏ナビ「東京都内 麻疹(麻疹)なぜ感染?症状や感染経路 予防接種は?」2023年5月15日、https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230515b.html
- NHK 首都圏ナビ、2023年5月15日
- 金秀蓮「空気感染するはしか、厳戒の感染症 「免疫なし」なら容易に拡大」毎日新聞、2023年5月17日、https://mainichi.jp/articles/20230517/k00/00m/040/191000c