ハマス、イスラエルを攻撃 「アルアクサの洪水」 ハマスとは? ガザ地区「天井のない監獄」

中東
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hosny salahによるPixabayからの画像

 10月7日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルへの攻撃を開始。イスラエル側も激しい空襲で応酬し、これまでに双方で2100人を超える死者を出す。

 イスラエル側は、

「これはイスラエルにとっての911だ」

1 

と、今回の攻撃をアメリカで起きた同時多発テロになぞらえる。

 ハマスによる奇襲攻撃が行われた7日はユダヤ教の重要な祭日の最中で、イスラエルにとっては不意を突かれた形に。さらに前日の6日は、50年前にイスラエルが突如、エジプトとシリアによる攻撃を受けて始まった第4次中東戦争の開戦日。

 その日はユダヤ教徒にとって最も重要な贖罪の日「ヨム・キプール」でもあった。

 戦闘の規模はイスラエルが受けた攻撃としては、50年前の第4次中東戦争以降、最大規模とされる。

 イスラエルのガラント国防相は9日、「ガザ地区を完全に包囲する」としてイスラエルからガザ地区への電力の供給を止めるなどと発表し、ハマスに対する圧力を一段と強める。

 さらにイスラエル軍は、2014年にガザ地区に大規模な地上部隊を侵攻させたときの5倍近くの30万人の予備役の動員を発表するなどしている。

 他方、ハマス側は大規模なロケット弾による攻撃に加えて、戦闘員がイスラエル側に侵入、多くの兵士や市民を連れ去った。人質の数は100人以上ともされる。

 人質の中には外国人も含まれており、ハマスとしてはイスラエル側の報復作戦を牽制するほか、イスラエル側にとらえられている拘束者との交換などにもつなげる狙いがあるとも。

 イスラエルとエルサレムをめぐる問題は、欧米各国にとっては個人や国家規模でのアイデンティティを含む問題だ。他方、日本はその点、本来は独自外交をできる立場にある。しかしながら、今回のイスラエル危機では、やはりというべきか、“対米追従”の枠をはみ出せない。

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アルアクサの洪水

 ハマスは今回の奇襲攻撃の作戦名を「アルアクサの洪水」とした。アルアクサとは、エルサレム旧市街にあるイスラム教の聖地「ハラム・アッシャリフ」にある「アルアクサ・モスク」のこと。

 この聖地をめぐっては、同じ場所にかつてユダヤ教の神殿があったとされることから、イスラム教徒とユダヤ教徒の間の火種になってきた。ハマスによる攻撃は、7日午前6時半ごろはじまる。

 発射されたロケットの数については、ハマス側は5000発以上、イスラエル側は2200以上だとする。それと前後し、戦闘員がイスラエル側に侵入。

 もともとガザ地区は、イスラエルが建設した壁やフェンスに囲まれ”封鎖”されている。しかし英公共放送BBCによると、検問所を含む7カ所をハマスの戦闘員が突破したと分析。

 このうち、空から侵入しあっとする動画では、複数の戦闘員が、動力付きのパラグライダーを使いイスラエルが建設したコンクリートの分離壁を越えていく様子が写っている。

 また、イスラエルとガザ地区の間の行き来を管理するエレズ検問所で撮影されたとされる映像では、分離壁で大きな爆発が起きたあと戦闘員たちが走って行く様子や、施設のなかで激しい銃撃戦が起きている様子が記録されていた。

 そして、フェンスごと爆破してそこから武装した戦闘員を荷台に乗せた複数の車がイスラエル側に侵入しているような動画も。さらに8日に公開された映像では、複数の戦闘員が海とみられる場所でボートに乗り水面を進む様子がとらえられている。

 一方、イスラエルは近年、サイバー戦争や情報収集、先端兵器に軸足を移しており、軍は比較的ローテクな地上攻撃によって不意を突かれた形だ。

 また、最近のイスラエルの軍事的関心はヨルダン川西岸に向けられ、イスラエルはパレスチナ武装勢力の反乱を鎮圧するために西岸へ軍部隊を派遣していた2

 いずれにしろ、“世界の警察”であるアメリカの力が弱まる=「G0後の世界」を示す。

ハマスとは

 今回、イスラエルに大規模な攻撃をしかけたハマスとは、パレスチナのガザ地区を実効支配する武装組織。2007年にガザ地区を掌握して以降、イスラエルと何度か交戦してきた。

 イスラエルは1948年に建国された。ヨーロッパなどで迫害されたユダヤ人たちが、祖先の土地に国をつくる運動をはじめ、移住した場所がパレスチナだった。しかし建国にともない、パレスチナ人(アラブ人)は故郷を追われる。

 そして反発するパレスチナ人をアラブ諸国も支援し、イスラエルとの戦争が繰り返されてきた。

 1993年、イスラエル政府とPLO(パレスチナ解放機構)は、米ホワイトハウスで「オスロ合意」に調印。イスラエルと、独立したパレスチナ国家が共存する「2国家解決」を目指す方向性が打ち出される。

 しかしながら、パレススチナ人が住んでいた土地にユダヤ人が無理やり住宅などを建設してしまう入植の問題や、双方が首都として主張するエルサレムの帰属など、さまざまな難題は「将来の交渉」として先送りされる。

 その後も、双方による襲撃事件や軍事衝突が後を絶たず、交渉は破綻。パレスチナ自治区は、パレスチナ自治政府が治めるヨルダン川西岸と、ハマスが実効支配するガザ地区に分裂。

 イスラエルは、2007年にガザを封鎖。アメリカが仲介する和平交渉も、2014年から中断する。

 ハマスは、イギリスのほか、アメリアや欧州連合(EU)が「テロ組織」に指定している。一方、英BBCはハマスについて、「パレスチナのイスラム武装勢力」などと呼んでいる。

 他方、BBCの編集指針では、「テロリスト」という呼称について「むしろ理解を妨げるものになりうる」と指摘し、「何が起きたかを描写し、視聴者に行為の結果を伝えるべきだ」と規定する3

 日本のメディアも、安易な「テロリスト」という表現は慎むべきだ。

天井のない監獄

 ガザ地区はよく、「天井のない監獄」と表現される。長さが50kmほどの細長い地形で、大きさは鹿児島県の種子島くらいの場所に、200万人を超える人たちが住んでおり、世界で最も人口密度が高い場所の一つともいわれている。

 2007年から続くイスラエルによる封鎖により、人や物資の移動は制限されており、貧困率や失業率が高く、多くの問題を抱える。世界銀行のデータ(2020年4月)によると、ガザの人たちの50%以上が貧困状態にあるとされている。

 ハマスによる攻撃は、アメリカのバイデン政権がイスラエルとサウジアラビアとの関係正常化に向けて仲介に動く中で起きた。そのため、アラブ系住民のイスラエルへの反感を放置したままの正常化に反発し、ハマスが妨害を試みた可能性も指摘される4

 一方、ハマスの今回の攻撃により、ヨーロッパ諸国でパレスチナ支援の在り方が再検討されてきている。 欧州連合は切れ目のない支援の継続を表明したものの、各国で立場が割れ始めている5

 パレスチナ支援団体は危機感を募らせる。欧州最大規模の「パレスチナ連帯キャンペーン」(本部・ロンドン)のベン・ジャマール代表は朝日新聞の取材に対し、

「支援の打ち切りは全てのパレスチナ人を傷つけることになる」

6 

と語り、

「ハマスとパレスチナ人は区別すべきだ」

7 

とした。

 やはり、ハマスを「テロリスト」とレッテル張りしている場合ではない。諸悪の根源は、やはりイスラエルがパレスチナの土地を“搾取”している点にある。

 さらにいえば、アメリカでされネイティブ・インディアンの土地を搾取してきた。同じ過ちは繰り返してはならない。

  1. 小島明・田村佑輔「イスラエルにイスラム組織「ハマス」が大規模攻撃 何が起きた?」NHK国際ニュースナビ、2023年10月10日、https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2023/10/10/35010.html
  2. Rory Jones and Dion Nissenbaum「イスラエルが備えていた「別の戦争」」THE WALL STREET JOURNAL、2023年10月11日、https://jp.wsj.com/articles/israel-was-prepared-for-a-different-war-f68d7b01
  3. 藤原学思「ハマスを「テロリスト」と呼ぶべきか BBC「むしろ理解妨げる」」朝日新聞デジタル、2023年10月12日、https://www.asahi.com/articles/ASRBD20Z2RBCUHBI04K.html
  4. 吉田通夫「ハマスの暴発はバイデン政権の中東外交が引き金? イスラエルとサウジアラビアの関係正常化を妨害か」東京新聞、2023年10月10日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/282847
  5. 藤原学思・宋光祐・杉山正「対パレスチナ 欧州に温度差」朝日新聞、2023年10月12日付朝刊、11項
  6. 藤原学思・宋光祐・杉山正、2023年10月12日
  7. 藤原学思・宋光祐・杉山正、2023年10月12日
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